第四幕 「俺等はな、もともとは人間だったんだ」 「え??」 「普通の「傀儡」は人形なんだよ。人形に魂が入ったかのように動く。でも、ここの傀儡はちょっと違う。俺達のように、もともと人間だった人形が集まってる」 「えっと…どういう、事なんですか?」 「俺と剛君はね、40年程前に、死んだんや。事故やった。俺の母親がもう助からないってなって…俺に残ってた最後の肉親やったから…。俺、慌てて逢いに行くって言ったら、剛君が車出してくれるって言って…夜、雨も降ってたのに、俺がもっと急いでって言って…」 「馬鹿だからよ。、俺。ちょっと自分の運転に自信もってたんだよな。だから、絶対大丈夫だって思ってて。俺、すでに誰も肉親いなくってさ。しかも、俺、両親の最後見届けてなくってさ。だから、岡田は絶対間に合わせたいっておもって…」 「剛君のせいやなかってん。雨の中、前を走ってた車が、急にスピンしたんよ。剛君、スピード出してたから、止まれへんかって…」 「とりあえず、岡田だけでも助けようとおもって、ハンドルきって、運転席からガードレールに突っ込んだんだよ」 「俺、体中痛かったけど、意識があったんや。で…慌てて剛君見たらグッタリしてて、血だらけで…。せやけど、剛君、最後に俺見て「ごめんな…」って…そのまま目ぇ開けへんかった…。俺、めっちゃ叫んだ。もう、俺はそこから動かれへんかった。そしたら、不図、博が現れたんよ」 『彼を、助けたい?』 「そう聞かれた。頷いたら博は話を続けた」 『君の命と引き換えに、彼を助ける事が出来る。方法は二つ。一つは君が生きてる間ずっと彼に魂を吹き込み続ける。君は人間として、彼は人形として生きていく事になる。そして、君の魂が切れた時、彼の命も終わる。もう一つは、君も、今ここで命を絶って、僕の手で彼と共に人形になる。そして、誰かが魂を吹き込んでくれた時だけ、君たちは人間として蘇る。そして、魂を吹き込んでくれる人たちに、恩返しが出来たとき…その恩返しが、十分だと判断された時、君たちは人間に戻れる。いつになるかはわからないけど…でも、そうなれば、また二人で人間として生きていけるかもしれない。どうする?』 「目を見張った俺に、博は悲しそうに続けたんや」 『僕は、選択肢がなかった。そのかわり、僕には永遠の命が与えられた。だから、君たちが人間に戻れるときまで、僕は見守る事が出来る。僕の経験上、助言させてもらうけど…大切な人なら、同じ運命を歩んだ方がいい。相手が人形でいる姿を見るのは…とても辛い事だよ』 「やから、俺…迷わず、剛君と一緒に人形になる事に決めたんや。例え、人間になる事がかなわん夢やったとしても後悔せぇへん。俺のせいで死んでしもうた剛君のために、俺は自分の命をかけて、一緒に人間になれるかもしれない可能性にかけたんや」 「こいつも馬鹿だろ?俺だけ人形にしてればよかったのによ。自分もなるなんて思いもしなかったぜ。岡田のせいなんかじゃねぇのによ」 照れ笑いする森田に、岡田は「けど…」と反論しようとした。 「ま、俺がお前の立場だったら、同じ事しただろうけどな」 重なるように呟かれた森田の言葉に、岡田はフワっと笑う。 「なんや、素直な剛君は気色悪いわ」 「うるせぇよ」 そう言って、剛は 「ってわけで、俺等はココで「傀儡」として生きているわけだよ。で、慎吾みたいな奴らの役に立って、人間に戻るのを待っているってわけ」 と、町田を見た。 「おい!!何で泣いてんだよ!!!」 号泣する町田を見て、焦って森田が叫ぶ。 「だって…だって…切ないじゃない!!!」 そう言って泣き続ける町田。 「なんや…面白い子やね」 思わず岡田が呟いた。 「あの…」 しゃくりあげながら、町田が顔を上げた。 「なんだよ」 「長野さんは…どうして永遠の命を?」 町田の問いかけに、二人は顔を見合わせた。 「俺達も知らねぇんだよ。詳しい事は聞かせてくれないからな」 「けど…博、辛そうやった。今ではそんな事もないのかもしれへんけど…前は、よう坂本君の寝てる籠に寄りかかって泣いてたし」 「うそ!!」 驚く森田に岡田は確信を込めて頷く。 「ホンマやで。誰もおらんときにひっそりと坂本君の籠開けて、よう見てたもん。俺、3回前くらいの仕事の時に、夜中にココに帰ってくる事多くて、そん時に何度か見た事あるんよ。で、それ見て、博が言ってた事がようわかったっていうか…俺も人形になってよかったっていうか…」 「言ってた事?」 「うん。大切な相手が人形でいるのを見るのはとても辛いって」 「あぁ、それか」 「だから、博はしょっちゅう坂本君に魂をいれてるんやろうなって思う。けど、永遠の命って言っても、あまり吹き込みすぎると博の体が弱ってくと思う」 「そうなんですか?」 