4.怪奇

マンションの最上階フロアを全て打ち抜いた広すぎるサイズの部屋に彼らは住んでいる。
元々、このマンションも堂本家の所有だ。
広い部屋だが、光一の好みによって、モノはほとんど置いていない。
真っ白な居間にゆったりと置かれた黒い革張りのソファへと歩きながら近づく。
光一がソファへと着く前に、屋良が鞄を受け取り、町田が上着をスっと脱がせる。
ネクタイを緩め、ソファへと身を沈め、秋山が差し出した飲み物を受け取りながら、光一が静かに問いかけた。
「米花、戻っているか?」
「お呼びでございますか」
音をさせずに、光一の前へと現れ、跪く。
「報告は」
「はッ。申し訳ありませんが…どの方向から攻めてみても、なかなか深く探れず…」
「…そうか」
「申し訳ございません」
深く頭を下げる米花を光一が右手をスっと出し、制止する。
「いや、よい。そう簡単に尻尾を掴ませるヤツじゃないだろう。引き続き調べてくれ」
「御意」
米花は頷くと、またスッと消えた。
「気の早いヤツやな。まだ話は終わってへんっちゅーねん」
苦笑した光一の言葉にかぶさるようにどこかで誰かが躓いた音がした。
「カッコ悪。ヨネ、コケたんぢゃない?今」
屋良が笑うと町田も続く。
「忍者のクセにコケるって、ちょっとないよね〜」
二人でクスクスと笑っていると、秋山が慌てて二人を止める。
「ちょっと、今そんな場合じゃないだろ?人食いの時計台の話をしなくちゃ」
「時計台?なんだ、それ」
いつの間にか戻ってきた米花が口を挟む。
「あ、カッコ悪〜」
「ホント、コケたクセに何食わぬ顔でかっこつけるのがカッコ悪〜」
「…二人は本気で俺と喧嘩がしたいのか?」
「自分がコケたくせにね」
「僕らは本当の事しか言ってないのにね」
全く反省する様子もない二人に、光一が苦笑しながら告げる。
「えぇから、二人とも。時計台の話を聞かせてくれへんか?」
「はい!!すみません!!」
勢いよく謝った町田が話を始める。
「あの学校に、語られてる恐怖の一つとして、人食いの時計台というのがあるらしいのです。あの校舎の奥にある、古い時計台の事ですが。それが、どの学校にもよくある「七不思議」とは少し違っていて…」
「実際に、死人が出ているのです。何人も」
屋良が続けた。
「事実なのか?」
「はい。僕が話を聞く事が出来た3年の人の同級生が、2年前にそこから飛び降りたと…」
「飛び降りた?自殺か?」
「…一応、そう処理されているそうですが。自殺するような様子ではなかった、と証言しています」
「それに…その人だけではないようで」
「どういう事だ?町田」
「毎年…一人は必ず時計台で命を絶っているというのです」
「毎年?」
「…これは、もはやただの自殺とは言いがたいのではないかと」
「憑依の可能性が高いと思われます」
二人の言葉に、光一はゆっくりと人差し指で唇に触れ…考え込んだ後、顔を上げた。
「屋良、町田。二人は今まで命を落とした人の名前を調べてくれ」
「「御意!」」
「米花。堂本剛の件は後回しや。まずは二人が調べた人物が命を落とすまでに至った経緯等を詳しく調べて報告するように」
「御意」
「秋山」
「はッ!!」
「お前は…試しに時計台に行ってみてくれ」
「…えぇ!!!危ないじゃない!!何も情報がないのに、いきなり行ったりしたら!!!」
「だからや。情報がなくて、俺らは危なくて近づけないからお前が調べてきてくれって言ってるんやないか」
「光一く〜ん!!」
「…甘えるな!!キショイ!!」
「鬼!!悪魔!!」
「お前、誰に向って逆ギレしとんねん!!」
「…わかりました」
シュンとする秋山に
「おいおい。引き下がるなや。冗談や」
笑う光一。
「やっぱり?光一君がそんな酷い事させるわけないなぁと思ってたんだよね〜!!」
急にはしゃぐ秋山に
「中まで調べる事はない。外観から、何か感じ取れるかどうか、と周囲に何か怪しいものが感じられるかを確認して来い」
「…結局行かせるんじゃん」
「何か言うたか?」
「…いえ、」
「わかったら即行動や。少しでも怪しいと思う事があったらすぐに俺に報告に来い」
「「「「御意」」」」
そう言って、全員が立ち上がる。
最後に部屋から出ようとした秋山が振り向いた。
「そうだ、光一君」
「なんや?」
「僕らが、別行動をしている間。十分注意してよ?」
「何をや?」
「…堂本剛の事。米花がてこずるなんて、明らかに裏がある…」
「わかってる。気をつけるわ。お前も気をつけろよ?すまないな、いつも危険な事は秋山に頼む事になってしまって」
「それこそ、わかってるよ。大丈夫。僕は光一君の為に命を賭けれる。まぁ、それは他の3人も一緒だけれどね」
そう言って、秋山は笑顔で部屋を出て行った。
なんだかんだ言って、頼りにしているのだ。秋山は付き合いが一番深い。
「さて」
自分も動かなければ。
報告を待っているだけではない。
独自に情報源を探って、データを集めなければ。
コーヒーカップを持ち、書斎へと向う。
パソコンを起動させ、ネット回線へと繋ぐ。
「どの辺から揺さぶってみるかなぁ」
パチパチとキーボードとマウスを操る光一。
独自の情報源。それはどんな厳重な場所にでも入り込める知識だ。
「いつもごめんなぁ」
勝手に覗いて。
「悪い事はせぇへんから堪忍なぁ」
言いながらポンポンと複雑なコードに入り込んでいく。

そんな光一の背後に…

一つの影が忍び寄っている事にも気付かずに。
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「人の忠告はちゃんと聞いた方がえぇんちゃうかなぁ?せっかく秋山っちゅーのが言うてくれたんになぁ〜」
飄々と笑うその男は光一の書斎の窓から見える、向いのビルの屋上のフェンスに腰掛けて、じっと光一の背中を見つめていた。
「俺には、気をつけた方がえぇんちゃうかったかなぁ?まぁ、今更遅いけど」
そういうと、剛は

フェンスからフワリと体を離した。


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4話です。
お待たせいたしました。
何とかかんとか繋がっている今日この頃。
屋良さんと町田さんは自分等の可愛さを武器に情報を手に入れていると思っていただいてほぼ間違いはありません(笑)。
ある意味色仕掛けなのか?(爆)。
今回はカッコいい回にしようと思ってたのですが…結局カッコよくなりきれない(苦笑)。


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