1.プロローグ

それは、北海道へ避暑に行った、夏休みも半ばを過ぎた頃だった。
従事である秋山純は、主人であり、従兄弟でもある堂本光一から突然とんでもない事を聞かされたのだった。

「いや〜北海道は涼しいね〜。宿題も捗るよ。なぁ、光一君」
「…お前見てると何だか暑いよな」
「酷くね?それ酷くない?」
「それより、秋山」
「何?」
「宿題はやる必要がない」
「は?どうして?」
「あの学校には戻らへんからや」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・沈黙・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「え〜!!!どうして!!!なんで!!!だって、あの学校は光一君のお父様である「堂本家」当主が創設なさった由緒正しき学校で、各界のトップクラスの生徒だけが集まってる、言わば誰もが一度は覗いてみたい!入ってみたい!と思うエリート校じゃないか!!そんな素晴らしい学校に戻らないなんて、光一君どうかしてるよ!!」
一気にまくし立てて、肩で息をしながら迫ってくる秋山から、近づいてきた分だけ遠ざかり、光一は笑った。
「お前は近くで見ちゃダメだろ」
「その話題はいいんだよ!!話を変えるな〜!!」
「…。俺がどうかしてる?それよか、説明文みたいな長〜い能書きを一気にまくし立ててるお前の方がどうかしてるんやないか?」
誰に説明してんだ?お前。
「だから、話がずれてんだってば!!」
秋山が一層光一に迫った瞬間
「ちょっとアッキー!!僕の光一君に近づかないで!!」
物凄い勢いで駆け込んでくる一人の少年。殺気に満ちた目で秋山を睨んでいる。
「俺はいつからお前のモンになったんや、町田」
「僕のお父様と光一君のお父様が決めたんじゃない僕達は「許婚」になる運命で生まれてきたんだもの♪」
「お前が女に生まれとったらそうやったかもしれん、って話やろ」
「そ、それでも!光一君のお父様は僕を本家に迎え入れてくださったんだもの!僕は一生光一君についていく!!」
軽くウルウルした目をさせながら、町田はギュっと手を握り締める。
「な、泣くなや〜町田。わかってるって。お前はずっと一緒やな?」
慌ててなだめる光一の言葉に、町田はコロっと表情を変え、天使のような笑顔で「うん」と頷いた。
「あのさぁ〜」
後ろから、ヒョコっと覗く小さな影。
「何より、光一君にたいして、あんな口の聞き方をしている事が一番まずいんぢゃないの?」
分派の身分なのに…アッキー、懲罰モンだね。
可愛い容姿とは裏腹に悪魔のような笑顔で笑った。
「屋良っち、それはもしかして、アッキーは「お仕置き部屋」行きって事?」
町田はクルっと顔を屋良に向けた。
「そうだよ、町田さん。だって、アッキーは光一君に向って、あ〜んな言い方とかこ〜んな言い方とかしちゃったんだもの」
「そうだよね、しかも分派の身分なのに、光一君にあんなにくっつくなんて、僕に言わせれば許しがたい大罪だよ」
「どうしよっか。僕、お母様にいいつけちゃう?」
ニッコリと笑う屋良。
「じゃあ、僕はお父様に言いつけちゃう♪」
一緒にニッコリ笑う町田。
「う、うるさ〜い!お前等!!屋良っちだって、分派でしょ!町田さんだって、本家に入れるってだけで、本家の人間じゃないんだから、俺と一緒なの!わかる?」
焦って説明する秋山に
