第六幕

「ところで、なんで剛の主人と一緒にご飯食べてるわけ?」
一頻り盛り上がっていたはずの三宅が突然町田を指差し尋ねた。
「え?健ちゃん…すでにその辺の話は終わってるんじゃないの?あんなに盛り上がってたじゃん」
坂本が呆れた顔で尋ねる。
「違うよ〜。俺はぁ皆との久しぶりの再会で盛り上がってたんであって〜彼と盛り上がってたわけじゃないもの」
三宅の言葉に、森田がかぶせるように口を挟む。
「お前、相変わらずムカツクな」
「なんだよ〜剛に言われたくないよ」
「あ〜!!!もうッ!その喋りが腹立つ!!」
「大きなお世話ですぅ〜」
言い合う二人を「まぁまぁ」と岡田が止める。
「ええやん。久しぶりにあったのに喧嘩せんでも。それに、ホンマは仲良しさんやのにな」
二人とも素直やないなぁ。
二人はモゴモゴと何かを言いかけたが、屈託なく笑う岡田に、何も言えず黙ってしまった。
「ホント、岡田のが年上みたいだよな、お前等なら」
苦笑する坂本。
「いいじゃん。ほっといてよ。そんな事より、彼の事聞かせてよ」
三宅が話を戻そうと町田を指差す。
「そうそう。俺も聞きたい〜。その若干性別不明っぽい気弱そうな子は一体何に悩んで此処にきたわけ?」
井ノ原の言葉に、森田がうひょひょッ…と笑い出した。
「ちょ…剛君、どうしてわらうんですか!!」
町田が言うと、
「お前、敬語無しって言っただろ?」
と突っ込みながらも笑う森田。
「あ、えっと…なんで笑うの!!剛君!!」
真っ赤になって叫ぶ町田に
「だってよ〜。細目ってばあまりにも的確にお前の事分析してっからよ〜面白れぇなって」
「…え?的確って??」
「性別不明とか気弱とか。まんまじゃん〜」
そういって、また笑い出す。
そんなに笑われても、どうしていいかわからない町田が困っていると、岡田がフワッと笑って言った。
「気にせんといてや。剛君は人とちょっと違う処に笑いのツボがあんねん」
中々理解出来へんよ?
「はぁ…」
何となく、頷く町田。
そんな様子を見ながら、坂本が大きく一回手を叩いた。
「ほら、そんな事より早く食べちまえよ。冷めたらまずくなるだろ?それに…お前等が話に夢中になってる間に、長野が物凄い勢いで胃袋に詰め込んでるから、あっという間になくなるぞ?」
笑う坂本の言葉に、全員で一斉に長野を見る。
「…ん?ひゃに??」
ちょっとだけ皿から視線を上げる長野。
「飲み込んでから話せよ…」
呆れた坂本に、反論しようと慌てて飲み込んだとたん、思い切り咽てしまった長野が水を流し込む。
「だってさ。坂本君の料理が美味いからいけないんじゃんさ。それに、皆も食べない方が悪いでしょ?」
俺、なんも悪くないでしょ。
そう言って、何故か胸を張った長野は町田に向かってニッコリと笑った。
「町田さんは沢山食べてってくださいね?うちのシェフの腕は超一流ですから」
「いつからシェフになったんだ、俺は」
苦笑しながらぼやいた坂本も続ける。
「町田君、おかわりあるから」
その言葉に、井ノ原が手を上げる。
「あ!は〜い!!!俺、おかわり!!!」
「お前にはねぇよ」
ピシャリといわれて大げさに項垂れる井ノ原。
「ひでぇよ、坂本君〜。久しぶりなのにさ〜。俺に逢えて嬉しくないわけ〜?」
「…なんで?なんで嬉しくなきゃいけねぇんだ?」
真顔で答えた坂本に更にガクっと肩を落とす井ノ原。
「…快彦泣いちゃう」
「…気色いで、イノッチ」
黙々と食べていた岡田の冷たい一言。
「ひでッ!!おか…」
と、井ノ原が言いかけた時、町田が長野に向かって尋ねた。
「あの…僕、イマイチよくわかってなくって」
「何がですか?」
「…っていうか、邪魔するなよぉ。俺、まだ喋ってんのに〜」
「五月蠅いよ、井ノ原」
長野にまで冷たく言われ、さすがの井ノ原も少し黙り込んだ。
「あの…結局、僕は何をしたらいいのか、とか」
「あぁ。それは…特に何も」
「何も??」
「そうです。町田さんは剛に魂を吹き込んでくれるだけでいいんです」
ニッコリと笑う長野。
「一緒にいればいいってことですか?」
オドオドと尋ねた町田に長野はコクっと頷く。
「そうですね。一緒にいるだけで、特に何かしなきゃいけないわけではないです。最初に言ったように、望みは必ず叶うというわけではありません。剛が、あなたに何かを与えられるかどうかが、重要なんです」
「何かを…与える?」
怪訝そうな町田に、長野は唇に手を当てて、少し考え込んだような顔をして、続けた。
「う〜ん…そうですね。ちょっと表現が違うかもしれないですが…与える、事が出来るかどうかなんです。与える、といっても物ではありませんよ?町田さんが剛から得るもの…影響されるものがあるかどうか…というか…えっと…なんて言ったらいいのかな?」
