■第十六幕■
昨日は、萩原だけを帰して、全員夜通し大掃除へと明け暮れて。
今日は朝から、終わりきらなかった掃除と、必要なものの作成に取り掛かっていた。

「ねぇ、萩原」
床を磨いていた萩原は、呼ばれて、声の主へと振り返る。
「はい?」
「なぁ、おばあちゃんの事、聞かせてくれへん?」
漆黒の前髪をかきあげながら、岡田は微笑んで尋ねた。
「え?」
「俺、これから一緒に喫茶店やっていくんやから……おばあちゃんのこと、萩原の事、そして、喫茶店の思い出……色々知っておきたいんや」
言われて、萩原は嬉しくて、笑い返して頷いた。
「はい!」
「萩原君〜」
そこへ、外から、三宅が駆け込んできて萩原を手招きする。
「なんですか?」
近づくと
「あのね?今、皆で話してたんだけど……前やってた時の喫茶店の写真とか、ないわけ?」
「え?なんでですか?」
「ほら、せっかくさぁ、おばあちゃんの為に喫茶店やるわけだからさぁ〜やっぱり、昔の面影とかあったほうがいいんじゃないかなぁ〜って」
小首を傾げて「ない?」と聞く三宅に、萩原は少し考えてから答えた。
「多分、まだ家にあります。……昔よく、おばあちゃんが見せてくれたから……」

『ほら、幸人見てごらん?これが、お爺ちゃんとの大事なお店。この椅子はね、私がとっても気に入った……』

「そう……椅子はおばあちゃんが一目惚れしたっていうので。カップが……」
思い出して、次々と話し始めようとした葉木wらあを岡田が止める。
「続きは、ゆっくり家に行ってからや。写真見ながら……ゆっくり聞かせてや」
ポン、と萩原の頭に手を置き、微笑む岡田。
「あ、すいません!じゃあ、とりあえず一回僕の家に……」
「萩原君!帰る前に……一つ聞いてもいい?」
奥から覗いた坂本が、問いかける。
「何を、ですか?」
「お祖母さんの喫茶店、ランチとか出してたんでしょ?」
「はい!お祖母ちゃんの手料理が大人気だったって……」
「一番人気のメニューとか、知ってる?」
「えっと……それが一番人気なのかはわかんないですけど……お祖母ちゃん、オムライスが得意だって……」
「それだ!」
坂本はパチン、と指を鳴らす。
「え?」
「それから、もし良かったら、お祖母さんの入院している病院の名前と、病室教えてもらえるかな?」
「いいですけど……?」
萩原は差し出されたメモに書きとめた。
「サンキュ。じゃ、ここからは俺は別行動って事で。君たちは内装班。俺はレシピ班って事で」
じゃな、しっかりやれよ?
片手を挙げて手を振り、坂本は軽やかに駆けていった。
「坂本さんって……爽やかでかっこいいんですね」
思わず口をついた萩原の言葉に
「えぇ!俺のがカッコよくない?」
「何処が爽やかなの?」
「お前、洗脳されてんのか?」
と、次々に異論を唱える3人に……
「まぁ君はカッコえぇで?」
さらっと流した岡田が、
「ほな、行こか?」
と、萩原を促す。
「……なんかさぁ、久しぶりにあったら、より一層ノリ悪くなってない?岡田ってば」
ヒソヒソ声の三宅に
「いや、昔からノリはよくねェんだよ、コイツは」
と、ヒソヒソ返す森田。
「えぇ〜俺なんていっつもノリノリだっていうのに〜」
叫ぶ井ノ原に
「イノッチはノリ過ぎや」
と、クールに突っ込む岡田。
「フフ、皆さん、仲いいんですね」
そんな四人を見て、思わず微笑んだ萩原。
「「「「何処が?」」」」
図らずともハモッてしまった四人に
「フフフ、そんなところが、です」
と、ニッコリ笑った萩原が岡田を見る。
「僕も、こんな風に、仲良くなれますか?」
見つめられた視線を外すことなく、長めの前髪をかきあげた岡田は
「それは、萩原次第やな」
頼むで、相棒
チョンっとおでこを突付いた。
「はい!」
嬉しくて、突付かれたおでこを両手で軽く押さえながら、萩原は大きく頷いた。