「そんな事を言ってるんじゃないもん。アッキーが光一君にひど〜い言葉遣いをしたって事を言ってるんだもん」
「そうだそうだ!屋良っち、もっと言ってあげて!」
「二人とも、俺を苛めて遊んでる場合じゃないんだって!!」
「え〜!!ぢゃあ、どんな場合なのさ」
言ってご覧よ。
偉そうに腕を組む屋良。
光一君の前で、そんな態度を取るほうがダメなんじゃないか、と思いつつも秋山が続けた。
「光一君、学校に戻らないって言うんだ」
一瞬の沈黙のあと、二人は顔を見合わせて…
「「え〜!」」
と、それは別荘中に響き渡るような叫び声を上げた。
ドサッ!!と後ろの廊下で音がした。
「何?」
町田がビクっとして、屋良にしがみつく。
「なんだろね」
そういいながら、屋良もしがみつき返す。
「…米花、落ちたンとちゃうか?アイツでも落ちる事があるんやな〜バネやのになぁ」
光一が笑いながら告げた。
同時に聞こえる怒声。
「うるせーよ!二人とも!!折角寝てたのに、ビックリして天井から落ちたじゃねぇか!」
「つーか、うっさい!ヨネ!!ビビらすな!!バカ!!」
「そうだそうだ!屋良っち、もっと言ってあげて!」
「…町田さん、さっきからそればっかり」
「アッキーは黙ってて!」
「…ガキ」
突如聞こえた吐き捨てるような米花の言葉に、二人は更にキーキーと言い出し、それを見てオロオロアワアワとする秋山だが、止めようにも止まらない。終いには光一が「しゃ〜ないなぁ」といって止めに入った。
いつもこのパターンなのだ。
「大体、忍者だからって、天井で寝るのが悪いよね〜」
「そうだよね〜。お行儀悪いよね〜」
まだ納得のいってない二人がブツブツと囁きあってる横で、米花は秋山に尋ねた。
「で、何をあんなに驚いてたわけ?」
「そ〜なんだよ!やっと話が進むよ!!聞いてくれよ!光一君が、学校へ戻らないっていうんだ!!」
「は?」
米花は目を丸くして光一を見た。
「そんなに驚く事やないやろ。あの学校へは戻らへん。そう決めたんや」
「でも…どうするんですか?戻らないっていったって…」
米花の問いかけに
「別の学校へ行く」
「は?」
聞き返した米花の言葉を遮るように秋山が叫んだ。
「別の学校〜?なんでわざわざ!!いいじゃない!今の学校でセレブな学生生活を満喫し放題なのに!」
「それは、お前にとってはえぇかもしれんけどな」
光一は苦笑しながら続けた。
「あんな場所、人間の通う場所ちゃうわ。キショイねん。気取った喋り方とか、虫唾走るっちゅーねん!」
「あ〜それ、ちょっとわかる」
ボソっと屋良が呟いた。
「屋良っちには今聞いてない!」
秋山がビシリと言うと
「…アッキー、酷い」
屋良が両手に顔をうずめる。
「アッキー、何屋良っち泣かせてるの!」
屋良と抱きしめ、ギっと睨む町田…の腕の中には、軽く舌を出している屋良の姿。秋山は全く気付いてはいない。
「…ご、ごめん!屋良っち。怒ったわけじゃないんだ!」
オロオロしている秋山をよそに、米花が話を進めた。
「当主様にはどうご説明されるのですか」
「もう話した」
「え?話したって…当主様に何とおっしゃったんですか?」
「社会勉強やって」
「で、当主様は…」
「気をつけてねって」
…………………………………………。
「さすが光一君のお父さんだけの事はあるよな」
「この親にしてこの子あり、ってやつ?」
「素敵なお父様vv」
「つーか、天然すぎやしねぇか?」

