ご飯をご馳走になって、そろそろ帰ろうと立ち上がろうとした町田を坂本が呼び止める。
「町田君。今日は泊まっていきなよ」
「え?」
「長野、いいだろ?」
聞かれて長野も頷く。
「親御さんには僕から連絡するから」
ニコっと笑って電話をかけに立ち上がる。
「えっと…」
キョドってしまった町田に向かい、坂本が告げた。
「きっと、明日で剛の仕事は終わりだと思う。君はもう屋良君と仲良くなる事が出来たし、それに十分変わったと思う」
「そんな…僕…」
「こんなに早く変われるなんて、すごい事だよ。自信持って」
「…はい」
「剛と、お別れだけど…それでも、剛はメンテが終わるまで起きてるから」
「そうなんですか!!」
「そう。だから、いつでも遊びに来ていいから」
「ありがとうございます!!」
勢いよく頭を下げて、テーブルにゴンッ!とぶつけてしまった。
「お前、なにやってんだよ」
森田が横からウヒャヒャと笑う。
「酷いよ、剛君。笑うなんて…」
思わずぼやく町田。
「ふ〜ん」
そんな二人を見て、岡田が微かに口の端を持ち上げて笑った。
「なんだよ」
「別に。ただ、何となく、俺も危ういな〜って」
「何が?」
「剛君の親友、って立場が奪われてまうかもしれへんなぁって」
町田に聞こえるように、わざと大きな声で言う。
「え?」
「すごく自然やで。もうずっと友達やった感じがするやん。二人とも。大丈夫。これなら、二人はずっと友達でおれると思うわ」
「岡田君…」
町田が潤んだ目で岡田を見る。
「泣かんといてや。俺、苛めたみたいやん」
苦笑して、岡田は立ち上がった。
「さて、折角泊まっていくんやったら、剛君といっぱい話したいやろ?俺ら邪魔やし、いこうや」
三宅と井ノ原に向い告げる。
「え〜!俺も町田君と話してぇよ〜」
井ノ原が言うと
「イノッチ…大人げな〜い!!俺は岡田に賛成〜」
そういって、三宅も立ち上がった。
「え〜!健ちゃんの裏切り者〜!!」
井ノ原の叫び声に重なるように町田が声を上げた。
「あ、あの!」
「何?」
「僕…皆さんとお話がしたいです。色々…皆さんから聞いてみたいです」
「ほら〜!!町田君もそう言ってることだしさ〜。ささ、皆で話しようよ〜ほら、坂本君、お茶準備して!」
「…お前ね、」
続けようとして、無駄だな、と気付き、坂本はコーヒーを淹れに席を立った。
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「楽しかった〜」
すっかり話し込んで、散々盛り上がり、井ノ原達が話しつかれて眠ってしまったのを合図に全員が部屋へと戻った。
町田は長野が森田の部屋に準備してくれた布団に横になり、笑顔でそう告げたのだ。
「…なぁ」
森田の呼びかけに、町田は「何?」と横を向く。
「俺、もう仕事終わったと思うんだ」
「…うん」
「明日で…終わりだと思うんだ」
「…うん」
「…けどよ」
「けど?」
「お前さえ…よければ、の話だけどよ」
「…何?」
「契約…切れるまで、俺の事、使ってくれねぇかな…」
「そ、それって…」
「一年間。お前が起こしておいてくれると、助かるっつーか…」
モゾモゾと布団にもぐって、隠れてしまい、最後の方は声がくぐもってしまって聞こえない。
それでも…
「いい、の?」
「…まぁ、長野君がいいって言ったら、の話だけどよ」
「一年間、剛君と一緒に遊べるの?」
嬉しさのあまり、町田は勢いよく体を起こして、剛のベッドを覗き込む。
「いや…まぁ、なんていうか…一年たったら結局お別れなんだけどよ。つーか、長くいる分、余計辛くなるかもしれないけどさ。それでも…俺も、もう少しお前の事色々知りたいっつーか、遊びてぇっつーか…」
こっちを見ようともせず話し続ける森田。
「剛君…ありがと」
町田は目にいっぱい涙をためて、それでも満面の笑みで告げた。
照れくさくて布団に隠れていた森田は、見る事はできなかったけれど。
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「なぁ、」
全員がいなくなったら静かだね〜、とソファに腰を下ろした長野に紅茶を差し出しながら、坂本は呼びかけた。
「何?」
ありがと、と受け取りながら聞き返す。
