部屋に入っても、松本はずっと下を向いたままだった。
「ねぇ、まっさん…まっさんはこのROM、どうやって手に入れたの?」
屋良の問いかけに、松本は小さく首を振る。
「わかんねぇんだ。一昨日、学校から帰ってきたら、郵便受けに入ってたんだ」
それは、茶封筒に無造作に入れられ、宛先も、送り主も何もなく、入っていたのだという。
「気味悪かったけど、とにかく開いてみようと思って…そしたら」
いきなり、自分の名前が登録された。そして、あの警告文が表示されたという。
「ねぇ、その後、タイムカウントでなかった?」
植村の質問に松本は確信を持って首を振る。
「警告文の後、「アオノセカイヘヨウコソ」って文章がでて、、画面は止まったんだ」
だから、それ以上は何も…
「まっさんも、BLUEだった?」
高木に聞かれ、松本は頷いた。
「そっか…俺達は皆同じチームなわけだ」
町田の言葉に、もしかして、と松本は全員を見る。
「さっきから思ってたけど…もしかして、皆これ…」
「そう、誠が拾ってきて…全員登録したんだ。そしたら、まっさんが言ってたとおり、警告文が出て…」
その後、あの意味不明な言葉の羅列が表れた…
『破壊セヨ…全テヲ』
『死守セヨ…全テヲ』
『蒼ノ世界ハ…君達ノ手ニ…』
『リセットセヨ…コノ…狂イ出シタ…蒼ノ世界ヲ…』
『助ケヨ…コノ…枯レ果テタ…蒼ノ世界ヲ…』
『全テハ…君達ノ手ニカカッテイル…RE・MAIN
OR
RE・BORN』
『健闘ヲ祈ル』
『消滅マデ 168:00:00』
「消滅!?」
松本が目を丸くする。
「そう。1週間後に、消滅。このまま、放っておけば、の話だけれどね」
「でも…」
「確かに、何をすればいいのか、俺達は全くわからないんだ。だから、まっさん、何でもいいから変わった事ないか思い出してよ」
真っ直ぐに見つめる植村の眼に映る松本は明らかに狼狽していた。
「思い出せって言われても…何も、何もわかんないよ」
項垂れる松本の横で、高木が不図声を上げた。
「ねぇ、カウントが始まったのって、きっとメンバーが揃ったからなんじゃない?」
「メンバー?」
首を傾げる屋良。
「そう。きっとBLUEのメンバーが町田君が登録するまでは定員じゃなかったんだよ。それで、町田君が登録したと同時にカウントダウンが始まったんじゃないかな」
「他にも…チームがあるってこと?」
「確かに、そうかもしれない」
植村が頷く。
「わざわざ、チーム名を表示しているのは、他にもチームがあるからだろうし…それに、あの文章、」
「文章?」
松本が尋ねる。
町田は大きく頷いた。
「あぁ、破壊せよ、死守せよ、ってやつだね。リセットしろっていいながら、助けろっていうのは意味不明だからね。あれは相対するチームへのメッセージだ」
「だとすると…他に、このROMを起動させて、僕等と相対するチームに属した人がいるってことだよね」
屋良の言葉に高木は頷く。
「そいつ等もこの画面を見てる。そう思う。そうじゃなきゃおかしいんだ。同じ時間に、この画面を見てるはず。きっと、指示されたはずなんだ。このソフトに」
「指示?」
「指示しなくちゃ、この画面を見てもらえない。そうすると、このメッセージは伝わらない」
「でも…ROMは一個しかないんだよ?この画面見れるのはROM持ってる人だけじゃないの?」
屋良の言葉に、植村は首を振る。
「どうやら…このROMは自動的にハードを媒体にして寄生していくらしい。一度ROMを起動させたハードにはこのソフトが自動的にDLされている。そして、動き続けているみたいだ。まっさん、立ち上げてみて?」
松本が「ちょっと待って」と立ち上がり、PCを起動させた。
松本が立ち上げたPCは暗い画面から一転して真っ青なディスプレイに変わり、消滅へのカウントダウンを表示していた。
「な…んだよ、これ」
松本は息を飲んだ。
一昨日から、恐怖のあまり、PCを一度も立ち上げなかった。
まさか、こんなものが表れるとは思ってもいなかったのだ。
「このPCは…すでにこのソフトに侵蝕されているんだよ。僕のと同じようにね」
植村の言葉に、松本は慌ててPCに触れる。何処をクリックしようが、キーを叩こうが、一向に画面は変わる事はなかった。
「とにかく…敵対する立場のチームを探すのが先決だな」
町田の言葉に、屋良の頭に不図よぎる嫌な予感。
「屋良っち?」
どうしたの?顔色、悪いよ?
高木の言葉に、屋良は少しだけ頭を左右に振り、全員の顔を見て告げた。
「ラッチ…」
「何?」
その言葉には答えず、思いついた疑問をぶつける。
「ねぇ、まっさん…このROMのこと、学校で話した?」
尋ねられ、少し考えた松本はゆっくりと首を振った。
「多分…話してないと思う。怖かったから、話題に出すのも嫌だったし…もしかしたら、少しは口に出したかもしれないけど…」
「ROM、捨てたって言ってたよね。どこに捨てたの?」
「家に捨てるのも何か嫌だったから、学校の焼却炉に」
その言葉に、屋良は少しだけ頷き、全員に告げる。
「もう一度、ラッチに会おう。やっぱりおかしい気がするんだ、どうしても…。確かめようよ。もしかしたら…」
「もしかしたら…?」
全員が息を飲んだ。数秒の静寂の後、屋良は出来れば違う事を祈りつつ、告げたくない言葉を続けた。
「ラッチが、敵対するチームのメンバーかもしれない」
『消滅マデ…163:52:43』