**参**

「朝幸、何処に行ってたの?」
屋敷に戻ると、幸人が駆け寄ってきた。
「ん、慎吾のトコ」
「慎吾の?」
首を傾げる幸人に
「うん。だってね、慎吾寂しいと思ったから」
そう答えると、幸人はフワリと笑った。
「そっか。朝幸優しいね」
すると、幸人の後ろから直樹が歩み寄ってきた。
「朝幸、話があるんだけど」
「何?」
「えっと…ちょっと、庭付き合ってよ」
親指で、クイっと庭を指す。
「ねぇ、僕も一緒していい??」
直樹の腕に抱きつき、おねだりしてみる幸人の頭をクシャっと撫ぜて
「お前は部屋で待ってろ」
と、直樹は告げた。
「え〜!!つまんない…」
いじける幸人に背後から真次の声。
「おいで、幸人。一緒に遊ぼう」
その声に、一気に表情を明るくし、幸人は走って真次のところへ行ってしまった。
「何?深刻な話?」
直樹に耳打ちすると、「ちょっと」と微かに頷いた。
僕等はそのまま庭へと足を運んだ。
「で、わざわざ庭に出たって事は…」
「聞かれたくないヤツがいるんだ」
僕の言葉を遮り、直樹は言う。
「何の話?」
庭の奥にあるベンチに腰をかけると、ゆっくりと直樹は隣に座り、足を組んだ。
そのまま顎に手を当て、少しの時間考え込んだらしく、沈黙が続いた。
「直樹…」
促すように呟くと、直樹は「あぁ、ゴメン」と小さく呟き、頭を軽く左右に振った。
「なぁ…真次が、言ってたんだけど」
「何?」
「友一…おかしくないかって」
「…何処が?」
「俺も、よくわかんねぇ。でも、真次が言うには…友一が寝坊し始めたあたりからちょっと変だって」
「…そう、かな」
「俺には、わかんないけど…真次は、友一との付き合いが一番長い。まるで双子のように一緒に過ごしてきてるんだ。俺と幸人みたいに。だから、ほんの少しの変化でもきっと何か気付く事があるんだと思う」
「そっか…で、どんな風に変だって?」
「それがさ、何となくなんだって」
そういって、直樹は背もたれに寄りかかって両手を伸ばした。
「何となく??」
「ん、何となく」
「それじゃあ…」
「どうしようもないよね。調べようもないし」
こっちを見て、直樹は苦笑した。が、すぐに表情を一変させる。
「だけどさ。真次すごい不安がってる。友一じゃない気がするって。だから、何とかしてあげたい。朝幸も協力してよ」
真っ直ぐに見つめる目に、僕はどうしていいのかもわからないまま頷いていた。
「ありがと。やっぱ優しいね、朝幸は」
そう笑う直樹に
「直樹だって」
と笑い返す。
「さて、どうやって調べようか」
直樹の問いに、
「しばらくは様子を見るしかないよね。真次にも直接話を聞きたいし」
そう答えたとき、背後で足音がした。
「何、やってんの?」
二人で勢いよく一斉に振り向くと、そこには屈託のない笑顔で「よっ!」と手を上げる友一がいた。
「なんだよ。ビックリさせんなよ」
平然を装ってる直樹の手が、僕の手に少し触れていた。
そこから、直樹の緊張が伝わってくる。
僕の心臓もかなり速度を速めていた。

    − 聞かれた…? −

「そんなトコで二人でコソコソしてさぁ〜何か怪しげ〜」
と笑う友一。

    − 大丈夫。聞かれてない −

直樹が、僕の手をギュッと掴み、唇だけで、そう告げた。
そして、友一の方を向き、
「そこまで悟ったんなら邪魔するなよ」
とニヤリと笑ってみせた。
「何それ〜認めてんじゃねぇよ〜」
友一も笑う。
二人が笑い合ってる中、僕だけはいつまでもドキドキしていた。
慎吾の事、そして友一の事。
なんだろう。何か嫌な予感がする。
「朝幸〜」
友一の言葉にハッと我に返る。
「な、に?」
「な〜に顔赤くしてんの。ホントみたいじゃん」
笑った友一は
「じゃあ、お邪魔みたいだから退散するわ」
じゃね。
と背を向け、手をヒラヒラとさせて部屋へと戻っていった。
「…ほんとに、聞かれなかった…かな?」
友一を見送ってから、直樹に問いかける。
「大丈夫。アイツの性格上、聞こえてたらきっと突っ掛かってきたと思うから」
大丈夫だよ。
そう言って、直樹は僕の手をもう一度ギュッと握った。
「さて…俺達も戻ろう」
幸人がいじけると困る。
苦笑する直樹。
僕は頷いて、直樹の後ろをついていった。
手を引かれながら…僕は考えていた。
友一が、友一じゃない。
それはどういう事なんだろう。
頭によぎるあの智の歌声…
まさか、慎吾の事と関係あるんだろうか。

でも

慎吾が機械人形である可能性よりも、友一が機械人形である可能性のほうが明らかに低い。
だって、友一は真次と生まれたときからほぼ一緒にいる。
機械人形であるわけがない。

だとしたら

友一は…一体何があったのだろう。

そして、慎吾は…

僕はすでに 
   さっきまで感じていた
     慎吾の   温もりを     


                                                      思い出せなくなっていた






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3話です。
展開をみせてみました。
実はエンディング…というか、結末のシーンは頭の中に出来上がってるんです。
結末…というか、事実が明らかになる瞬間のイメージが。
ヴィジョンとして浮かんではいるので、それに向けて頑張って行こうと思います。
今回は、ちょっとだけこってみたんだけど…画面最大にしてみてもらわなければ、きっと明らかに場所がずれてるよね(苦笑)。



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