■++其の弐拾伍++■
屋良の事件から、早一ヶ月。
特に何もなく過ごしていたのだが、1週間前程から、気になる事がある。
最近、どうもおかしい。
何が?と聞かれてもちゃんと説明できないのだが。
何かがおかしい。
島田は、無意識に首を捻る。
「何。どうしたの?」
おかしいよ?
良知に聞かれて、思わず肩を竦めた。
「何か、わかんないんだけど…おかしいんだよね」
「何が?」
「だから、わかんないって」
苦笑すると、良知も同じように苦笑する。
「それじゃあ、どうしようもないじゃん」
「そうだけどさ」
ブツブツと「何だかなぁ」と言いながら、島田は資料を片付けていく。
生徒会が終わり、後は片付けて帰るだけ。
…なのだが。
「ねぇ、良知君」
「なに?」
「どっかでご飯食べてかない?」
「めずらし。僕誘ってくれるなんてね」
萩原は?
尋ねられて、島田は目を丸くする。
「何でアイツが出てくんの?」
「何でって…いっつも一緒にいるじゃない」
笑う良知に
「あぁ、違うって。たまたま行動が一緒になる事が多いってだけ」
と、島田が笑い返す。
「たまたま…ね」
本当は、島田が萩原に合わせている事も、萩原が島田に合わせている事も、良知はわかっていた。
わかっているが、どうせこれ以上言っても認める事はしないだろう、と良知は苦笑して机の荷物を片付け始めた。
「で、どうなの?」
「何が?」
聞かれて、ノートを鞄に入れながら、良知は顔を上げる。
「飯。食ってくの?」
「あぁ、その事ね。いいよ、付き合うよ」
「じゃあ、いつものファミレスで」
「代わり映えしないな〜」
「どっか他にある?」
「特に思いつかないけどね」
「だったらしょうがないでしょ」
二人で目を合わせて笑う。
「それにしても、珍しいね」
今度は島田が問う。
「何が?」
キョトンとする良知に
「だって、良知君の事誘ったら、いつも石田がすっ飛んでくるじゃん」
笑う島田。
「そっかな。…そうだね、そういわれればこないね」
少し引きつった笑いの良知。
「けど、別に石田だっていつもいつも僕の行動を気にしているわけではないと思うし」
引きつったまま告げた良知に、島田は心の中で「だといいけど」と呟きながら、話題を変える事にした。
「だいたいさ。今日の会議だって、なんで俺だけ代表なわけ?」
島田の不満そうな問いかけ。
今日の生徒会は、通常の生徒会会議とは違い、生徒会役員全員が出席しているものではない。
来期の各部の予算を決める為の、前段階の打ち合わせ…というか、各部からの生徒会への根回しのようなものなのだ。
各部の言い分を聞く為だけなので、全員出席する必要もないだろう、と良知は代表で自分の他に、島田を呼んだのだ。
「島田が一番仕事するから」
ニッコリと笑って言われてしまう。
「…その笑顔で言われちゃあね」
二の句も告げなくなるっつーの。
溜息をついて、島田は鞄を抱える。
「ま、しょうがないから、今日は奢られる事に決めたから。よろしく」
ニヤリと笑う島田。
「…ずるいね、お前」
呆れた目で見返す良知。
「だって、良知君優しいから」
「…そんな顔で言われちゃあね、」
仕方ない。奢らせて頂きます。
良知も鞄を手に取り立ち上がり、二人は生徒会室を後にした。
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「どうしたの?島田」
良知の言葉に、島田はハッと顔を上げた。
「何?」
「何って…すごく思いつめた顔で固まってたから…」
大丈夫?
