**弐**

ご飯を食べ終わった後、僕は慎吾の部屋へと向かった。
離れにある、小さな建物。慎吾のためだけの家。
ドアをノックすると、
「誰?」
と、中から慎吾の声がした。
「僕…」
答えると
少ししてからドアが開いた。
「朝幸、どうしたの?」
怪訝な顔をして僕を見る。
「慎吾と…話がしたくって」
慎吾を見る。
慎吾の瞳は少し狼狽した感じがしたけど
「どうぞ」
と、中へ入れてくれた。
何もない、ひっそりとした部屋。
ベッドに、机。そして本がびっしりと並んだ本棚。
「寂しく、ない?」
思わず口をついて出た言葉。
「何が?」
「ココに一人でいるの…寂しくない?」
慎吾は少しの時間しかお屋敷の方に顔を出す事がない。ずっと、ココに一人でいるって、とても寂しいと思った。
振り返ると、慎吾は少し笑った。
「寂しいけどね、仕方ないから」
「何で?なんで仕方ないの?」
問い詰めると、困ったように笑った慎吾はゆっくりと口にした。
「体がね、弱いんだ」
「弱い?」
「そう。僕はね、とても体が弱くって、皆と同じ生活は出来ないんだよ。だから、ココで一人でゆっくりと生活してるんだ」
今まで、僕は慎吾の事を知ろうとした事はなかった。
いや、知りたかったけど、慎吾が拒絶している気がして、どうしても聞けなかったのだ。
でも…今は、どんな些細な事でも知りたかった。
知る事で、あの、夜の出来事は間違いだったと証明したかった。
「だから、ご飯も一緒に食べないの?」
「うん…僕ね、あまりご飯を食べられないんだ。だから、いっつもココで点滴で栄養を入れてるんだよ」
はっとした。
慎吾は、腕を出す服を着たことがない。
それは、針の痕を見せたくないからかもしれない。
「慎吾…ゴメンね」
そう告げると慎吾はビックリした顔で僕をみた。
「何が?どうして謝るの?」
「だって、僕…何も知らなかったから」
謝りたかった。どうしてかはわからないけど、何も知らずに、慎吾が冷たい人だと…僕等の事を嫌いなんだと思っていた事を。
彼は、皆と一緒に居たくても居られなかったんだという事を、知らなかった自分が許せなかった。
「ゴメンね」
もう一度謝る。
「朝幸は、何も悪くないじゃない」
そう笑った慎吾は、不図寂しそうな表情でこう続けた。
「…謝るのは、僕の方だ」
「何で?」
聞き返すと、慎吾は少し怯えたような顔で首を振った。
「な、んでもないよ。ゴメンね、変な事言って」
何事か気になったけど、追求するのはやめた。
慎吾は、きっと言いたくないんだろうから。
「本、凄いね」
話題を変えた僕に、慎吾は気付かれないように安堵の溜息をつき、答えた。
「一人でココに居ると、本を読むくらいしか出来ないから」
悲しくなった。
何故だかとっても悲しい気持ちになった。
「そうだ!!!僕、毎日ココに来てもいい?」
そういうと、慎吾はキョトンとした顔で首をかしげた。
「どうして?」
「僕が、話相手になる!!!本を読むのも飽きるでしょ?だから、僕が毎日話相手になるよ!!!」
慎吾の両手を掴む。
「朝幸…いいよ。朝幸は皆と遊べばいいじゃない」
そう答えて、顔を背けた慎吾。
慎吾の両頬を手で包み、僕の方を向かせる。
「僕はね、慎吾の事…たとえ、慎吾が僕の事を嫌いだとしても…僕は、慎吾が大好きなんだよ?だから、少しでも慎吾と仲良くなりたい。慎吾の力になりたい」
すると、慎吾の目にはうっすらと涙が浮かんだようだった。
「…僕は、朝幸がそこまでしてくれるような人間じゃないよ」
「どうして??」
それは…機械人形だから?
飲み込んだ台詞に、慎吾は気付かず、ただ首を振った。
「僕の事、そんなに嫌い?」
慎吾は思い切り首を横に振る。
「じゃあ、いいよね?明日も来るから!!」
一方的に約束をして、僕は慎吾の部屋を飛び出した。
温かかった。
手が触れた部分全てが…頬も、両手も。
慎吾は機械なんかじゃない。
そう、そんなわけがない。
自分に言い聞かせながら、僕は屋敷へと走っていった。
慎吾の呟いた言葉は、全く聞こえていなかった。


「好きだから…仲良くなりたくないんだ」



**********
2話ですの。
小さい頃、点滴ばっかり打ってたのは私です(爆)。
今回は、朝幸と慎吾しか出てきてないなぁ…。
次回は他の方たちも登場。徐々に展開を見せていく予定。
ちなみに、あまり長くしない予定。
…予定は未定(またかよ)



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