「…お前等は何をヒソヒソ固まって話してんねん!」

「い、いや別に」
「とにかく!光一君一人で庶民の学校へいくだなんて危険だよ!」
「光一君のいない学校なんて考えられない〜!!」
隣にいる屋良をギュッと捕まえて顔をうずめて泣き出す町田。
「…おいおい。誰が一人で行くっつった」
「へ?」
「町田、お前は俺とずっと一緒なんやなかったか?」
ニッコリと笑う光一に見られた町田は
「一生一緒
と、顔を上げて笑う。眼の中にハートが飛んでいる。
「町田さん、態度変えるの早くない?やっぱりさ、アッキーの言うとおり、危険は危険だと思うよ…だって、僕らには「表」には出せない「裏」の事情ってもんが…」
「屋良、安心しろ。今度の学校も中高一緒やからな。それにな?学校校変えるなら、この夏は宿題やんなくてえぇんやで?」
「ま〜ぢで〜!!もうッ!!僕、光一君に付いて行く〜vv一生付いて行く〜vv」
「僕も〜vvぴったり付いて行く〜♪」
「よし!決まりや!!ほら、どないする?アッキー、二人はもう決めたで?米花はもちろん、俺につくやろ?」
「俺は代々本家に仕える身ですから。元々影として光一君をお守りするのが務めです」
肩をすくめる。
「…そうだよ。考えてみればアッキーだって、付き人A。もしくは下僕1号みたいなもんぢゃない。いくら従兄弟とは言えさ。だったら光一君には逆らえないんじゃないの?」
「屋良っち!下僕1号はダメ!」
「なんで?町田さん。言いすぎって事?」
「違うの。1号は僕!」
「…町田さん、自ら進んで下僕になりたいの?」
「よくわかんないけど、なってみてもいいかなって思う。そしてなるならやっぱり1番がいいv」
「どうでもいいよ、二人とも。屋良っちも変わり身早いじゃん。…わかったよ!おじ様が許可なさってるなら、僕には何もいう事はないよ…」
深々と溜息をつく秋山。
「じゃあ、1号は譲ってくれるんだね?」
「…その話はさほど重要じゃないよね、町田さん」
「僕にとっては重要なの!」
「…あげるよ。1号でも2号でもなんでも」
ガックリと項垂れる秋山。
「秋山もついてくるんやな?きまりやな?よ〜し!そうと決れば、この夏休みは遊び倒すぞ!」
「「光一君、素敵〜」」
高々と右手を突き上げて宣言した光一の足元に、屋良と町田が目をキラキラとさせて跪いていた。

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「やっぱりさ。もし万が一光一君が由緒正しき格式高い伝統ある大財閥の跡取り息子だなんて事がばれたら、大騒ぎじゃないか!そんな事になってしまったらおじ様に顔向けできないどころかうちのお父様の立場だってなくなっちゃうんだよ!庶民の学校にかようだなんてバカな事はやめて、大人しく、家に帰ろう!!」
「…秋山。台詞がお前に似てくどい。しかも、夏休みも終わり、新しい学校の入り口にすでに立ってる俺に対して、その言葉はあまりに遅すぎて、場違いな感が拭えない気がせぇへんか?」
「それはそうだけどさぁ〜」
「よるな!うっとうしい!」
「酷いよ〜光一君〜」
「お前、リアルなんだよ」
「なんだよ、意味わかんねぇよ〜!!」
「…盛り上がってるところ悪いんですけどね?」
「なんや、屋良」
「バレたら大騒ぎ…だったら、こんなところで騒いでる場合ぢゃないんじゃない?」
「そうだよ。アッキーが一番騒ぎを起こす元凶っぽいよ」
「その通りや、町田!もっと言ったれ!」
「はい!ガンガン言います!」
「大体、此処まで来たら腹くくれよ、アッキー」
「ヨネ…」
「よし、じゃあ行くで」
「「「はい!」」」
3人を引き連れ、光一は校舎へと意気揚々と向っていく。
「ちょっと、待ってよ!みんな〜!光一く〜ん!!」
秋山が一人、後ろからもうダッシュで追いかけていった。

誰一人、堂本家当主の思惑など、微塵も理解しきれていない事も知らずに。


― 異世界の扉は、すでに開かれている ―



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…ギャグなのか?(爆)
おかしい、カッコいいものを書きたかったはずなのに。
浮かんだアッキーの台詞があまりにもシリアスからかけ離れていた(爆)。
ただし、「裏」の部分はカッコいい予定なのでお楽しみに…って言うほどのことでもないかもしれませんがね(爆)。
さて、私の頭の中に、一番最初に流れてきた台詞は何処でしょう?
正解は…
「もし万が一光一君が由緒正しき格式高い伝統ある大財閥の跡取り息子だなんて事がばれたら、大騒ぎじゃないか!そんな事になってしまったらおじ様に顔向けできないどころかうちのお父様の立場だってなくなっちゃうんだよ!庶民の学校にかようだなんてバカな事はやめて、大人しく、家に帰ろう!!」
でした(笑)。

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