ちょっと困ったように笑った長野は、自分でも無意識のうちに坂本に視線を送っていた。
「んな顔して俺に振るなよ。断れねぇじゃん」
坂本は笑って、町田を見た。
「町田さんは、友達を作りたいんですよね?」
「はい…そうです。屋良君と友達になりたいんです」
「そのために、自分のその人見知りな性格や、臆病なところとかを克服したいんでしょ?」
「えっと…そうですね。僕の性格じゃぁ…屋良君とは…」
「で、町田さんの性格改善のお手伝いをするためにはどうしたらいいか、と考えた時…剛がいいな、と思ったんです。ちょっと強引だけど、どんどん引っ張ってく処もあるし。それに、屋良君とサッカーしたいって言ってたから、サッカー得意な剛なら、町田さんとすぐ打ち解けられるかなぁと」
「サッカー、得意なの?」
森田を見ると、「まぁな」と少し照れながら頷く。
「剛は、町田さんとは違う性格ですよね?真逆、とまでは言いませんが」
「そう、ですね…明るいし、人気者な感じするし…」
「んな事ねぇよ。俺だって恥ずかしがり屋で小心者の繊細なるいたいけな少年なんだけど?」
坂本に向かって述べられた森田の不平を
「自分で言ってるようじゃあダメなんだって」
と笑って却下する。
「違う性格の剛と一緒にいる事で、町田さんの中に、今までにはなかった何かが生まれれば、性格を改善する第一歩となるのではないか、と。明るく、積極的な面が育つかもしれないですよね?それが、ひいては屋良君と友達になる為の手段にもなるかもしれない…と、まぁ」
「こういうわけです」
坂本の言葉尻だけを奪ってニッコリと笑う長野。
「お前ッ…まぁ、いいか…さっき、長野は何もしなくていい、と言ってたけど…町田君も自分から変わるという努力をするようにしなきゃダメだと思うよ?」
わかった?
視線を向けてくる坂本に
「頑張り、ます!」
と力強く頷く町田。
「お前、ラッキーだな」
森田の言葉に、町田は「何で?」と首を傾げる。
「今まで、中々俺達の役割を最初に説明してもらえたヤツっていなかったと思うもん」
「え?そうなの?」
「だいたいがさ、一緒に生活していくうちに、「あぁこういう事なんだな」って自分で気が付くっていうかさ」
森田がそこまで言うと、三宅が横から入ってきた。
「町田君がさ、なんとなく弱弱しいから、ついつい手を差し伸べちゃったんじゃないの??おじいちゃんとしては」
「誰がおじいちゃんだよ!!」
「反応したって事は、自分でも思ってるって事じゃ〜ん」
笑う三宅の頭をパフっと叩く。
「健ちゃん、もう食べたくないみたいですね〜」
そう言って、坂本は三宅の皿を奪い取る。
「あぁ!!!待って!!!ゴメンって!!!」
「…反省した?」
「した!!めちゃめちゃ反省!!!もう言わない!!おじいちゃんだなんていわない!!」
「しょうがねぇな。ほら」
と皿を戻すと
「今度からお父さんって呼ぶから」
とニイっと笑う。
「…こんな手のかかる子供つくった覚えねぇよ」
はぁ…と大げさに溜息をついた。
「さてと。町田君」
「はい」
「食べ終わったら、とりあえず剛ともっと仲良くなるためにも、ちょっとサッカーでもしてきたら?どうせ、この後する事ないんでしょ?」
「あ…そうですね。する事はないです」
「お、そ〜だな。サッカーでもするか?」
剛に言われて町田は嬉しそうに頷いた。
「うん!!」
そんな二人を見て、長野はこっそり坂本の耳に囁いた。
「上手くいきそうなんじゃない?」
剛で正解だったかもね。
「だろ?」
ニヤリと笑う坂本。
そんな二人に、遠慮がちにかかる声。
「…あの、二人とも」
「ん?」
「俺、そろそろ喋ってもいい??」
寂しげに箸を銜えて訴える井ノ原。
その姿に、二人は顔を見合わせて思わず噴出す。
「何さ〜!!なんで笑うのさ〜!!!」
ひでぇよ、二人とも〜!!
叫ぶ井ノ原。

町田は思っていた。
まるで、家族のようだと。
仲のいい、素敵な家族のようだ。
だから、信じられなかった。



…、長野以外は


もう


死んだ人達なのだという事を。





**********
6幕。…あれ、全然進まねぇ〜。
えっと、今度こそ、次回から町田さんのお話に。
何となく、Vメンの絡みを書くのが楽しくてしょうがなくなってきちゃって、中々進まなかったんです(笑)。ちゃんと、次回から町田さんの悩みを解決すべく頑張って行きます!!屋良っちも出てくる予定!!

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