町田が岡田を見る。 「うん…弱ってる気がする。さっき、聞いたらお店もしばらくまぁ君に任せてたって言うてたし」 心配やな…。 俯く岡田に 「大丈夫だって。長野君の事は坂本君が考えてるって」 任せようぜ 笑う森田に 「せやね、なんだかんだ言ってもやっぱり「年の功」やしね」 そういって笑う岡田。 町田も一緒に笑っていたら 「お前等ね…ほんとに食わせないぞ?」 両手に荷物をぶら下げた坂本がドアに寄りかかっていた。 「わぁ!!!いつからいたんだよ!!!」 大げさにビックリする森田に 「剛ちゃんの「坂本君が考えてる〜」ってあたりから」 それを聞いて岡田と剛はホッと息をついた。 長野の事を聞かれていたら、ちょっと気まずい気がしたのだ。 「それよりさ〜お腹すいたって」 話題を変えるように森田が言う。 「二言目にはそれかよ…。待ってろ、今作ってやるから」 そう言って、坂本は奥へと入っていく。 「あれ??長野君は?」 森田の問いかけに、坂本は奥の台所から顔だけだして答える。 「途中で、調べ物があるって言って図書館行った」 「ふ〜ん」 そうして、取り繕うように雑談に戻る3人の会話を聞きながら、坂本は長野が一緒じゃなくてよかったと心から思った。 「きかせられねぇよな〜。あれは」 思わず呟く。 泣いてたのか…アイツ。 時折見せる、辛そうな、申し訳なさそうな表情から、長野が苦しんでる事はわかっていた。 普段はそんな事を察知されないように、強気に出る長野でも、時々気が抜けるのか、それとも見られていないと思っているのか、そんな顔をしている事がある。それでも… 「泣くほど、苦しめてんだな…俺」 坂本は溜息をついた。 長野のために、と思った事が、結局長野を苦しめている。 『長野君の事は坂本君が考えてるって』 …剛はそう言うけど。 思わず天井を見上げた。 「何とかできるもんなら、とっくにやってんだよな」 誰にともなくぼやいてみせる。 長野が弱っている事は坂本はとうに気がついていた。 誰よりも長く一緒にいるのだから当然だ。 …だからといって、何が出来る? 自分は、どんなに頑張っても人形でしかないのだ。 起きている間はどんなことでも出来る。 馬鹿やって長野の気分を少しでも軽くしてやる事だって出来る。 でも… 人形に戻ってしまえば、何も出来ないのだ。 戻っている間も意識はある。 長野が時々、自分の籠を開けてみている事だって知っていた。 ただ、何の気配もさせないから、ただ見ているだけだと思っていた。 「…そういえば」 『坂本君…』 「あれは、涙汲んでた声だな、そういわれれば」 一度だけ呟かれた名前。 「だからって…どうしろってんだよ」 もう一度、同じことをぼやいてみる。 泣いている。そうわかったからといって、人形の自分には何一つ出来ないのだ。 その涙を、拭ってやる事も。声を掛けてやる事も。 「…聞かなきゃ良かったな」 思わず苦笑する。 岡田は普段物静かで我関せずな態度のクセに妙に色々なことに気がつくし、剛は人の気分を本能的に察知するのが上手い。 まだ起こしてないけど、テンション高くて気にしてないように見えるくせして、やたらと気を使う健に、なんだかんだ言って色々心配性な上に何とかして問題を解決しようと首を突っ込んでくる井ノ原がこれから顔をあわせるのだ。 「はぁ…」 長野が隠したがってる深い部分に下手に触れないようにして欲しい。 自分達の過去に、まだ触れられたくはないのだ。 何故なら、長野の中では、まだ癒えていない傷だから。 もしかすると、癒えることのない傷なのかもしれない。 「あいつも頑固だからな…」 どんなに坂本が気にしていないと言っても、長野は自分を責め続ける。 坂本の姿を見る度に…。 2週間。何事もなく過ぎて欲しい 切実に願いつつ、食事を作り続ける坂本だった。 ********** はい。第四幕です!!! 一気に2本同時に更新は、私の連載史上初の試みでございます!!!! いやぁ〜、今日は気分がのってたんですね。そうですね。 それにしても、物語の背景がちょっと暗いんですよね。 でも、暗くしないで明るいテンションで連載して行きたいと思っております。 そして、やっとココのお店に住んでいる傀儡の名前が全部出てきましたね。 ちなみに、今後客として、MAやらTOKIOやらを予定しております。 そうそう。なんで、剛君と岡田君コンビになったかというと…最初はね、健ちゃんにしようと思ったんだよ。岡田の役を。でもね、何となく背景のイメージ的に岡田かなぁ〜と。ただそれだけなんだよね(爆)。ただ、ソファに座って本を読んでて欲しかっただけなんだよね(爆)。 ≪≪TOP NEXT≫≫ |