■第十八幕■
物置の大捜索も終わり
当時の食器も、大切にしまってあって
大収穫で、家へと戻る。
「椅子、同じの出来るかな……」
呟いた萩原の頭を、井ノ原がクシャリ、と撫でた。
「俺にまかせなさいって〜。知り合いに、頼んでみるから!」
これ、借りてくね?
椅子を抱えて、井ノ原は何処かに消えてった。
「イノッチの顔の広さがやっと役に立つ」
苦笑して、岡田は萩原を見た。
「俺らも、頑張ろうや」
「はい!」
残された4人は、店内の改装を少しでも進めようと、店に戻っていった。
「さて、一気に綺麗にしてしまおうか」
岡田の言葉に、全員が内装に取り掛かる。
ゆっくりと、しっかりと
丁寧に、作業を進める岡田に、萩原は話しかけた。
「岡田さん、凄く丁寧な人なんですね。作業が、細かいトコまで行き届いてる気がします」
言われた岡田は、少しだけ笑うと
「ここには、あんなに素敵な笑顔の思い出が詰まってるんかと思うたら……床拭くにしても、心を込めて、しっかりやらなあかんなぁって思うたんや」
答えて、また作業へと視線を戻す。
「萩原のおばあちゃんに……また、あんな素敵な笑顔になってもらう為に……俺等に出来る事は、一生懸命やらなあかんなって」
岡田の言葉に、萩原は胸が熱くなるのがわかった。
自分の為に
自分の祖母の為に
自分以上に、考えてくれてる人がいる
それが、本当に嬉しかった
「僕も、精一杯頑張ります!」
頼ってばかりじゃ、駄目だから
自分の力で、祖母を喜ばせてあげたいから

少しずつ、少しずつ
岡田との繋がりが
萩原を、大人に変えている事に
まだ、本人さえも、気がついてはいないけれど。

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「お待たせしました」
テーブルで待つ長野の元に、さながらウエイターのように優雅な身のこなしで近づいた坂本が差し出したのは、オムライス。
今風の、お洒落なものでもなんでもない……
昔ながらの、オムライス。
けれど、それは
どこかしら懐かしさと、温かさを感じさせる見た目と香りで
「美味しそう」
自然と、言葉が溢れてくる。
「見た目は合格って所か?」
言いながら、坂本は長野の向かいに座る。
「頂きます」
手を合わせて、頭を下げて
一口掬って、口に運ぶ。
「うわぁ〜」
絶妙な、卵のトロトロ感
懐かしさを感じさせるチキンライス
ケチャップが、却って新鮮で
全てと混ざり合って
口の中で、拡がっていく
「美味しい!凄く美味しいよ、坂本君!!」
長野は思わず
目の前に座る坂本の手を強く掴んで
ブンブンと振り回した。
「ちょ、おいッ!危ないって!」
坂本の言葉にも、長野は手を止めない
「だって、すっごく美味しいよ!これ!!どこか懐かしくて、だけど新鮮で……今迄、食べてきたオムライスの中で、一番かも!」
「ホントか!?」
「うんッ!……ねぇ、覚えてる?」
「……何が?」
「昔さ〜喫茶店が、出来始めた頃さ〜初めて、二人で食べたオムライス」
「あぁ〜あったな、そんな事。お前が、食べてみたいって騒いで大変だったんだよな〜。あの当時は店に食べに行く金もないから……遠目に、どんなもんか見に行って……試行錯誤で俺が作ったんだよな〜誰かさんが、どうしても食べたいって騒ぐから」
「……余計な事はいいんだってば。俺ね、今迄あの時のオムライスが、史上最高に美味しいと思ってたんだけど」
「あれが?」
「そう、あれが」
「あんな、レシピも何も分からず作った、あれが?」
「僕にとっては、美味しかったんだよ」
ドン、と机を叩いて力説する長野に
「そっか……ありがとな」
その心が嬉しくて、坂本は小さく笑った。
「だけどさ、今日のは……それを、超えた気がする」
「そんなに、いけるか?」
「おばあちゃんの想いに、助けてあげたいっていう坂本君の想いもプラスされてるからね〜」
笑って、長野はもう一口、口に運ぶ
「これなら、幾らでも食べれそう」
幸せそうに笑う長野を見て
「オムライスは合格だな」
坂本も、安堵の溜息をついた。
「残りのレシピも考えちゃう?」
長野の言葉に
坂本は、さっき井ノ原が通りすがりに置いていった当時のメニューを開いた。
「この当時の事を思い出しながら作ればいいんだよな」
「うん、そうだね〜。あの、お金のなかった時代ね〜」
頬杖ついてニコニコと笑う長野に
「金がないのは、今もだけどな」
ニヤリ、と笑って答えた坂本は
「伊達にあの時、喫茶店を眺めて歩いたわけじゃないって事を、証明してやるさ」
メニュー片手に、キッチンへと戻っていった。

「……威張れる話じゃないけどね、それ」
その背中に、長野は小さく笑った。

お金は確かになかったけれど
それ以上のものが、あったから
たとえ、コーヒー一つ飲みにいけなくても
毎日、笑って過ごしてこれたのは

常に、僕を支えてくれた
坂本君が、いたからだって

本当は、ちゃんと分かってるから。


だから、
萩原のおばあさんも……
僕が、坂本君に支えて貰ったように
……誰かが、支えてあげられたなら
萩原だけじゃ、足りない部分を
僕等が、手を貸してあげられるのなら

きっと、また元気に笑って過ごせる日が来るはずだから


漂ってきた、食欲をそそる香りをスっと吸い込みながら
長野は、そんな事を考えていた。




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18話。
お久しぶりでございます。

途中まで書いていたのですが、さっぱり出てこなくなってしまって暫く温めておりました(苦笑)。何とか更新できて一安心。
予定通り、多分萩原君はあと2回くらい。
次回は健ちゃんかイノッチの予定でいます。




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