**拾** 何も、答えは出ていない。 僕の中で、どうしていいのかも、どうするべきなのかも。 何も。 頭が 働かない こんなにも こんなにも美しく晴れた空の蒼が 僕には 地獄の炎中以上に 痛く 辛く 苦しかった。 「朝幸!!」 部屋の前には…真次の姿。 「…真次っ」 真次の姿を見た瞬間、僕の眼から堰を切ったように涙が溢れた。 「どうしたの?何があったの??昨日…一体…」 「真次…どうして昨日の事…?」 「昨日…胸騒ぎがして…朝幸の部屋まで行ったんだ…でも、朝幸いなくて…怖くて、色々探したけど…何処にもいなくって…すごく、心配してたんだ」 だから、眼が覚めたら一番に… 「そしたら、まだいないから…どうしたんだろうって…」 真次は項垂れた。 「ごめんね、真次…慎吾に…会ってたんだ」 「朝幸…」 「どうしていいのか、わかんないよ…僕」 溢れる涙が頬を伝い、血が出るほど握り締めている手の甲へと堕ちてくる。 「どうしたら…皆が助かるのかな…僕、皆を助けたいんだ…慎吾も、智も」 「朝幸…聞かせてくれるかな。ゆっくりでいいから」 真次は泣き止む事の出来ない僕をそっと抱きしめてくれた。 真次に促されて、部屋へと入る。 僕の部屋。 同じ部屋のはずなのに.、まるで別世界のような錯覚を覚える。 僕は…僕らは此処で、いつか移植をするために、囲われていたんだ。 籠の中の鳥だったんだ。 慎吾という鳥を空に羽ばたかせる為に、羽を毟られて空を奪われる運命を背負った鳥だったんだ。 真っ白な鳥籠の中…何も知らずにいた方が…幸せだったのだろうか。 「朝幸…話せるね?」 直樹も、来ていた。幸人も、友一も。 僕は…全てのことを…彼らに告げた。 僕がこの眼で見た事 慎吾から聞かされた事 「俺の手…機械なのか・・・?」 友一が呟く。 「骨も…肉も…腐ってしまうんだ…慎吾は…どうやっても助けられないのかな」 僕の言葉に、直樹は首を振る。 「だからって…そのために、幸人を犠牲にする事は俺が許さない」 「それは、わかってる!そうじゃなくて!!」 「慎吾に機械を埋めれば、腐敗は止める事が出来るんじゃないのかな?」 真次の言葉に、僕らの間に沈黙が走った。 それを破ったのは… 「それは無理なんだ。慎吾を機械になんて出来ない。全ての部分を機械に取り替えてしまうのは…もう、人とは呼べないじゃないか。だから、皆から少しずつ。足りない部分は機械で。そうすれば…慎吾も人間として生きていける。その為に君たちを…飼いならしてきたんだもの」 「智!!」 何時の間に… ドアに寄りかかって腕を組んで。 ニヤリと笑う。 「まさか、全てばれてしまうとはね。まだまだ何もしていないっていうのに」 僕らは後ずさる。 直樹はしっかりと幸人を抱き寄せる。 真次は…震える声で叫んだ。 「友一の…友一の腕を返せよ!!」 その言葉に、智は笑う。 「あぁ、使えなかったから、返してもいい。お父さんの技術なら、元通りに繋げてあげられるよ?腕はちゃんと保存してあるし。そのかわり…交換条件だ。誰かが…臓器を差し出してくれればね」 息を飲む。 狂ってる。 狂ってるんだ。 眼を、覚まさせなくちゃ。 「僕が…」 真次の呟き。 「ダメだよ!!真次!!そんなの間違ってる!!」 「でも!!友一の腕が!!」 「そんなことしてまで、返してもらわなくたっていい!!!」 友一が叫ぶ。 「残念。どちらにせよ、君たちにはまだ提供してもらわなきゃいけない事には変わらない。運良く、幸人君は適合したんだ。逃がすわけにはいかない」 氷のような微笑をたたえ、智の右腕がゆっくりと持ち上げられる。 キラリ 研ぎ澄まされたナイフの先が僕らを狙っている。 「さぁ。幸人君を渡してもらおうか」 直樹は幸人を抱きしめる力を強めた。 その腕の中で、幸人の様子がおかしくなっている。 「幸人?」 直樹の問いかけに、幸人は言葉になっていない呻きをあげていた。 「う…あぁ…」 「まさか…ナイフか!!」 