「俺、賭けに出てみたんだけど」
「わかってるよ〜」
「やっぱ、わかってた?」
「わかんないわけないじゃん。僕と坂本君の付き合いだよ?わからない事なんてないよ〜」
フフフと笑う長野。
「まぁ、な。じゃあ、どうするか決ってんのか?」
「坂本君…剛が、必ず言ってくるって決め付けた質問だね、それは」
長野が笑う。
「言ってくるさ。賭けてもいい」
ニヤリと笑う坂本。
「賭けにならないからダメじゃん」
長野はそう言って紅茶に口をつけた。
「ってことは」
「…剛は間違いなく言ってくるよ。そして、僕の気持ちも決ってる」
「長野」
「あとは、町田君次第じゃないの?」
「…だったら、決まりだな」
「まぁ、一年間少しだけ忙しくなるって事だね」
頼んだよ、料理長。
肩を叩かれ、坂本は苦笑した。
「いつから料理長になったんだか」
そう言って、不図真顔になる。
「だけど…その間、剛は他の人につくことが出来なくなる。それは…アイツの復帰を遅らせる事にもつながるかもしれない」
「…わかってる。でも、それは剛もちゃんとわかってる事でしょ?その上で、剛が決めたことなら…それで、いいんじゃないかな?」
「そうだな。アイツも、もう子供じゃないんだしな」
自分の人生を…自分で決めていくだからな。
「僕らは…ただ見守る事しか出来ないんだもの」
長野の呟きに
「それ、結構支えになってるもんだぜ?」
自信持てよ。
と、坂本は長野の髪をクシャリと撫ぜた。
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「町田さん、おはよ〜!!」
後ろから走ってきた屋良が町田の肩を叩く。
「おはよう、屋良っち」
今日も元気だね〜。
「町田さん、今日もサッカーする?」
「いいね〜♪しようしようvv」
「ぢゃあ、皆誘っとくね」
「よろしくね」
「あ!町田さん、今日もお昼一緒に食べよ♪」
「い〜よ〜vvじゃあ、屋上でね」
「うん!!」
そう言って、走っていく屋良。
ピタっと立ち止まり、振り向く。
「剛君も一緒ね!!」
手を振っている。
そんな屋良に向って、苦笑して手を振る。
「しょうがねぇなぁ」
照れ隠しに、振った手をすぐ引っ込めてポケットに突っ込む。
「ほら、行くぞ。慎吾」
ズンズンと進んでいく後姿を見つめ、町田は幸せで鼻の奥がツンとなるのを感じた。
でも。
もう泣かない。
泣いてたら、彼が困ってしまうから。
前を見て、進む事に決めたから。
だから
「まってよ、剛君!」
町田は満面の笑みで、軽やかに地面を蹴りだした。
新しい、始まりの為の一歩を。
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その頃。
古びた店のドアを
じっと見つめている男が一人。
彼は、悩んでいた。
もう、三日ここに通っている。
ドアを開けるか、開けまいか。
数分立ち尽くしたあと…彼は、思い切って手を伸ばした。
ギーっと音がするドアを開け、店内を見回す。
「すいませ〜ん。誰か、いませんか〜?」
その声に、二階から声が返ってくる。
「いますいます!今、行きますから!!座っててください〜!!」
言われて男はあたりを見回し、入り口のそばにあるソファへと腰掛けた。
入ってしまった。とうとう。
でも、未だに半信半疑なのだ。
ありえない。信じられない。
でも…もし、本当ならば。
店の主をまつ、彼の心臓は不安と期待で早鐘を打っていた。
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はい!更新。
町田さんは登場させた当初から、最後までちょこちょこ登場させようと考えておりました。
どうやって、引っ張ろうかなぁ〜と考えて、今回こんなラストになったわけですけども。
はい。皆様納得がいかない部分も多々あるかと思われますが...
私は結構気に入っております(爆)。
さて、次回。
誰なんでしょうね〜。まだ考えてないんですよ〜(爆)。
ネタは考えてます。使う傀儡も考えてます。でも!!
依頼主だけ考えてないという(爆)。
これから考えます〜。
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