「彼を…ラッチをどうする気なの?」
屋良の声。
「どうする?別にどうもしないさ。君で失敗した事は繰り返さない。彼が僕に自然に体を差し出してきたのさ。こんなにも入りやすい体なんて初めてだった」
誰の声。
いや。
これはよく知っている声。
僕の声だけれど。
だけども。
もっと前に聞いたことのある
アノ
オゾマシイ記憶ノ声。
『体…ちょうだい』
あぁ。
あの時からきっと。僕は彼に体を受け渡す事を自分の中で受け入れていたのだ。
誰にも必要とされない子。
そんな僕は、生きている意味がないのだと。生きている価値がないのだと。
そう。
ほんの小さな頃からずっと。
僕は、そう思ってきたのだ。
「ごちゃごちゃうるさいな」
彼の声。
「色々考えているみたいだけど。どうせ無駄だよ。もう、君は僕に吸収される運命にあるんだ」
ニヤリと笑うボク。
「そんな事はさせない!」
屋良が叫ぶ。
もう
どうでもよかった。
僕が犯した罪は消えない。
だから、いっそ
キエテシマエバイイ
「ラッチ!!消えちゃやだ!!」
泣いてくれるの?
僕のために?
誰にも必要とされた事なんてなかった
誰も僕を
愛してなんて
くれなかったから
でも
それはしょうがなかった
だって
愛サレル資格ノナイコドモダッタカラ
ソウ
人ヲ殺メテシマウヨウナ...
「あぁ、それね。自分がやったと思っているだろうけど、あれは俺がお前の体を借りてやった事。お前が微かにしか記憶にないのは仕方のないことさ。俺の影に隠れてみていたんだからね」
「ラッチ...ラッチは...悪くないんだよ。だから」
違ウ...
僕ハ…
「殺したんだ」
搾り出したような僕の声。
「ラッチ?」
「お父さんも...僕が殺したんだ」
火をつけたのはお父さん。
でも
それは自殺のような殺人。
だって。
追い込んだのは僕だから。
彼を...
火を放つまでに
追い詰めたのだから。
僕の存在が
全てを苦しめる。
僕の存在が
全てをダメにする。
いっそ
いっそのこと
僕の
命を
彼に捧げてしまえれば
僕ハ
楽ニナレル......ノ?
「あぁ。楽にしてやるよ」
彼の声が
遠くに聞こえる。
膝を抱えて震え続けていた弱虫の僕は
小さく
小さく
消えていく。
「僕が嫌なんだ!!」
急に光が差し込んで
その目前に見える両手を広げた屋良の姿。
「他の誰が何と言おうと...僕が...僕にラッチが必要なんだ!!誰にも渡さない!!ラッチは僕のだ!!僕がそう決めたんだ!!」
いきなり、屋良は僕を抱きしめた。
涙が、頬へと伝う。
それが、僕の手に...
僕の、手?
感覚が、戻っている。
「屋良?」
その涙を...そっと拭う。
手が、思い通りに動く。
左目に流れる涙を、舌で拭ってみた。
まるで、聖水のように体中に染み渡っていく。
僕は
一人じゃなかった。
誰かに
たった一人でも
必要としてもらえている
それだけで、
僕は生きていくことが出来る。
「彼...は?」
「出て行った。大丈夫。誰かと絆を持った人間の仲には...彼はいられない」
「絆?」
「ラッチは...僕を信じてくれたんでしょ?僕に心を開いてくれたんでしょ?だから、彼は出ていった。僕にラッチが必要なように...ラッチにも僕が必要だよね?」
腕の中で上目遣いに覗き込んできた屋良の眼は涙で濡れている。
僕のために、流した涙。
あぁ
人に必要とされるという事は
こんなにも
心地の良いものだったのか。
「大好きだよ、屋良」
僕は
その言葉と同時に
気を失った。
■■■■
過去の記憶が蘇る。
右目から溢れる涙。
僕が…屋良を助けなくちゃ。
僕じゃなきゃダメなんだ。
だって、僕と屋良は…ぴったりと合わさるはずの欠片同士だから。
僕たちの心には隙間が合って…それを埋める事ができるのはただ一人しかいない。
「ね?望まれない子供なんていないんだよ。必ず、誰かが必要としてる。ようは、その誰かを見つけられるかどうかなのじゃ。」
このとき、そう思って僕は屋良を助けたのだった。
もう、すっかり忘れてしまっていたけれど
あの時から
いや、
であった時から
僕らは
ぴったりと合わさるはずの欠片同士だったのだ。
なぜ一人だと思ったのだろう。
なぜ一人だと思えるのだろう。
こんなにも側にいるのに
僕は
ちゃんと
見つけられたんだね
■■■■
「なぁ、良知はまだ眼を覚まさないのか?」
「うん。でも、大丈夫」
「そっか。大野も、大分回復したし、町田も鈴木も...ただ、不思議な事に...あいつ等全員、記憶を失ってる」
原は眠る良知の手を握り締めている屋良の頭を撫でた。
「ん...いいんだよ。怖い事は...忘れてしまった方が幸せだもの」
ニッコリと笑う屋良に原は静かに頷いた。
「そうかもな。俺は大野のところに行くよ。お前、少し眠れよ?」
そう言って原はドアを閉めて出て行った。
全員記憶をなくしていた。
原以外は
「予定外...だったな」
やっぱり、僕の血を飲んでるからかな
「効き目が弱いんだ、原っちには」
ニッコリと微笑む屋良。
「大丈夫。ラッチ。早く起きておいで?やっと僕のモノになったのに」
眠っていては...つまらないよ
「気付いてもらう為に...随分と遠回りをしてしまったけれど」
やっと
「僕のモノだ。ラッチがいないと...僕は人格形成が上手くいかないんだよ。だから、早く起きて?」
そして笑って?
屋良は良知の額に契約のように唇で触れた。
「僕も、大好きだよ?ラッチ」
彼と
同じくらいにね
『ラッチは...僕の大事な...部品...なんだから』