直樹は叫ぶ。 「やめろ!!もう、これ以上幸人を苦しめないでくれ!!」 その声に被さる様に幸人が叫んだ。 「いや〜!!!!」 それは、当時押し殺していた分…心の奥から沸いている 全てを刹那に思い出した恐怖と絶望を表したような 断末魔の叫びにもにた悲鳴だった。 「幸人!!しっかりしろ!!幸人!!」 直樹が力強く叫んでも、幸人は叫びながら直樹の腕を噛み続ける。 直樹の腕から、血が溢れていた。 「もう、君たちは逃げられない。それとも、逃亡不能の幸人君だけ置いて逃げるのかい?まぁ、僕はそれでもかまわないけどね」 そう呟く智を直樹は睨みつけた。 「幸人はわたさねぇ」 「直樹、幸人をしっかりと抱えているんだ」 「真次?」 「逃げるぞ」 「どうやって!!」 「…窓から、飛び降りるしかない」 「危険だよ!!」 「一か八か…どう転んだって危険なんだ!!」 「でも、こんな状態の幸人を抱えたままじゃ、直樹は着地できないよ!!!」 言い合っている間にも、智はじわりじわりと近づいている。 「俺は大丈夫。朝幸…俺は何があっても幸人を守ると決めたんだ」 …行こう。 「直樹…」 その時、大きな爆発音と共に… 「…燃えてる」 煙の匂い…仄かに熱い感覚。 「まさか…父さんの研究室…」 智の顔が青褪める。 「そう…研究室を爆発させたよ…」 声に振り向くとそこには… 「慎吾!!」 「もうじき、火の手が回ってくる。皆、逃げるんだ!」 「でも、でも!!」 「急いで!!」 「逃がさない!!」 「智!!」 飛び掛ろうとしてきた智を、慎吾が止める。 「いいんだ、智。もう、いいんだよ」 「慎吾!!」 「大丈夫、智には僕がいるから…一緒に、此処にいるから」 智の手が力なく垂れ、ナイフが床へと落ちた。 「早く行くんだ!!」 慎吾の声。 「嫌だよ!!慎吾も一緒に!!」 僕の声に、慎吾はゆっくりと首を振る。 「僕は…残る。智と一緒に…大丈夫。もう一度やり直したいんだ」 今度こそ 「皆と…ちゃんと友達になれるように」 だから 「皆、逃げて…生き延びて…こんな事しか出来ないけど…せめてもの罪滅ぼしに…」 慎吾の目から涙が溢れてる。 それでも、慎吾は微笑んでいた。 本当に幸せそうに微笑んでいたんだ。 「初めて…皆の役にたてる」 ニッコリと微笑んだ慎吾は、もう一度僕らに向かって叫んだ。 「飛び降りるんだ!!」 僕は… 僕は覚えていない。 その瞬間を。 気がつけば… 真次と友一に手を引かれ… 館から飛び降りていた。 唯一 覚えているのは… 泣きながら名前を叫ぶ僕に 慎吾が 天使のような微笑で 「また、友達になろう」 と言った事だけ 少し離れたところから、館を見る。 崩れ落ちていく 館をただ呆然と見つめている。 「朝幸…」 意識を失った幸人はぐったりとしたまま直樹に抱きしめられていた。 「朝幸…」 直樹の、心配そうな声。 「大丈夫…きっと大丈夫」 何がだろう… 「約束、したんだろ?」 優しい、直樹の声。 時折、本当に信じられないほど、心に染み入ってくる優しい声。 「生きてるよ、絶対に」 あぁ そうか 「…そうだね」 僕は精一杯の笑顔で答えた。 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 「朝幸〜!!今日の夕飯どうする?」 「なんでもいいや、幸人に任せる」 「そっかvじゃあ、早く帰っておいでね!!」 「うん!」 可愛い笑顔に答えた時、その後ろから、ちょっと走って出てきて、片手で謝る素振りを見せる直樹。 「お待たせ」 「直樹、遅いよ」 「悪い、仕度に手間取った」 「あ!直樹!!」 幸人が呼び止める。 「ほら、お弁当持ってくれた?」 聞かれて、直樹はコクっと頷いた。 「持った。ありがとな」 そう言って、直樹はクシャリと幸人の頭を撫でた。 その言葉と優しい手に、幸人は嬉しそうに 「どういたしまして」 と答えて、僕らに大きく手を振って見送ってくれた。 