「良知が??」
高木と植村の驚きとは反し、町田は少し黙りこんだ後、頷いた。
「確かに、おかしいね」
「…でしょ?」
「焼却炉に捨てたはずのROMを…何故誠が1−C前で拾ったのか。それに、まっさんが誰にも話していないはずなのに、何故良知は話を聞いたなんて嘘をついたのか」
「とにかく、戻ろう」
植村の言葉で、全員立ち上がる。
「まっさん…行こう」
屋良が松本を見た。
「や、俺は…」
目をそらす松本。
「逃げてちゃ、何も解決しないよ。すでにゲームは開始されたんだ。だったら…終わるまで、やるしかないんじゃない?」
屋良は松本の隣に座る。
「屋良っち…」
「ね、僕等と一緒に行こうよ。何もしないより、少しの可能性にかけてみようよ」
「…わかった。一緒に行くよ」
松本は、ゆっくりと立ち上がった。
そして、向う。 「敵」の待つ場所へと。
++ ++ ++
慌てて良知の教室へ向う。
「あれ、ラッチは?」
尋ねると「生徒会室」と返事が返ってきた。
「一体…どうなってるんだ?」
高木は独り言のように呟く。
「とにかく…ラッチおかしいよ」
屋良が答える。
「色々と追求しなきゃいけない事があるのは確かだな」
町田が言うと同時に生徒会室へとたどり着いた。
「さて、あけるぞ」
言い聞かせるように呟き、町田はドアを開けた。
「あれ?どうしたの?皆」
いつもと変わらぬ笑顔の良知。
変わらない笑顔のはず…なのに
屋良の背中には悪寒が走った。
「…なんで、知ってたの?」
「何を?」
「『蒼の世界』。まっさんは学校でそんな話してないって!!」
屋良が叫ぶ隣で、頷く松本。
「そうだったかな?じゃあ、誰か他の人から聞いたのかもしれないね」
サラっと答えて、書類をまとめて立ち上がる良知。
「他に用事は?」
「…」
黙り込んでしまった屋良の隣から、町田が静かに問いかける。
「焼却炉からROMを拾い出したの、良知だね?」
柔らかい口調とは裏腹に、鋭い視線を投げかける。
「何故?僕だという証拠でも?」
冷ややかな視線を返す良知。
暫く沈黙のまま睨み合いが続く。
その沈黙を破ったのも町田だった。
「じゃあ、質問を変えよう。このROM、まっさんの家に届けたのも良知だね?」
その問いに、良知は暫く冷たい視線をはずさずに町田を睨み…
やがて、溜息と共に肩をすくめ苦笑した。
「何を根拠にそう思ったのかはわかりませんけど…もう面倒くさいので話してしまいましょうか」
「ラッチ…?」
「町田さんの言う通り。松本にROMを届けたのは僕だ」
「どうして!!」
「どうして?おかしな質問だね、屋良っち。もちろん、ゲームを開始する為に決ってるじゃないか」
「…どういう事だ?」
震える松本の問いに、良知は冷ややかな笑いを浮かべたまま続ける。
「今の世界に何の魅力も感じていない人たちがいる。自分達の力で新しい世界を作り上げようというわけ。僕等は彼等と手を結ぶことになった。彼等は最後の賭けに出た」
「賭け?」
「そう。この地球をリセットするにあたって…助けようとする人間がいるのなら…助ける事が出来るのなら…もうしばらく様子を見てやってもいいだろうって」
「…一体、それは」
「悪魔…とでも言いましょうか?所詮、神なんて悪の権化だ」
「神…?」
「世の中に、人間という種族しかいないと思ってるのは、傲慢な考えです。人間は作られた種族。そして、それを作った側が、失敗作だと感じたときには…作り直す必要がある。それは何においても言えることでしょう?」
「…いってる意味が…」
呟いた植村に向かい、良知は手を翳した。
「目で見たモノしか信じられないのは、出来の悪い証拠ですよ」
植村の横を物凄い風圧が波光と共に通り過ぎる。
「ラッチ…」
全員が、言葉を失った。
良知の背中に…大きな翼が見えたのだ。
それは雄大で…美しく。
美しく光り輝く漆黒の翼。
「君らが相手をするのは…人間ではない。そして、こちら側の人間はすでに能力を与えている」
彼らは、覚醒したんだ。
ニヤリと笑う。
「さぁ、此処まで教えてあげれば十分すぎるでしょう?」
「一体…どうすれば地球は助かるんだ!!」
高木が叫ぶ。
「それを考えるのはあなた達でしょう?さぁ、ゲームを開始しましょう。PCに向ってせいぜい考えてください。PCが軸となって進んでいくゲームですから、常にPCに目を向けているといいでしょう。あぁ、また教えすぎましたね。しょうがない、此処まで教えたのだから、最後にもう一つだけ教えてあげましょう」
良知の翼が…大きくうねる。
「PCを動かすキーワードは…」
『堕天使』
その言葉と共に…良知は消えた。
「一体…どういう事だ?」
植村が呆然と呟く。
「…とにかく、悩んでいる暇はない。良知の言ったキーワードが、次に進む鍵かもしれない」
試してみよう。
町田はそう言って、生徒会室のドアを開けた。
「町田さん…」
「良侑の家に行こう。話はそれからだ」
低く響く町田の声に、全員ただついていくしかなかった。
『消滅マデ…162:14:57』