第11話
introduction
**前回までのあらすじ**
声を取り戻して欲しいと、依頼してきた屋良。
友人と喧嘩した事が、声を失った原因だとして、屋良も友人もよく知る町田を先頭に、友人「米花」を探し当てる。
その頃、屋良に話を聞いていた大野が、米花の一言が屋良の言葉を失わせたのだ、と気がつく。
町田達が連れてきた米花に尋ねても、言った言葉を覚えていない。
言われた屋良も記憶を封印してしまっていて、決定打になった言葉がわからないまま、時間が過ぎていく。
その時、萩原に出された抹茶が原因で言い争っていた大野と町田の台詞に、屋良が微かに反応をしめした。
「町田さん、大野君……今のもう一回繰り返してくれます?」
良知に言われ、町田と大野は顔を見合わせる。
「えっと……」
「今のって……」

「そりゃ、屋良っちと付き合い長いもの〜。屋良っちの事はだいたいわかるよ〜」
「っていうか、慎吾は、自分が思った事言っただけじゃん」

「いや、もっと後」

「後?」
「えっと、えっと……」

「何なら僕と屋良っちの付き合いの深さを証明する話を聞かせてあげようか??」
「聞きたくありませ〜ん」

ビクッ!
屋良が体を硬直させる。
「これだ……」
良知は唇に人差し指を当てて、呟いた。
「これ?」
「どれ?」
二人で同時に首を傾げる大野と町田。
「良知君、何かわかったの?」
「今ので?」
「何を?」
これまた3人で首を傾げる島田と石田と萩原。

「聞きたくない」

告げられた良知の言葉。

「違いますか?屋良さん」
尋ねられ、屋良の瞳は小刻みに震えている。
「米花さん!覚えありませんか?」
米花に振り返り、勢いよく尋ねた良知に
「……思い出した」
と、米花が呟いた。
「……どうやら、屋良さんも思い出したようです」
手を触れていた屋良の肩が、先ほどの瞳と同様に小刻みに震えている。
「怯えています……思い出した言葉に」
それを聞いて、島田は米花に詰め寄った。
「なぁ、アンタ何言ったわけ?こんなに怯えさせるような事……ひでぇんじゃねぇの?」
今にも掴みかかりそうな島田を良知がやんわりと引き戻す。
「落ち着け、島田。米花さんには些細な事かもしれないんだ」
「だけど!」
「今は、話を聞くのが先だ」
言われて、島田はグっと手を握り締め、ソファに座りなおす。
「すみません、米花さん。その言葉……教えていただけますか?」
「……そんな、たいした事じゃねェのに」
眼を丸くして、信じられない、といった顔で呟く米花。
「……言葉は、受け取り方によって、凶器にもなります。自分ではたいした事がない、と思っていても、相手にとっては心臓を抉られる様な痛みを伴う場合があるのです。親しき仲にも礼儀あり、という言葉がありますが……たとえ、心を許しあっている仲だとしても、自分の発する言葉には、十分な注意が必要だと思います。もしかすると……米花さん、貴方は……屋良さんに……」
一瞬、眼を伏せた良知は、視線を屋良に向けて、告げた。