『相棒』

岡田は、もう、自分をそう認めてくれている。

それが、嬉しくもあり
頼もしくもあった。
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「ただいま」
声をかけても誰も出ない。
「長野?いないのか?」
店を留守にするわけにはいかないので、帰したはずの長野が、いない。
「お〜い」
呟きながら、ヒョイっと覗くと
テーブルについて、ボーっとした長野の姿。
「ただいま。どした?ボーっとしちゃって」
フワリ、と頭に手を置き、軽く撫でると
「なんでいるの?」
と、問い返された。
何も食べていなかったらしい長野に
ここは一つ、ちょっと腕試しに……と、喫茶店の人気メニュー「オムライス」でも作ってみようか、と作り始めたとたんに
「坂本君!僕、ナポリタン食べたい!!」
という、長野の可愛い(?)我侭で断念せざるをえなかった。
「美味しかった〜」
ご馳走様
と手を合わせた長野に
「なぁ、長野」
肩肘で頬杖をつきながら、坂本は尋ねた。
「ちょっと出かけてから……もう一品、食える?」
「は?まぁ、坂本君の料理ならいくらでも……」
なんで?
と、いう顔の長野に、オムライスの事を話す。
「やっぱりさ。やるからには、その店の味を再現したいわけよ。今、練習してみようかと思ったけどさ、それはやっぱり「俺の味」なわけ。わかる?」
「う〜ん。確かに、それはそうだよね」
「お前が、いくら美味しいと言ってくれても、それは俺の味だから、意味がない。だから……聞きにいこうかと思うんだけど、どう思う?」
「聞きに?」
「そう。本物の味を極めたいじゃん」
ウインクして片口を持ち上げて笑う坂本に
「内緒にして驚かせるんじゃなかったの?」
「喫茶店やる事さえばれなきゃいいんだろ?」
「そうだけど……どうやって聞き出すの?」
「ん〜?たとえば、「俺の弟がお孫さんと友達で、幸人君が「お祖母ちゃんのオムライスが食べたい」っていつも言ってるから、作ってあげたいなぁと思うんで、レシピを教えていただけませんか?」とか」
「……ベタだけど、案外いけるかもね」
「だろ?」
「で?今から行くの?」
「お前も付き合えよ」
「いいけど……」
「店なら、閉めとけ。少しくらいいいだろ?」
「まぁ、ね」
たいして、客もこないのだから
「ついでだから、思い出話聴く感じで、色々聞き出してこようぜ?」
ほら、行くぞ?
長野の腕をクイっと引っ張って、坂本は立ち上がる。
「ちょっと、待ってってば!」
慌てて、立ち上がり、長野は追いかける。
「ねぇ、坂本君」
追いついて、肩を並べた長野が、嬉しそうに呼びかける。
「ん?なんだ?」
チラリ、と長野に視線を送る。
「レシピ聞いたら、俺に作ってくれるって事?」
「そのつもりだけど」
「俺、第一号だ」
「何が?」
「喫茶店のさ」
「ま、味見なら、お前も参加出来るだろ?」
寧ろ、お前が適任。
笑って言う坂本。

長野はわかっていた。
自分が、何も手伝ってあげられない、とちょっと切なく思っていた事も
坂本にはお見通しで。
だから、味見をさせてもらえる事で
少しでも、役に立ててるって思えるように。

いつも、
いつの時も
坂本に、助けられてばかりだ。

「ごめんね」
突然の謝罪に、坂本は目を丸くする。
「何が?」
「ん、色々」
「謝るなよ。明日、雪降るぜ?」
「……ちょっと」
「冗談です」
「全く……」
「俺だって、」
「え?」
「俺だって、お前に助けられてるんだからな?」
小さくて、ともすれば聞こえないような声だったけれど
長野の心にはしっかりと届いていて。

やっぱり、
坂本は自分に

果てしなく甘い。

と、気付かれないように顔を綻ばせた。
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一度打ってたんですが……最後の最後にパソコンがフリーズして、最初から書き直しました(涙)。
なんとか、なった……よかった(涙)。

ちなみに、最後の坂本君と長野君のシーンはUNLIMITEDのお題「自分の欠片」にリンクしております。
よかったら、そちらもどうぞ(笑)




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