そう言って、良知は島田の額に触れる。
「大丈夫。別に熱とかないから」
島田は軽く頭を振った。
「何か、あった?」
「う〜ん、別に何もないんだけど…」
そこまで言って、島田は一呼吸置いて、思い切ったように良知の目を見て告げた。
「でも…実はさ。最近、萩原が俺に近づかないんだよね」
「はぁ?」
驚いた良知だが、確かに思い返してみると、最近二人が一緒にいる姿を見かけない。
「何で?」
「わかんねぇ。でも、アイツが俺を避けるようになった頃、ちょうど俺が何かおかしいって思い始めた頃だったから」
もしかして
「「憑かれた?」」
二人の声が重なる。
「…そうだよね、やっぱり」
「そうだね、多分」
でも。
と良知は首を振る。
「僕にはあまり何も感じないんだけどね」
「そっかぁ。良知君は何も言わないから、俺も霊じゃないな、とは思ってたんだけど」
「じゃあ、何なんだろ」
「良知君でわかんないなら、俺にわかるわけないじゃん」
「最近、何か起きたりしてない?」
「視線、感じたりする事は多々あるけど」
「…妖怪の類なのかなぁ?」
良知の呟きに、島田は飲んでいたコーヒーを拭き出しそうになった。
「よ、妖怪?まさか!」
「何で?」
何でまさか、なの?
聞かれて、島田はフルフルと首を振る。
「だって、妖怪なんているわけないじゃん!」
「幽霊の存在は信じてるクセに」
頬杖をついて、良知は島田を見る。
「そりゃ、あんだけ色んな目にあえば、幽霊の存在は嫌でも信じるしかないじゃん」
だけどさ…
続けようとする島田の言葉を遮る。
「けど、僕が何も感じないって事は、霊の可能性は極めて低いけど?」
これでも、修行積んでるんだから。
頬杖ついたまま、ジト〜っと島田を見る。
「…や、良知君が相当大野君にしごかれてるって話は聞いてたけど。つーか、良知君が何気にすごいことはよくわかってるけど!でも、妖怪って!」
「萩原だって、自分の手に負えないかもしれない相手だからこそ、迂闊に手が出せなくて、ちょっと離れてるんじゃないの?」
きっと、萩原の事だもの。何とかしようと思って、今色々調べて歩いてるかもよ〜?
良知の言葉に、島田はフルフルと首を振る。
「だ、だけど妖怪なんて…あれでしょ?目玉おやじとかでしょ?」
「それは、鬼太郎じゃん」
笑う良知。
「だってさぁ〜想像も付かないよ。妖怪だなんて」
ぼやく島田に
「…見たら、信じる?」
悪戯っぽい顔で尋ねる良知。
「は?」
「だから。見たら信用できる?」
「…まぁ、見れば信用するしか、ないけどさ」
「じゃあ、行こうか」
良知は立ち上がって伝票を手に取る。
「ど、何処へ?」
「妖怪、見に」
ニコリと笑う良知に、島田は思わず引いてしまう。
「だから、何処に」
「まだ、妖怪変化の類には僕は強くないんだ。だから、まだ修行中なんだけどさ。大野君は、それが今本業だから」
「は?」
「大野君、別に霊だけ相手にしてるわけじゃないよ?基本的に「憑き物」を落とす仕事だから」
「…よく、わかんないけど」
「ま、色々あるんだって。とにかく行こう。大野君なら、島田に何が起きてるか、わかるかも」
「…大野君、のトコ行くって事?」
「大正解。じゃあ、約束どおり奢らせて頂きます」
良知は伝票を手にし、逆の手で島田の手を引っ張り、足早に会計に向った。
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25話です。
お久しぶりの「続」なので、ちょっとシリーズ感を思い出しきれていない感じもしますが(苦笑)。
今回は島田さんが案内人でございます。
しかも趣向を変えてみました。
そうそう霊に取り憑かれていると疲れますからね(笑)。
とは言ったものの。
本当に妖怪変化かどうかもまだわかりませんが。
とりあえず、プロローグなので、色々な方向性を考えられる形にしておきました(笑)。
これから、メンバー勢ぞろいで、色んなことになっていくんだろうなぁって感じです。
…なんだ、それ(笑)。

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