第二幕
「慎吾、治療が終わった」
呼ばれて、眺めていたデスクトップの画面から視線をずらす。
「ありがとう、康哲。で?怪我の具合は?」
「たいした事はない。……というか、妙な感じはするがな」
「……傷が、浅すぎる?」
尋ねると、康哲は驚いたように此方を向いた。
「気がついていたのか?」
「バスルームで傷を見たとき、おかしいと思ったんだ。出血が激しかった割りに、傷が浅かった」
「……もしかすると」
「康哲。お前の仕事は?」
「……医者だ」
「そう。余計な詮索をすることじゃない」
「……わかったよ」
「ありがとう。物分りのいい友人を持つと助かる」
「我侭な友人を持つと大変だけどな」
「……誰の事?」
「自覚のないヤツが一番怖ろしい」
そう肩をすくめて、康哲は立ち上がる。
「それじゃ、行くけど……一応、化膿止め出しておく。ちゃんと飲ませろよ?それから……」
「何?」
「医者としてじゃなく……友人として忠告させてもらう。情をかけるなよ。ただでさえ疑わしいんだ……もし、情が移ってしまえば……お前が、」
「康哲」
「……わかった。もう、言わない」
じゃあな
康哲は静かに出て行った。

バスルームから、全く出てくる気配がなくて、確認にいった僕の視界に
気を失って倒れていたこの子の姿が飛び込んできた。
慌てて抱えあげて僕の寝室へと運び、呼んでおいた担当医兼友人の康哲に手当てをさせた。

明らかに
傷は、治りかけていた。
驚異的な速度で。

わかっている。
康哲の言いたい事も。

この子は……危険だ。

でも
「まだ、決ったわけじゃない」

何故だろう

僕は
この子に惹かれてしまうのだ

本当なら、僕の仕事上
他人とあまり関わる事を良しとしない。

僕は……
ヴァンパイアハンターなのだ。

何食わぬ顔で人間の中に紛れ込み……
人間を捕食していくヴァンパイア

彼らを見つけ出し、その行為を止めさせ、倒すのが僕の仕事だ


だから、他人と接触して、僕の素性を晒す事を極力避けて生きている。
高層マンションの最上階のフロアを全て部屋として使い、医者も何もかも全て揃えている。
仕事以外で外に出なくてもいいように。
友人、と言っても、さっきの康哲や仕事仲間の智ぐらい。
全てが仕事の延長、なのだ。
生まれついた日からこの世界で生きることが決められていた僕は

仕事には何も関係なく
ただ
一緒に
そばにいて
仕事以外の話をすることの出来る相手

そんな相手が欲しかったのかもしれない


だから……
彼を、拾った。

危険だと

頭の中で、警笛がなっていたけれど。



聞こえないフリをした。

「……ぅん、」
起きた気配がして、ベッドの縁に腰掛け、彼の髪を梳いた。
「眼が覚めた?」
「……あ、えっと……」
「気を失っていたんだ……傷は手当てしておいたから」
「あッ……あぁッ!」
起き上がろうとする彼の肩をやんわりと押し戻す。
「大丈夫。何も怖くないから」
もう少し、眠った方がいい……
怯えるような彼の眼に
優しく微笑んで
「名前は?」
静かに尋ねると
「……朝幸」
と消えそうな声。
「朝幸……いい名前だね。僕は慎吾……とにかく、もう少し眠った方がいい」
ほら、眼を閉じて?
そう言って、朝幸の瞼をそっと撫で閉じる。
「傷が治るまで……此処で暮らせばいい」
「……でも、」
反論させる隙は与えない
「大丈夫。何も聞かない。だから、安心して?」
お休み、朝幸……
その言葉に、触れていた朝幸の体から、力が少し抜けたのが伝わってきた。

そう
手負いの獣を
甘く優しい言葉と温もりで
飼いならすように……

もし、彼が「そう」だったとしても……
気付かないフリをすればいい

そして
僕の正体を
彼に
気付かれないようにすればいい

ただ、
それだけの事




僕は
友達が欲しいだけなんだ




たとえ
この先
僕達に

運命が……牙をむいたとしても



後書き
ちょっとしたチャレンジを。
今回、光(慎吾)サイドと影(朝幸)サイドで分けて書いていこうかと思ってます。
なので、使ってるテンプレートのタイトル部分もそれにあわせて白と黒で。
ちょっとしたこだわりです(笑)

こっちの吸血鬼モノは、UNLIMITEDと違ってシリアスに行く予定!

ま、でもご要望がなければとりあえずこのまま……(爆)


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