第伍幕
慎吾が出かけてしまってから、特に何もする事無く、ベッドに寝転がっていた。
体が鉛のように重い。
体が
悲鳴を上げ続けている
血を
欲している
でも
僕の心は
血を望まない
体と心のバランスが崩れてしまった日から
1秒毎に、体の自由が聞かなくなってきているのを感じている
今は目立って動かない部分もないけれど
意識せずとも動かせた指先ですら
今は、少し動かすのもダルい。
夜になれば少し軽くなる体も
日中は酷く重く感じるのだ

太陽に
徐々に削がれていく気力と
矛盾に
徐々に殺がれていく精神と。

僕は
いつまで
生きられるのだろうか

いや……
一体
いつまで
生きなければならないのだろうか

今、この一瞬一秒に
生きていることを切なく感じる
生きていかなくてはいけない事を
苦痛に感じるのだ


吐き気がするほどに


でも
それは、今日は少し違っていて

何故だか
このまま時が止まって……
慎吾と暮らしていければいい、なんて
頭を掠めたりもした
そんな資格
「僕にはないのに」
呟いて、乾いた喉を潤そうとベッドに両手をついて、重い体を起こす。
立ち上がった時
クラリ
少し視界が回る。
倒れないように、咄嗟に壁に手をやって
ドアまで歩いて、廊下へ出た。

水が欲しかった

血が飲めなくても
血を飲みたいと欲する体を沈める為に
口内を潤すだけでいい
液体で口内を満たすだけでいいのだ

少し、血を流しすぎたのだろう
脳が揺れる
足元がフラフラする

食堂へとたどり着く自信がなかった僕は、バスルームへ行って、洗面台の水を口に含んだ
「……うッ」
嘔吐感にすぐに吐き出す

どうしたんだろう
体が
酷く辛い
此処まで辛いのも初めてかもしれない

慎吾と食事をした時は
何も感じなかったのに

僕達はまだ
出会ってから数時間しか経っていない
それでも……
僕にとって
慎吾は安らげる相手になっているのだろうか

僕の罪
父の罪
その全てを忘れさせてくれる存在として
「早く……帰ってこないかな」
誰かを待ち焦がれる事なんて
何時振りだろうか


その時

全身に巡る悪寒

「……ま、さか」

いけない……
此処にいちゃダメだ……
慎吾を巻き込むわけにはいかない……

だって
だって……

もう
すぐ其処に……

彼らは来ている


震える体をギュっと自分で抱きしめて
自然と噴出す汗と
激しい嘔吐感と頭痛を
強く唇を噛んで振り切って

「また……逢えるかな、慎吾に」

牙から滴る自分の血が
汚らわしい気がして袖で拭おうとして、不図躊躇う。

折角
慎吾がくれた服なのだ
返そうと思っていたけれど……
せめて、想い出に
初めて、人間と友達になれるかもしれなかった想い出に。

服を汚さないように
手のひらで、口端から滴る血を拭って

「さよなら、慎吾」

近くにあった窓を突き破って
僕は残る力を振り絞って飛んだ。


迫り来る
仲間達の殺意から逃げる為に





それでも

僕はまた

慎吾に逢う事を望んでもいいだろうか

彼が
いいと言ってくれるのなら……

僕は……
僕は……





戻ってもいいのだろうか……?


後書き。

いや、どうしましょう(何が)。

本当はね、ずっとずっと二人で生活してその上での色々な葛藤とかつながりとかを書いていくつもりだったのに……
朝幸ちゃん、飛び出しちゃったよ!(爆)
ビックリだよ!書いてる自分が一番ビックリだよ!!(爆)。


まぁ、すぐにまた二人はめぐり合う運命だと思いますけども。
いや、めぐり合わせます(笑)。


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