HRも終わり、森田は鞄を抱えて席を立った。
「あ!剛君待って!」
隣から、声がする。
「何?」
振り向くと、屋良が人懐っこい笑顔でこう切り出した。
「ね、一緒に帰ろ?」
…何となく、わかる。
屋良は人の懐に入ってくるのが上手いのだ。
軽く甘えた感のある表情と口調で、すぐに人の警戒心を解いてしまう。
可愛いヤツだな、と思わせるのが上手いのだ。
本人は無意識なのか意識的なのかは知らないけれど。
「いいけど、屋良って家どの辺?」
「えっとね…グラウンドあるぢゃん。あのそば」
「あぁ、そうなの?じゃあ、近いじゃん」
「ま〜ぢで〜!何か偶然〜」
ニパっと笑って、屋良は鞄を抱えた。
「ぢゃあ、帰ろ?」
ちょっと首を傾げる感じが年齢よりも幼く映る。
「屋良っち〜!サッカーしようぜ!」
クラスのヤツが話しかけてくる。
「ダメ〜。今日は剛君と帰るから!」
そう言って、屋良は「行こっ」と森田を引っ張る。
「あ、ちょっと待って。俺さ、一緒に帰るヤツ他にもいるんだけど、そいつも一緒でいいかな?」
尋ねると、屋良は少しキョトンとした顔をしたが、すぐに
「いいよ〜大勢のが楽しいもん」
と笑顔で言った。
「でさ、俺もソイツもサッカー好きなんだけどさ…良かったら、一緒にやらね?」
予定よりも早いが…折角のチャンス。
此処で、一気に距離を縮めよう。
「まぢ?サッカー好きなの?すげー気が合う感じ〜!ぢゃ、やろう!」
言うと、屋良はクルっと振り向き、
「やっぱ、やる!二人連れてくけどOK?」
と、さっきのヤツに尋ねている。
ソイツは「おう!じゃあ、グラウンドでな!」
と言って、手を振って帰っていった。
「さて、ぢゃあ、帰ろう。剛君の友達って何組?」
「2年なんだよ。C組」
「先輩?すげー!剛君ってば、もう先輩に友達いんの?C組…C組って…」
「ん?どうした?」
屋良が、少しだけソワソワしている感じがした。
瞳が揺れている。
「ううん!なんでも!!ぢゃあ、行こう!C組行こう!!」
何故か勢いよく、ブンブンと手を振って早足で2年の教室へと向う。
「なんだ〜?アイツ」
森田は首を傾げてついていった。
教室の前に来たとたん、屋良は更に狼狽し始めた。
「お前さ。何か変だけど?」
森田の問いに
「そ、そんな事ないよ!!」
と、何故か真っ赤になって叫ぶ屋良。
「ま、いっか」
森田はガラっとドアを開けた。
「慎吾〜」
呼んだ瞬間、後ろの屋良がピクっとした気配がした。
…もしかして。
森田は、不図よぎった考えに、思わずにんまりしてしまった。
なんだ。案外楽そうじゃん、今回の仕事。
そう思いながら、町田に視線を送ると、町田はせっせと教科書を鞄に詰め込んで、慌てて走ってきた。
「ご、ごめんね、剛君。待たせちゃって。ホントは、僕が迎えに行こうと思ってたんだけど、」
勢いよく謝る町田に
「別に、待ってないから謝んなよ。それよりさ…」
少し、間をあけて、森田はニタ〜っと笑う。
「な、なに?」
キョドキョドする町田に向かい、森田は後ろ手で屋良をクイっと掴むと、町田の前に滑り込ませた。
「一緒に、サッカーやろうぜ」
ニヤっと笑った森田に
「え、えっ、え〜!!」
屋良を見て、アワアワして、叫んだ町田が思わず鞄を落とす。
更に、屋良はといえば、先程までの人懐っこさは一体何処へ行ってしまったのか…
俯いて、モジモジしている。
「…面白ぇ〜!!お前等すげー面白ぇ!!」
森田はお腹を抱えて笑い出した。
思ったとおり。
屋良も町田に好意を持っているようだ。
なら、話は早い。
「ご、剛君!な、なんで??」
尋ねる町田に
「いいから、鞄拾えって」
と促す。
「あ、そっか」
といいながら、鞄を拾い上げ、町田は屋良と森田を交互に見る。
「で、どうして?」
「屋良がさ、一緒に帰ろうっていうからさ。だったら、お前も一緒にサッカーして帰んねぇかな〜?と思って」
嫌なら、いいけどよ。
サラリと告げた森田の言葉に
「い、嫌じゃないよ!」
と慌てて叫ぶ町田。
「じゃあ、行こうぜ」
ほら、屋良行くぞ!
と、屋良の手を引く森田。
「う、うん…」
慌てて、チョコチョコと森田についていく屋良。
そして、その後ろを慌てて追いかける町田。
屋良は町田に聞こえないようにヒソヒソと森田に話しかけてきた。
「ねぇねぇ、剛君ってば、町田さんと仲良しなの?」
「ん?そうだけど?」
「まぢで!いっつも町田さんにあんな喋り方してんの?」
「まぁ、そうだな」
「ま〜ぢで!だってさっ!だってさっ!町田さんってばさ!」
「なんだよ」
「すっげーサッカー上手いんだよ!!」
…なんだ?
「何でしってんの?」
高校で、一度も屋良とサッカーをした事がない、と町田は言っていた。
じゃあ、なんで屋良は知ってるんだろうか。
「俺ね、俺ね。中学の時にさ〜選抜大会で、初めて町田さんを見たんだよね」
すごく、上手くてさ。
「サッカーしてる姿がめっちゃカッコよくてさ。すげー憧れてたんだよね」
だから、
「俺、この高校に入ったんだ」
町田さんが、通ってるから。
屋良は、顔を真っ赤にしながら、そう告げた。
なんだ。
いわゆる相思相愛だ。
町田は屋良に憧れて、屋良は町田に憧れて、尊敬して、お互いに友達になりたがっている。
「後は、切っ掛けか」
上手く、いくだろ。
森田は一人でフフと笑った。
「屋良、慎吾はな…」
「何…?」
「まじ面白いヤツだ」
「へ?」
キョトンとする屋良。
そして、
「な、何話してんの?剛君!」
少しオドオドしながら聞いてくる町田。
そんな町田に、
「もうすぐ、俺の仕事も終わりだなぁと思ってさ」
耳元で囁いてやる。
「え…?」
聞き返した町田に振り向かずに、森田はグラウンドへと意気揚々と歩いていった。
だから、気付かなかった。
森田の言葉に、
まるで、捨てられたように、
傷つき、動揺した目をした
町田が、一人
少しの間、立ち尽くしていた事を。
『人の心と心を繋ぐのは時間の長さやない。深さやで』
岡田が前に言っていたその言葉を、森田は思い出す事となる。
町田との出会いで。
町田のおかげで。
それは、人へと近づいていく
とても大事な
第一歩だった。
人に
近づいている。
その証なのだ。
『…お別れ…って事?』
呟いた町田の言葉は、町田自身にしか届かなかった。
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あら、急展開(笑)。
だって、元々こんなに長くなるつもりはなかったもので(笑)。
でも〜簡単には終わりません〜(ぇ)。
すでに続きが浮かんでいるので、このまま続きを執筆します。
勢いで。
だから、すぐにまた更新するかも…。
予定は未定!(爆)。
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