第9話
静かにドアを開けた。
少しの隙間から…外界を覗き見る。
そういえば
昔、屋良とドアの隙間越しに眼が合った事があったな。
なんて、ぼんやりと思い出したりもした。
もう一度、自分を奮い立たせて、ドアを開いた。
すぐそこの、屋良の部屋までが…永遠に続く苦悩の道に感じられた。
コンコン
しばらくすると、何も言わずに開けられたドア。
「待ってたよ」
そう言って、屋良は微かに笑った。
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「ラッチ、だね」
それは疑問というよりも、確信している口調で。
それでも、僕は何に対しての確信なのか、図りかねていた。
「今、ここにいるのは…ここに来ようと決めたのは…ラッチだよね」
まるで僕の疑問を読んだかのように、屋良が再度尋ねてきた。
「うん…僕だよ」
その段階で、屋良には…もう僕の中に、僕以外が存在している事がばれているという事か、と答えながら思う。
やっぱり
屋良には隠せないんだな…
隠せない?
僕は…敢えて隠していたのか?
無意識の意識下で
僕は
僕以外の存在に気付いていたというのか?
あぁ…
世界が
回る。
グルグル、グルグルと。
思考の波にのまれ
絶望の岸へと辿り着く。
奈落の淵へと
そのまま…溺れて沈んでいくようだ。
「屋良…」
僕を…
「…僕のせいだ」
僕の言葉を遮って、屋良が言う。
「何が?」
「ラッチが…そうなってしまったのは」
そうなった?
「どういう、事?」
わからない
ワカラナイ
「僕を…助けてくれるために…ラッチは僕の事を深くまで知ろうとしてくれた。そして…」
触れてしまったんだ…
「…何、に?」
声が…掠れている。
きっと僕は…続きを聞く事無く…
答えを、知っている。
「人が誰でも持つ…暗闇だよ」
…
「誰もが持ってる…でも、最奥に眠っていて…それを目覚めさせる人は数少ない」
「…暗闇」
「嫉み・妬み・殺意・強欲…その最たる全てがそこにある…僕の中にいた、「彼」はその象徴だったんだ」
あの時…
「ラッチは、ラッチの純粋な心で、僕の「暗闇」に打ち勝ってくれた。そして…僕はやり直す事が出来た。「暗闇」が全くなくなったわけではないけど…「彼」とは決別する事が出来た」
そのかわり
「あの時…彼と触れ合ってしまった…ラッチに…ラッチの弱い心に…「彼」は入り込んだんだ」
「弱い…心…」
「…疎外感、孤独、そんな感情に彼は付入って来る」
あぁ。
僕は常に感じていた。
もう、違うんだ…と
彼らとは…世界が違うのだ、と。
そんな弱い心が…「彼」を呼びよせたというのか。
確かに…僕は心のどこかで、彼らに嫉妬していたかもしれない。
あれほど、必要ないと思っていた力を…それでも、仲間の絆として必要なのであれば…
それを持つ彼らがとても羨ましかった。
浅ましくも…疎ましく思ったことも事実だ。
現実を突きつけられるような…
一緒にいる事が…
僕にとって、とても苦痛だったのかもしれない。
力を…自在にあやつる彼らが。
僕は
羨ましかったんだ
「ラッチは力が消えていたわけではないのに…多分。「彼」を追いやるために、一気に放出しすぎて、一時的に使えなくなったんだと思う」
もう…よかった。
「いいんだ、もう」
「ラッチ?」
「僕が…此処に来たのは…理由を知りたかったわけじゃない。理由なんて…もう、どうでもいいんだ」
「…ラッチ。僕は」
「屋良…」
僕は、さっき言いそびれた言葉を…今度こそ、告げた。
「僕を…殺して欲しいんだ」
「ラッチ!!」
「彼と一緒に…僕を封印して欲しいんだ」
いや…
「消滅…かな?」
自嘲めいて弱弱しく微笑む。
「馬鹿なこと…言わないでよ!!」
屋良の眼に、涙が浮かぶ。
「馬鹿なこと?何故?僕は…もう、僕じゃなくなってくんだ。僕じゃない…でも、確かに僕である何かに」
それに
「僕のした事を…僕が許せないんだ」
「…悔いて、やり直す事だって出来るよ…僕がそうなんだ。そんな悲しい事言わないで…」
屋良が僕をギュッと抱きしめる。
小さな両腕で、僕を力いっぱい抱きしめる。
僕を逃さないように…
それでも
僕は壊れていく
内から
心ガ
壊レテイク
アァ
ナンテ
美シイ
黒ノ世界
遠クカラ
聞コエル声
「久しぶりだね…」
それを発したのは…紛れもなく良知の口だった。
post script
第9話です。
お久しぶりになってしまって、全くもってどうするつもりだったか忘れてしまったので、8話を読み直して、手の思うままに任せてみました(笑)。
うん、いいんじゃない?(爆)。
さて、この連載ももうじきラストを迎えますね。
多分、10話完結かと思います。
徐々に終わる連載が多くなってきたなぁ〜。
新しい連載始めよ〜(爆)。
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