「…ん」
目を開けると、真っ白い天井が見えた。
「ここは…」
無意識に呟くと視界が急に遮られた。
「保健室やで」
「うわっ!!」
目の前に突然顔が現れ、思わず飛び起きる。
「なんもそないに驚かんでも。とって食ったりせぇへんから」
運んでやったんに失礼なんちゃいます?
飄々と話し続ける剛に、光一はいまだ驚きを引き摺り、早鐘のように打つ心臓を何とか沈めながら尋ねた。
「なぁ、俺どうして保健室にいんねやろ?」
「それは僕が運んだからや〜っていうてるやろ」
「いや、そうやなくて」
「何やねん」
「何で剛に運ばれなあかんかったかって事を聞きたいんやけど?」
「あぁ。だって、あんなくらいで気ぃ失うと思わんやろ、普通」
フフと笑う剛に、光一は首をかしげた。
「…あんなくらい?」
「覚えてへんの?」
言われて、記憶を辿ってみる。
『偶然でも必然でもない…運命や』
「あぁ!」
叫んだ光一に、剛は「シ〜」と人差し指を唇に当てた。
「保健室やさかい、静かにせんと」
「…ゴメン」
「で、思い出した?」
「お前、俺に何したんや」
「人聞きの悪い。何もしてへんっちゅーねん」
「やって、お前に囁かれた瞬間、体中の力がスーっと抜けてったんもん」
「…もん、って貴方。そない可愛らしい言い方せんといてや」
「…話を逸らすな」
「あら、気付いた?」
「せやから何をしたんやって聞いてる!!」
「だから〜何もしてへんって。光一が単に耳が弱いとか…」
「そんな話ちゃうやろ〜!!」
「せやから静かにせぇっちゅーねん。ちゃんと話すから」
「…最初からそうすればええねん」
ムスっとして腕を組む光一に、剛は溜息をついた。
「ホンマに何もしてへんのやで?ただ…」
「ただ?」
「僕の声は…特定の人には薬のようによう効くみたいで」
「特定…?」
「そう。たとえば…強い能力者、とか?」
「…どういう、意味や」
「隠しても無駄やで。言うたやろ?僕と光一が出会ったんは運命や」
「お前…何者や」
「知りたい?」
「…ふざけるな」
「ふざけてへんよ。僕の事、知りたかったら…」
剛はニッコリと笑って立ち上がった。
「もっと、僕に近づいて。僕をもっと知ろうと思って。今はまだ教えるわけにはいかんわ。光一は、まだまだ求め足りひん…僕の事、もっと求めてくれな」
「…求める?」
「そうや。とにかく…今はまだ僕のが光一への愛情が上やっちゅー事で」
切ない片思いやなぁ〜
そう言って、剛は窓へと近づき…
「邪魔者が近づいてきたから退散させて頂きますわ。またゆっくり話しよな?二人で」
「おいっ!待てや!!」
慌ててベッドから降りようとする光一をよそに、剛は窓から忽然と消えた。
「…どういう事やねん」
唖然とする光一の耳に、聞こえてきたドタドタという足音。
その音が一斉にドアの前で止まり、勢い良くドアを開ける音。
「光一君!!」
走り寄ってきた秋山に、光一は眉をひそめた。
「保健室は静かに入ってこい。迷惑や」
「光一君〜!!大丈夫?怪我は?」
秋山の後ろから飛び出し、光一に抱きついてきた町田の勢いでそのまま倒れ込む。
「町田…苦しいっちゅーねん」
「だってだって!!光一君が倒れたっていうから、すっごく心配したんだから〜!!」
光一の胸に顔をこすり付けて泣く町田の頭をポンポンとたたきながら「すまんすまん」と苦笑いする。
「ところで、光一君、どうやって此処に?」
秋山の後ろからヒョコっと顔を覗かせた屋良に尋ねられ、光一はハタと思い出した。
「そうや。アイツ怪しい」
「何?」
「秋山。明らかに怪しい」
「僕が?」
「…お前が怪しいのは今更始まった事ちゃうわ。アイツや。堂本剛」
「…今、米花が調べてるから、もうすぐ素性は割れると思うんだけど」
「米花一族に調べられない事はないものね」
屋良が笑う。
「そうだな。任せておけば安心だ」
秋山は屋良に答えて、光一の方を向きなおす。
「光一君。立てる?」
「おう、もう大丈夫やで」
「じゃあ、帰ろう。色々わかった事もあるから、報告もしたいし…それに、もう一人の「堂本」の事も聞きたいし」
「報告…七不思議の事か?」
尋ねた光一に、屋良が頷く。
「人食いの時計台、というのがあります。この時計台…実際に事件が起きているらしいんです。それも…何度も」
町田が続ける。
「明らかに…「憑依」と思われる現象が起きている感じが伺えます」
光一は少し黙り込み、ベッドからスクっと立ち上がった。
「帰るぞ。詳しく聞こう。単なる七不思議の一つ、ではないと言うんやな?」
「はい。間違いない、と」
3人が跪く。
「よい。立て。不審な人間もいる。目立つ行動は避けるのが無難や。学校内では俺に対して、出来るだけ普通の態度で接するように」
「「「御意」」」
「…せやから、それがアカンっちゅーねん」
光一は思わず溜息をついた。
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「もっともっと興味を持ってもらわなあかんなぁ〜」
このままやと、片思いもえぇとこや。
校舎を出る光一の姿を眺めながら
屋上のフェンスに腰掛け
飄々と風に吹かれる剛の姿は
下校していく生徒達に
気付かれる事なく
ただ
空気のように
そして
光のように
一筋に
彼の視線は
光一を捕らえていた。
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3話です。
本当にお待たせいたしまして(滝汗)。
何とかつながりましたね。
体調不良と精神不良が長すぎて、思わず自分でも話を忘れてしまいまして(爆)。
読み返してみました。つーか、まだ3話しか書いてないっちゅーねん(苦笑)。読み返すほどでもないっちゅーねん。
これから頑張ります。
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