7.信心
無言のまま、二人が戻ると、そこにはすでに米花と秋山が、黒いスーツを纏っていた。
「遅いぞ、二人とも。光一君はもうすぐ出てこられる。二人は正装は間に合わなくても、仕方がない、との意向だから着替えなくていい」
米花の言葉に
「……偉そうに。ヨネと一緒にしないでよ、これでも全速力で走ってきたんだから」
ね、屋良っち?
と、隣を見た町田に……返事は返ってこない。
「ねぇ、屋良っち?」
もう一度問い掛けると
「あ、ごめん!町田さん、何?」
慌てて、返事をして振り向く屋良。
「あのね……屋良っち、何を聞いたのかわからないけれど……」
クイっと屋良の両肩に手を置いて、自分の方へ向かせ、目線を合わせて続ける。
「感情移入しちゃうのは、悪いことじゃないよ?霊の事とか、やっぱり考えてあげるべきだと思う。でもね、屋良っち……」
伏せてしまっている視線を上げさせようと、町田は顔を覗き込む。
「町田……さん」
「だからこそ。その子の為にも……浄化してあげなくちゃ駄目なんじゃないかな」
「え?」
「このまま放っておくと……あの子は、何も関係ない人の命を奪っていく。それは、あの子にとって、本当は望んでいないことじゃないのかな?」
「……」
「だから、誰かが止めてあげなくちゃいけない。それが……僕らの仕事じゃないのかな」
「……町田さん」
「それとも……外れる?今回は、光一君にお願いして、外してもらう?」
言われて、屋良はフルフルと首を振った。
「ごめんなさい。僕……やれる」
町田の眼をしっかりと見て答えた屋良の頭に、町田はパフっと手を乗せた。
「頑張ろうね、あの子の為に」
その時
ガチャッ
と、ドアが開いた。
その音に、全員が傅いて頭を下げる。
その前を通って、先頭に立った光一は
「話は道すがら聞かせて貰う」
手短に言うと
「行くぞ」
振り向かずに、告げた。
「御意」
その言葉に、全員がスっと立ち上がる。
数歩歩いて、光一が突然振り返る。
「屋良」
「は、はい!」
呼ばれて、慌てて返事をする。
「もし……どんなに辛い結末が待っていたとしても、最後までやれるか?」
問われて、力強く頷いた。
「大丈夫です」
「なら、いい。ついて来い」
それだけ告げて、光一はまた歩き出す。
聞えていたのだ。
屋良と、町田の会話。
まだ幼くて、優しい屋良は
霊と同調しやすい。
霊の気持ちに、感情を移入しやすい。
そんな屋良が、どんな話を聞いてきたのかは、わからないが……
今まで、眼に見えるように心を揺らしている事はなかった。
だとすれば、今回は相当霊の過去に感情を移入しているのかもしれない。
そうすれば……もし、強制的に「昇華」ではなく「消滅」させなくてはならなくなってしまった時……
屋良は、どれ程の衝撃を受けるかもわからない。
以前……町田に起こった事のように
繰り返したくはなかった。
だから、問うたのだ。
出来るか?と
屋良は出来ると答えた。
だから……信じよう。
町田も、こうして強くなった。
だから、大丈夫。
屋良も、乗り越えられる。
それに
「辛い結末とは……限らへんしな」
小さく呟いた光一の独白に
「大丈夫です。僕らがついてます」
町田が、微笑んだ。
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7話。
今回は、リハビリ代わりに短めですが……
このまま放置は続きがかけなくなるので、気持ちも切り替えて連載を再開したいと思います!
今回のタイトルは、そのまま「信じる心」。
町田さんの過去については、また後程書くことがくると思います。
……っていうか、私の自動書記機能(笑)が勝手に書いたので、「以前町田さんに起こったことって、何?」と、書きながら自分で突っ込みました(爆)。
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