「もう、二度とお前とは口きかねぇからな。お前の話なんて、二度と聞きたくねぇ」

屋良の眼から、涙が溢れ出した。

「間違いないですね。……こう告げたのでしょう?」
優しく問いかけられて、米花はコクリと無言で頷いた。

「多分、最後に「大嫌い」とかつけたのでしょうね。その言葉に屋良さんは過剰に反応したのです。口を利くから嫌われるのか、と。自分が話をする事が、米花さんを怒らせ、嫌われる原因となるのか、と。その前に、屋良さんは、自分でもひどいことを言った、と自覚があったわけです。尚の事、自分の言葉は、米花さんを傷つけてしまう原因になるのだ、と考えたわけです」
「だから……」
萩原が切なそうに呟き、屋良を見る。
「そう……だから、声を失ってしまったのです。声が出なければ……話す事はない。そうすれば、嫌われる事もない」
「屋良っち……」
米花は、辛うじて名前を呼んで絶句した。
「あなた方が、気持ちをすれ違わせたまま、喧嘩したままでいる間……おそらく、彼の声は戻ってはきません。彼の声を戻す唯一の方法は……米花さん、貴方にしか出来ません」
良知に言われ、米花は微かに良知を見た。
「……どうすれ、ば?」
「仲直り、してください。どうです?簡単でしょ?」
ニッコリと笑う良知。
「可哀想だよ!こんなに苦しんだんだもの。もう、許してあげてよ!」
萩原が米花に詰め寄る。
「大体、最初に怒らせるような事言ったの、アンタなんだろ?」
島田がギロっと睨む。
「今、謝んないと……タイミングのがして、一生このままだと思うけどなぁ?」
石田が笑う。
「ヨネ。屋良っちのこと苛めるなら、僕が許さないから!」
町田が両手を腰にあて、仁王立ちする。
「慎吾が許さないなら、僕も許さないのじゃ!」
真似して大野も仁王立ち。
「……」
「本当は、仲直り、したかったんですよね?」
良知に促されて、米花はポリポリと頭をかいた。
「ったく、恥ずかしいんだか情けないんだか……大体、俺の言葉ぐらいで、んな深刻になってんじゃねェよ」
ったく。
言いながら、米花は手を伸ばして、屋良の眼から溢れる涙を拭った。
ビクっと強張る屋良に
「もう、怒ってねェよ。……悪かったな、酷い事言って。俺のクダラナイ話に付き合ってくれんの屋良っち位だからさ……早く、声戻せよ……つまんねェよ、お前と話せないと」
真っ赤な顔を下に向けて、ブツブツと話しかける米花。
屋良は……
嬉しさのあまり
より一層涙を溢れさせた。
「っつーか、これ!どうすりゃいいんだよ!!」
困り果てた米花の言葉に
「後は、時間が解決します。大丈夫、きっと戻りますよ?」
ニッコリと笑って、良知は告げる。
「あ、そうそう。声が戻り次第、依頼完了って事で、成功報酬よろしく」
抜かりない島田は、手早くササっと請求書を記入して、米花に手渡した。
「俺?」
「アンタが原因だろ?」
ニヤっと笑われて、仕方なく米花は請求書をポケットにしまう。
「屋良っち、帰ろう」
クイっと泣きじゃくる屋良の腕を引っ張って立たせると
「お世話になりました」
とお辞儀をして部屋を出る。
屋良は、そんな米花を慌てて追いかけて
ドアのところで、一旦立ち止まり
全員に向って
90度に体を折り曲げてお辞儀をしていった。
「大丈夫かなぁ?声、戻るかな?」
不安そうに呟いた萩原に
「大丈夫。米花さんの言葉の力で失ったんだから、彼の言葉の力で戻ってくるよ」
ポンポンと萩原の頭を軽く撫でて良知は笑った。
「さぁ、依頼も終了。そろそろ夕食の支度でもしようか?」
お願いできる?幸人
良知の言葉に、萩原はニッコリと微笑んだ。
「はい!かしこまりました!」
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それから、少したった穏やかな土曜日の午後。
依頼書を整理していた良知の部屋のドアがノックされる。
「どうぞ」
答えると
「お茶、お持ちしました〜」
萩原が、トレイ片手に入ってくる。
「ありがとう。丁度休憩しようと思っていたところだったんだ。幸人はいつもタイミングよく来てくれるね」
ニッコリ笑う良知に
「朝から、ずっと篭ってるから、疲れたでしょ?少し濃い目のアッサム淹れてきたの♪マドレーヌも焼いてきちゃった♪お茶にしましょv」
いいながら、テーブルに手際よく、良知と自分の分を並べ始める。
「あれ?今日は島田は?」
尋ねると少し寂しそうな顔で
「今日は、まだ一度も来てない」
と、口を尖らせる。
いつも、いつも言い合いしている二人だけれど。
本当は、誰よりも仲良しなんだよなぁ
なんて、微笑ましく思ってしまって、思わず顔が綻んでしまう。
「良知君?」
「あ、ごめん。なんでもないよ?それより……ごめんね?萩原の依頼……ずっと進まなくて」
突然申し訳なさそうに謝る良知に
「え?いいのいいの!僕の依頼って言っても……別に、僕がお願いしたわけじゃないし……それに、僕……此処でお手伝いさんやるのすごく楽しいし……皆と一緒にいるの好きだから……まだ、此処にいたいっていうか……」
「……萩原がいたいなら、いつまでもいていいんだよ?」
ニッコリと告げられ、萩原はパーっと明るく笑う。
「ほんとに!?」
「もちろん。だってね……町田さんや大野君を見てご覧?いつのまにか、すっかりただの居候になってる」
クスリと笑う良知。
萩原もつられてクスリと笑う。
「確かに。いつになったら、代金払ってもらえるんでしょうね?」
「多分、一生無理じゃないかなぁ……」
苦笑して、マドレーヌを一つ。
「美味しいね、幸人」
「ほんとに?」
「幸人の作るお菓子は本当にいつも美味しいね」
「嬉しい〜」
「……何、暇そうに優雅なティータイムごっこしてんだよ!」
バタンとドアが乱暴に開き、そこには島田の姿。
「ごっこじゃないもん!本当に優雅なティータイムなの!」
フンっとふくれる萩原に
「そんな暇があったら、依頼人探して来いっていっつもいってんだろ?」
ほら、いったいった。
と、クイっと腕を引っ張りあげて、廊下へと押し出す。
「ちょっとッ!……あ!久しぶり〜!!」
廊下に出た幸人が誰かに挨拶している。
「あ、先日は……お世話になりました」
答えるその声は、聞いた事はないけれど。
思い当たる人物が脳裏に浮かんだ良知は
「幸人、島田とお客様に紅茶とお菓子お願いできる?」
「はい!」
「あ、紅茶は……甘くしてあげてね?」
その言葉に、萩原はフワリと笑う。
「かしこまりましたv」
苦いの、苦手だものね?
お客にウインクして、萩原は台所へ向った。

そして
良知の耳に
ずっと聞きたいと願っていた
人の声。



「この間はありがとうございました!あの!依頼料払いに……」



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屋良っちの回終了〜!!
やっと更新できました!
すっげー久しぶりすぎて……感覚が……
でも、久しぶりだったけど……
探偵良知とメイド萩原は書いてて楽しかった(笑)。
そして、ナイスコンビ町田大野(笑)。
この二人が、ボケながらもいい味だしてるキャラとしてこのまま君臨していってほしいなぁと(笑)。

さて、次回はどうしようかなぁ〜。

2008/5/4

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