+第11話〜決意〜+

「戦う…」
呟く友一に慎吾は再度頷いた。
「そう。いつまでも逃げ延びるだけでは何の解決にもならぬと思われる」
「だが…」
何かを言おうとした真次の言葉を遮り、慎吾は続けた。
「智は、もともと戦う事を避けようとそなたらを逃した。だが…いくら争い事を嫌うとしても、逃げるだけでは解決せぬ問題もあると私は思う」
「…幸人を危険な目に合わせるわけにはいかぬ」
直樹が低く告げた。
「ただ逃げるだけでは、なお危険だと何故気付かぬか」
朝幸が直樹に詰め寄る。
「だが…」
言い争う皆の声を遮って、僕は言った。
「戦おう」
「幸人!!」
直樹が僕を見る。
「当主、わかっておられるのですか?戦うという事がどんなに…」
真次の言葉に僕は頷いた。
わかっている。でも、僕は強くなると決めたのだ。
「このまま、いつまでも逃げるのなら、ここで戦う事を選ぶ」
真っ直ぐに直樹を見詰めて、こう告げると、直樹は少し困った顔をしたが、すぐに僕を見返して答えた。
「わかった。お前に従おう。お前は俺が必ず守る」
「我等も、命に代えてお守り申し上げます」
真次と友一も僕を見た。
「ありがとう、皆」
僕は、誰かに支えられなければ生きてはいけない。
それは誰もがそうなのだと思う。
だらか、自分も誰かを支えられるように、強くなるのだ。
「戦うと決ったのであれば、色々と策を練らねばならぬ」
慎吾が少し身を寄せる。
「まずは、智を呼ばねばならぬな」
慎吾は朝幸に向かって告げた。
「…まさか、僕に」
少し怪訝な顔をした朝幸に慎吾はにっこりと微笑んだ。
「我より、朝幸の方が早いであろう?幸人殿の為に、よもや行かぬとは申すまい?」
「全く、策士なのだから。しかし、智の事。すでにこの状態も先読みされて、此方に向かってるのではないか?」
「それでも、智は迎えに行かぬと臍を曲げる」
苦笑した慎吾に、朝幸はやれやれ、と腰を上げた。
「仕方があるまい。見目麗しき蝶なれど、進みが遅くては用が足らぬからな」
ニヤリと笑った朝幸の身体を妖しく美しい光が包み込み、その姿は猫へと変わった。
「にゃあ」
と、一声鳴き、軽やかに部屋を出て行った。
「全く、一言多いのだから」
慎吾は笑い、そして僕等を見た。
「智は、強い。彼の力は絶大なものだ。必ず幸人殿の助けになる。そして…」
慎吾は、直樹を見た。
「直樹殿、お主、まだ話していない事があるように思われる」
「…何を」
「これから、戦うにあたって、これは確かめておかねばならぬ事だと思う」
「…」
直樹は、黙ってしまった。
「一体、どういう事なのか」
真次の言葉に、慎吾は少しだけ、僕を見て、それからまた直樹を見つめた。
「お主の、母上の事。お主の母上は、前にも幸人殿を狙っていたのではないのか?」
「…何故、」
「お主が、幸人殿に初めて逢われた時、母上の妖術によって、現れし鬼どもをお主が成敗したのではないのか?」
一瞬、あの時の記憶が鮮明に蘇った。

「何、してるの?」
そう尋ねてきた直樹は、土がついた手を叩き合わせてほろい、袂に手を入れていた。
「…正確には、俺だけではない。幸人が可愛がってた犬が助けてくれたのだ」
あぁ…あの犬は、僕の為に死んだのか。
そう、思った僕の膝へとサクが近づく。
「幸人にあった時、俺は犬を櫻の下に埋めていたのだよ。櫻の力で、犬を助けたかったから。だから、早く幸人を部屋へと戻す必要があったのだ。見つからぬようにね」
「え?」
「七日経ったら、サクが現れただろう?その子は、転生したのだよ」
「サクが…」
僕はサクを撫でた。クンと気持ちよさそうに鳴く。
「そして…その時だけではなく、今も」
慎吾の言葉に、直樹は頷いた。
「おそらく、村人を率いているのは俺の母であろう」
「では…」
「我等は、直樹殿の母上と戦う、という事か」
真次の言葉に、直樹は頷いた。
「そういう事だ」

そんな…
直樹は、自分の母上と戦おうとしているのか。
僕の為に、自らを産んでくれた母親と戦おうと。




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第11話。
あれ、全然遅いですね、展開が。
でも、頑張りました。
えっと、次回は智も再登場し、そろそろ戦う予定です。
そんなことよりも、この話、一体何話までいくのだろうか(苦笑)。
あんまり長編にするつもりないって言ってたのに〜(笑)。