第壱話

屋良が姿を消して3ヶ月が経とうとしてた。
僕は…相変わらず皆とこの家に暮らしている。
ここは、どんな場所よりも居心地が良かった。
「ラッチ、ご飯!!」
ドアを開けて、良侑が僕を呼ぶ。
「あ、今行く」
振り返り、読みかけの本を閉じて、僕はベッドから立ち上がった。
不図、窓に目をやる。
あの、櫻が見えた。

『櫻の木の下にはね、死体が埋まっているんだよ』

初めてあったあの日、あの場所で、屋良はこう言ったのだ。
屋良も…あの櫻の下にいるのだろうか。
不図浮かんだ考えに、
「そんなわけ、ないよな」
と、自分でも苦笑して部屋を出た。
食堂へ向かうと、もう全員揃っていて
「ラッチ、遅いよ!!!」
尾身君が叫ぶ。
「ゴメン、丁度いい所だったんだ」
そう謝ると
「ラッチ、ホント本好きだよね」
と誠君が笑う。
「好きっていうか…」
思わず、答えに困ってしまった。
本を読むくらいしか、ないのだ。
僕は、皆と違って力も失ってしまった。
それは…前から望んでいたことだったけれど。
今更、普通の生活に戻る事も出来なかった。
かといって、彼等と一緒にいても微妙なズレを感じるのも事実だ。
外に出るわけでもなく、ただただ部屋に篭っている生活。
自然と、興味は本へと向かっていった。
少しでも、屋良の事を理解したかった、という気持ちもあった。
勉強すれば、屋良の身に起きた事を、少しでも理解できるかもしれない。
それもあって、時間さえあれば本を読み漁っていた。
「いいじゃん、そんな事。とにかく食べようよ。お腹空き過ぎだし」
町田君が、不満そうに言った。
ホッとした。
話が、逸れて。
町田君は、チラっと僕を見た。
彼は…わかっているんだと思う。
僕の、この微妙な気持ちを。
ここに来た当初は、彼は少し怖い人かと思っていた。
でも、長く一緒に生活してみて…彼は優しい人なんだと気がついた。
今のだって、彼の優しさだと思う。
僕は、町田君に微笑んでみせた。
…微笑むことしか、出来なかったのだ。
申し訳なさと、どうしていいかわからない自分の気持ちに。
無力な僕は、笑う事しか出来なかった。
「さて、食べるか」
原君の声に、全員が頷く。
「いただきます」
そろった声。
楽しそうな皆の会話に、僕は何となく入っていくタイミングを失ってしまった。
黙々と食べ続けていると
「ラッチ。思いつめるのは良くないのじゃ」
大野君が突然話しかけてきた。
「思いつめる?誰が??」
思わず、目を丸くする。
「ラッチが。自分でも気付いてないの?ものすごく、悩んでるよ」
このままじゃ、心が…壊れちゃうのじゃ。
心配そうな大野君の顔。
「大丈夫だよ」
笑顔で答えてみるものの、大野君を誤魔化す事なんて、出来るわけがなかった。
彼は…僕の心を読んでいるのだ。
自分でも気付かない無意識の意識ですら、大野君には手に取るようにわかってしまう。
「なら、いいけど」
大野君は、それ以上は追及してこなかった。
そんな状態でしばらく食べ続けていた僕達は、誠君の言葉に動きを止めた。
「何??何て言ったの??」
すずっくんが聞き返す。
「屋良っちだ…屋良っちが、帰ってくる」
全員が、顔を見合わせた。

屋良が…帰ってくる。

誠君の予知は正確だ。
だとすれば、もうすぐにでも、屋良は帰ってくるはず。
「屋良っちが…帰ってくる」
良侑の目に、涙が浮かんだ。
そして、その後しばらく、誰も声を出す事が出来なかった。
++ ++ ++
食事も終わり、僕はまた部屋へ戻ろうとしたが、原君に呼び止められた。
「少しぐらい、皆と居たっていいんじゃないか?」
柔らかい物言いでも、反論できない力がある。
「あ、うん…そうだね」
曖昧な返事をして、僕は居間のソファに座った。
隣に、町田君。
ボーっとテレビを見ていると
「ねぇ、」
と町田君の声。
「何?」
「…別に、深く考えなくていいんじゃない?」
「何を?」
「…力の事。あっても無くても、今までどおりでいいんじゃないの?急に住む世界が変わった、みたいに思わなくてもさ」
言われて、ハッとした。
確かに、僕はずっと皆と世界が変わってしまったと、頭の何処かで考えていた。
「…そうだね。ゴメン…何だか、自分でもわかんないんだけど…不安なんだ」
そう言うと
「不安なのは…ラッチだけじゃないよ」
町田君は静かに呟いた。
その言葉が終わると同時に誠君が叫んだ。
「屋良っちだ!!!」
玄関へと駆けて行く。
全員で、その後を追う。
そして、玄関にいたのは…

「ただいま」

僕が…初めてあった時よりも、まだ幼い笑顔の屋良がいた。
「屋良っち!!!」
全員が屋良に抱きつく。
良侑は泣いていた。
とても、嬉しい再会の場面。
誰もが心待ちにしていた、屋良との再会。

でも…
僕は、少し奇妙な気分がした。
何なのかはよくわからないけど…
少しだけ、背筋がゾクっとしたのだ。

気のせいだ。

そう、首を振り、僕は屋良へと近づいた。
「お帰り、屋良」
手を差し出すとニッコリと笑顔で握手を交わす。
「ただいま、ラッチ」
その手は、温かかった。
生きている、屋良は生きているんだ。
そう思ったら、不安は少し消えていった。
あの出来事が…悪夢のような出来事はもう過ぎ去った事だ。
これから、また新たに屋良と生きていくんだ。
そう…
思っていた。

この時は、想像もしていなかったのだ。

まさか…
あの、悪夢のような出来事が…

ただの序章でしかなかったなんて…

僕は、思いもしていなかった。








続けましたv
今回は、前作よりも更にダークにダークに行こうと思ってますので、それこそ、逃亡者で予定してました、メールでのURL公開式になるやもしれない今日この頃(笑)。や、でもギリギリ大丈夫だと思うんで、このまま突き進む予定です。
つーか、この先起きる悪夢のような出来事をまだ何も考えて無いんですよね(爆)。
って事で、これから頑張ります〜!!!

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