暗い路地に入っていくと、少し狭くて古いドアがある。
特に看板が掲げてあるわけでもない、古臭いドア。
一見、バーとは気付かない外観に、思わず肩を竦める。
「こんな、あからさまに怪しい店構えで、ばれないとでも思っていたのかな」
僕の呆れた感想に、智もクスリ、と小さく笑った。
「浅はかな奴らっていうのは、何処までも浅はかなものだよ。だから、足がつく」
智の手が、ドアノブへとかかる。
「さぁ、行こうか」
僕の言葉に、そのドアは開けられた。
薄暗い店内に、パラパラと疎らに客がテーブルについている。
その中に……人間が混ざっている気配はない。
今では、嗅覚ですら彼らを識別する事が出来るようになってきた。
神経を研ぎ澄ませていさえすれば、100%の確率でヴァンパイアを見抜くことが可能だ。
入ってすぐ右手にあるカウンターへと向い、バーテンへと話しかける。
「この店の責任者は?」
「何か御用ですか?」
訝しげな顔で聞き返した男に、もう一度だけ尋ねる。
「貴方が責任者?そうではないのなら、責任者、今すぐ呼んでもらえる?」
「マスターは、今、奥で仮眠を……」
何かを察知したのか、眼が泳ぎ始めた男。
コイツ等、知ってる。
分かっていて、ヴァンパイアに店を開放しているのだ。
金さえ儲かるのなら、自分が被害にあわないのなら、と、ヴァンパイアに居場所を提供する人間も少なくない。
エゴの塊のような人間達。
そんな人間を守る宿命を背負った僕。
悲しくて、もう……笑う事しか出来ない。
でも
僕もそのクダラナイ人間達の仲間入りだ。
僕のエゴで、朝幸を縛りつけようというのだから。
益々
笑う事しか出来ないじゃないか。
ハッと、短く声を上げて笑った僕は、背広内側に手を入れて銃を手に取ると、引き抜いて男の眉間に突きつけた。
「死にたくないなら、早く呼べ」
「う、うわぁッッ!!」
男の悲鳴が響き渡り、周りの獲物達もざわめきだした。
その時、奥から責任者らしき男が現れた。
「お前等、何者だ!何やってるんだ!」
その男の方に向き直り、銃を獲物達へと向けて引き金に指を当てた。
「……狩りの時間だ」
言葉と同時に、躊躇う事無く
引き金を引いた
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溜まり場を押さえたおかげで、今日は一晩で20人ほどのヴァンパイアを狩る事が出来た。
店の人間達は、匿っていた罪で人間に裁かれる。
僕等が手を出すのはここまでだ。
警察が到着したのを確認して、僕等は店から外へと出た。
振り返り、智へと告げる。
「帰ろうか」
その言葉に、智は少し笑って答えた。
「今日の慎吾は、いつも以上にやる気だったね。それに、いつもよりも仕事を早く片付けたいっていうのが手に取るように分かったよ」
「そうかな?」
「だって、あんな乱暴なやり方、普段しないでしょ?」
「そんな事はないよ。いつもとそんなに変わらない。それでも……いつもよりは確かに早く片付けたかったんだ」
朝幸が、待っているからね
フワリと笑うと、智が驚いたように眼を丸くした。
「どうしたの?」
聞けば、
「それはコッチの台詞。久しぶりに慎吾のそんな笑顔見る事出来た」
と、笑って答えてくれた。
「誰かが、待っていてくれる。それだけで、心が温かくなるって事を初めて知ったよ」
答えて、歩き出す。
いつもよりも、軽い足取りで。
それでも、いつもより暗い心で。
朝幸の元に戻る喜びと
朝幸の仲間を殺した罪の意識と
この少しのズレが
僕の心を
僕の精神を
徐々に蝕んで、浸蝕されつくして
いつか壊れてしまうのなら
それを僕の罪として受け入れよう
でも
もう少しだけ……
この温もりを
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フロアについて、エレベーターが開いたと同時に、康哲の姿が眼に入った。
「どうしたの?康哲」
深刻そうな康哲の顔に、鼓動が早くなる。
「……逃げた」
何を言ってるのか、理解出来なかった。
「朝幸が、逃げたよ」
そんなはずはない。
朝幸は「待ってる」と言ったのだ。
僕と、暮らしてくれると
約束
したのだ。
僕が交わした、初めての約束。
「あの子は、危険だ。どうやら追われているみたいだしな」
追われている……?一体、何に……?
「同族から逃げ回っているようだ……追っ手が、この付近に現れた痕跡が残ってる。100m先の茂みから、首筋に噛み痕の残った……」
康哲の声が……遠くなる。
同族から逃げている?
いや、違う……
きっと違う
彼が逃げているのは……
きっと
エゴイストな
僕から、だ
僕の鳥籠から
僕の「蒼い鳥」は逃げていったんだ
「慎吾!!慎吾!!」
誰?
僕を呼ぶのは……
いや
呼ばれているのは……
僕なのか?
僕は一体……
世界は
まるで漆黒の闇のようなものだ
大きく揺れた天井も
真っ暗な闇へと飲み込まれていった
後書き
く〜ら〜い〜!!(爆)
こっから果てしなく暗い世界へ突入する予感満載な感じでございますね(笑)。
私の精神状態が急降下しているせいでしょうか(爆)。
今までは交互に更新してきましたが、次回ももしかしたら町田さん視点です。
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