2.偶然か 必然か

「今日からこのクラスで一緒に学ぶ事になった堂本光一君だ」
教師に促され、自己紹介をする。
「ども。堂本光一です」
ヒョコっとお辞儀をする。
やたらと視線を感じるが、何かやったやろか。
内心心配になりながら、教室を見回していた光一をよそに教師は話を続けた。
「親戚と一緒の転入だそうだ。A組とD組。そして、中等の3-Bに夫々入っているので、何かあったら親切にしてやるように」
は〜い。
とクラス中の返事が響く。
「じゃあ、君の席は…」
と、教師は顔を上げ、「おぉ、そうだ」と笑う。
「いいコンビになるんじゃないか?そうそうある苗字じゃないのにな。うちのクラスの初代「堂本」だ」
そういうと、教師は「剛〜お前の隣いいか〜?」と聞く。
「ん?えぇですよ。丁度空いてますし」
『剛』と呼ばれた生徒は「こっちやで〜」と言いながら、手招きをする。
その手に吸い寄せられるように光一は近づき、「ども」と頭を下げた。
「こちらこそ、よろしくお願いしますわ、堂本さん」
おっと、俺も堂本や。
と、一人でクスクスと笑いながら手を差し伸べてくる。
光一はその手を握り、握手をしながら、不図不安を感じる。
堂本なんて、中々お目にかかる事はない。
たいていが、一族なのだ。
まさか…彼も
「あの、ちょっと?」
言われてハっと顔を上げる。
「何?」
「いや、何ってあなた…手ぇ離して貰えるやろか?」
「あぁ!ご、ごめん…」
慌てて手を離す。
「女子が恨めしそうに睨んでるんですよ。怖いやん」
苦笑する。
振り向くと、瞬間女子全員の視線が此方に向いていたかのようだが、一斉に逸らされた。
「俺、何やった?」
思わず呟くと、
「何もしてへんって。王子様やと思ってるんよ」
『剛』は笑う。
「王子〜?」
「綺麗なお顔やし、カッコええから白馬に乗った王子様でも転校してきたんちゃうか〜って興味深々やねん」
転校生の宿命や、諦めや〜。
言われて、仕方なく席に着く。
「よろしくな。僕、剛言いますんで。光一でえぇ?」
「…関西?」
「は?」
「関西出身なん?」
「唐突やね。そやけど?」
「嬉しいわ〜俺も関西やねん。仲間おったんか〜良かったわ〜」
「…なぁ、僕の質問に答えてくれんやろか?」
「は?」
「せやからですね。光一でいいんですかね?」
「あぁ、えぇよ。なら、剛でえぇか?」
「いいですよ。貴方、ホンマ天然ですね」
「何が?」
「別にいいんですけどね」
飄々と話を続ける剛。
「普通にしてても目立つんやから、行動は大人しくしといた方が身のためやで」
全く、噂以上の天然やん。先が思いやられるわ。
呟く言葉に、光一は勢い良く叫んでしまった。
「噂ってなんや?何知ってンねんお前!」