「あれ、もう行くの?」 友一に聞かれ、頷く。 「早いんだね、二人とも」 真次が笑う。 「うん、今日はちょっと早めなんだ」 行ってくるね。 そう言って、二人に手を振った。 僕らは、皆で一緒に暮らしている。 夫々仕事にもついた。 僕と直樹は同じところで働いているので、一緒に出勤だ。 友一も真次も、掛け持ちで仕事をしている。 5人で、何とか生活していくには十分な収入もある。 幸人は…あの日、全てを思い出した。 錯乱状態にも陥った。 それでも、献身的な直樹の長期に亘る看病で、今では、笑うようになった。 それに、精神年齢も、ちゃんと僕らのラインに戻ってきたようだ。 友一も、腕に何かの不自由を感じることもなく、明るく振舞っている。 ただ、真次が時折、友一の腕に視線を落としては、切ない顔をするのを、僕は知っていた。 あれから もう1年がたつ。 彼らはどうなったのか。 何も消息はつかめていない。 生きているのか、それとも…。 それでも、僕は信じている。 慎吾はきっと、元気になって… 僕の前に現れると。 大好きな、僕の大好きな笑顔を浮かべて。 「友達になろう」 そう告げるのを 僕は ずっと待っている。 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 崩れ落ちた壁の隙間で ただ、ひたすら抱きしめて、頬を摺り寄せ、話しかける。 「大丈夫…焼けてしまった所も…何もかも…僕が治して上げるから」 だから 「ずっと一緒だよ…ほら、同じだね」 まるで 「壊れた人形のようだ」 こんな僕よりも… ずっとずっと 壊れてしまっているようだよ 「ねぇ… 智?」 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 10話です。 終わった!! 終わりました!!というか終わらせたというか(爆)。 いや、予定では10話完結予定だったので、どうしても今回で。 結末として、慎吾がつけた炎の中で、慎吾と朝幸の別れ、というものをずっと思い描いてきていたので、それをどんな方向に転んでいこうが、そこだけは使おうと(苦笑)。 最終的に、思っていた終わり方とはちょっと違いますが… 私の手が、この内容を選んだという事で(笑)。 本当は智以上に慎吾の方が智を溺愛していたんだよ、ってところがもっと出た最後にしたかったのですが、力量不足は全て私の才能不足という事で今回は諦めます(苦笑)。 勢いで始めてしまった連載でしたが、自分では結構気に入った作品となりました。 どうしても、オリキャラではない部分での葛藤などもありましたが、それがあってのこの内容の作品が出来た、という事で。また、違った形で同じテーマで挑戦してみようという課題も残しておりますが。 このキャラたちだからこそ、浮かんできた設定、台詞、という部分も強いので、やはり此処でこれを連載できてよかったな、と思っております。 ワタクシ事ですが、この作品を手掛けるにあたって、(まぁ、ノイズもそうですが)B−Tやハイドをやたらとヘビロテするようになり、すっかりバンドファンに逆戻りしてしまったという余談も抱えておりまして(笑)、そういった意味でもとっても思い入れのある、思い出深い作品となりました(笑)。 途中、体調を崩し、検査などでしばらくサイトを放置する事となりまして、すっかり客足も途絶えてしまったのですが、それでも、通ってきてくださっていた皆様の為に、少しでも恩返しが出来れば、と。まだ仮復活中のため、イマイチな執筆かもしれませんが、今現在の私の全ては出し切ったつもりです。 あとから、こうすればよかった〜とか思うかもしれないけど… …ひっそり、加筆してるかもしれないけど…(ぇ)。 とにかく、長い間お付き合いくださいまして本当にありがとうございました!! 謎のまま終わらせた感じですが… さて、続きあるのかなぁ〜(ぇ)。 ≪≪TOP |