「はいはい。五月蠅いよ〜ダブル堂本。今、授業中だってわかってんのか〜?」

「…すいません」

謝ってから、剛の方を見ると
「ま、追々説明しますし。ほら、また怒られますから」
前向きや。
とあっさりとかわされてしまった。
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授業が終わると、廊下がドヤドヤと騒がしくなり…
「光一君〜!!」
「光一君〜
「光一君♪」
ドアから縦に並んで顔がヒョコヒョコと覗いている。
「トーテムポールかいな」
剛が隣で笑っている。
光一は勢い良く立ち上がり、指をピシっと指す。
「お前等は犬か!!」
「でっかい尻尾が見えますわぁ」
またしても隣で剛が呟く。
「お前も五月蠅い」
剛を振り返って光一が言う。
「おぉ、怖っ」
怖いから大人しくしてよ。
そう言って、剛は机に突っ伏して眠る体制に入った。
「ったく」
溜息をつきながら、奴らに近づく。
後ろでは「可愛い〜」だの「男か?女か?」だの「外人?」だのと声が聞こえるが、とりあえず全てを無視しておく。
「おぉ、町田。お前、一応学ランなんやな」
光一の言葉に
「でもね、クラスの子が今度セーラー服貸してくれるって言ってくれたから、見せに来る
「別に来んでえぇっちゅーねん」
笑いながら、屋良の頭をクシャリと撫でる。
「どや、中等は?」
「うん。皆優しいし、楽しい♪」
「良かったな」
「光一君のおかげです!」
お辞儀する屋良。
「何、俺はなんもしてへんで」
笑っていると
「光一君〜大丈夫?今のところ、何か事件おきたりしていない?」
「今のところ、一番の事件は、この学校でもお前が一番リアル顔やっていう事実に直面した事位やな」
真面目くさって答えてやると、
「そ〜じゃないって!それはいいんだって!」
と叫んでから、秋山は慌てて光一の耳に口を寄せる。
「こしょばい!」
逃げる光一に
「いいから話を聞け!」
と怒る秋山。
「ちょっと!光一君になんて口の利き方!」
怒る町田に
「えぇねん。此処では「普通」の事や」
といい、光一は秋山に向って笑う。
「心配せんでもバレてないっちゅーねん」

「あ」
「何?」
「怪しいのがおるわ」
「は?誰!」
「堂本っていう…」
「堂本?まさか裏を知る者?」
「わからんけど…俺の噂を聞いた事があるような事を言ってた」
「怪しいな…」
秋山は少し考え込んでから、小声で呼ぶ。
「ヨネ」
「…なんだ」
何処からか返ってくる声。
「探ってくれ。もしかすると、何かあるかもしれない」
「お前の指図はうけねぇよ」
「…光一君。お願いします」
秋山に言われ、光一は苦笑しながら告げた。
「行け、米花。何かあったらすぐに知らせろ。いいな?」
「御意」
気配が消えた。
「さて。俺も用心しておくか」
光一は伸びをする。
「ホントだよ〜気をつけてよ、光一君」
秋山の言葉を遮るように、屋良が「あ」と呟く。
「何や、どないした?屋良」
「そういえば…妙な噂が」
「噂?」
「この学校にある噂です」
「いわゆる7不思議の事?」
「町田さんも聞いたの?」
「うん…まぁ、」
「7不思議がどうした?」
「その中に、気になるものがあります」
「気になる、もの?」
「ただの噂とは思えない、言い伝えが」
「…それも、気になるな」
光一は、少し考えてから、三人に小声で告げた。
「帰りまでに、各々7不思議の情報を集めておけ。俺がこの学校を選んだのは、もしかしたら偶然ではなく…必然やったかもしれん。いいか。くれぐれも周囲に悟られる事のなきよう、慎重に行動しろ。いいな?」
「「「御意」」」
三人はお辞儀をすると、夫々教室へと戻っていった。
「さて」
光一も振り返り、教室へ入ろうとドアを開けた。
「っ!」
目の前に、剛がいた。
「な、何?」
思わず後ずさる。
「知りたい?」
「へ?」
「7不思議の事。知りたかったら教えたってもえぇよ」
ニッコリと笑う剛。
「き、聞いて…」
「光一がこの学校に来たのが偶然か必然か…それはわからんけど。イッコだけ教えたる」
「な、何を…」
窓際の壁までジリジリと追い詰められ、後ろがない光一の顔を、剛は覗き込む。
至近距離で、フワリと笑うと、耳元に口を寄せ、こう呟いた。


「僕と光一が出会ったのは…偶然でも必然でもない。
                                         運命や」


瞬間、光一の体の力が抜け、剛の手の中に、崩れ落ちていった。




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2話です。浮かんだ内容を忘れてしまったので、新たに考えました。
とりあえず、今回のポイントは町田さんのセーラー服(爆)。ぢゃなくて。
剛の登場です。
さて、敵なのか味方なのか。何者なのか。
実は全く考えてないんですけどね(ヲイ)。
ちょっとカッコいい部分がチラホラと見え隠れしたでしょ?
けっしてギャグだけではありません(笑)。




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