+第12話〜再び〜+

何も言えず、ただ拳を握る僕に、直樹は不図表情を和らげ告げた。
「幸人が気に病む事は何もない。これは、幸人の為だけの戦いではないのだよ」
「え?」
顔を上げると、直樹は少し厳しい顔で告げた。
「これは、俺の戦いでもある。全ての決着を着けなければ、俺は転生する事も出来ない」
…転生。
背筋に冷たいものが走った。
言われるまで、考えてもみなかった。
当たり前に、直樹は此処に…僕のそばにずっといるものと思っていた。
直樹は…全てが終われば…
「消えて、しまうの?」
呟く僕に直樹は困った顔をした。
「幸人…お前には真次や友一も居る。サクもな。俺だっていつでも幸人のそばに…」
直樹の言葉を遮る。
「でも…姿は見ることはできなくなるのでしょ?」
「…泣くな、幸人」
直樹の指が、僕の溢れそうな涙をそっとすくった。
困らせたいわけではないのに。
強くなる、そう誓ったばかりだというのに。
「ごめんなさい」
謝ると直樹は小さく首を振った。
「いや、いいんだ。とにかく、幸人は何も気にする事はない」
そう言って、直樹は僕の頭を撫で続けた。
「さて…智がくるまでもうしばらくかかると思われる。今のうちに、策を練ろうではないか」
慎吾の言葉に、全員が頷いた。
「まず、戦うのであれば、少し戻るが、先に通ってきたあの森がよい。あそこなら、他の人間に迷惑もかからず…そして、我等の妖術も繰りやすい」
「しかし、囲まれては逃げ場がないぞ」
友一の言葉に慎吾は妖しく笑った。
「逃げ場?逃げなければ、そのような場所は必要ないではないか」
「だが!!」
「逃げる必要はない。いや、逃げる事は出来ないのだよ」
「…慎吾殿」
真次が意を決したように息を飲んだ。
「そう。この戦いで全てに決着をつけねばならぬ。だから、何があろうとも、逃げる事は出来ないのだよ」
覚悟は、出来ているね?
慎吾は、僕を見た。
「逃げるつもりは、ない」
はっきりと告げると、慎吾は満足そうに頷いた。
「ならば、よい」
そして、真次や友一に向かって続けた。
「相手は、妖術に操られし人間。人並み外れた力を持っているやも知れぬ。お主等、武器は?」
真次と友一が揃って刀を差し出した。
「うむ。これでは、人は切れても妖かしは切れまい」
さて、どうするか。
慎吾がそう告げた時、風が吹き込んできた。
「そいつは俺に任せてくれ」
声のする方に目をやると、猫と智、そして見知らぬ男が一人立っていた。
「おぉ、剛史ではないか」
何故、此処に?
驚く慎吾にその男は口の端を微かに持ち上げ笑った。
「俺を必要としてると思ったからさ」
足元で猫が白い煙に包まれ、朝幸が姿を現した。
「何を偉そうに。智に呼ばれて、わけもわからず着いてきたくせに」
フフと笑う朝幸にその男は睨みをきかす。
「まぁ、二人とも静かに」
やんわりと二人を制し、智は僕を見た。
「お元気だったか、幸人殿。また逢えて嬉しいぞ」
微笑む智に、少し心が癒される。
「大変な時、微力ながらお助け致します」
そう告げて、智は真次と友一に向かう。
「さて、その刀。この剛史に一晩預けて下さらぬか」
「一体、何者なのです?」
真次の問いに、智はフフと笑った。
「言い忘れてたのじゃ。剛史は刀に妖術を吹き込む事の出来る男。お主等の刀に力を吹き込ませて頂きたい」
「誰にも負けない刀に変えてみせるぞ」
自信に満ちた顔で剛史は告げた。
「ならば、お願い致す」
真次と友一は刀を差し出した。
剛史は「承知した」と一言残し、すっと消えていった。
「思ったよりも、早かったね。朝幸」
慎吾の言葉に、朝幸はフフと笑う。
「猫の足を侮る事なかれ。見目麗しきしか能のない者とはわけが違う」
朝幸の言葉に、慎吾は「全く」と頬を膨らませた。
「智、朝幸を甘やかしすぎたのではないか?口も悪く我侭も過ぎるぞ」
訴える慎吾に智は
「甘やかしているのは、私ではない。お主だぞ?」
と笑った。
「さて。そうそう楽しい話ばかりをしている時ではあるまい。早速だが、策を話し合いたい」
不図真剣な顔で智が告げる。
慎吾は頷き、先ほどまで話していた事をそのまま智に告げた。
「うむ。悪くない。あの森は不思議な力を持っている。我等の味方につけれればよいが」
「大丈夫。あの森は私の育った場所。先に話をつけておきましょう」
「そうか。朝幸が…ならば、今から森の主に頼んでおくれ。決して森を傷つけることはしない、と念を押すのだよ?」
「承知しました」
朝幸は立ち上がり、また猫へと姿を変えた。
走っていく朝幸を見送り、智は言った。
「森を味方に出来れば、随分と楽になる。あとは、戦ってみなければ何とも言えまい。その都度、私も様々な術を繰り出せるようにしておこう」
「ありがとう」
自然と口から出てきた。
「何、困ったときはお互い様なのじゃ。気にする事はない」
優しい言葉に、想いに。
全てが救われる思いだった。
明日には、僕は、僕の運命と戦う事になる。
そして、それが終われば…
直樹とは二度と会えなくなる。
けれど…
終りを迎えなければ、始まりもないのだ。
直樹の為にも…
直樹の転生の為にも。

僕は

全てに

答えを出すのだ。



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第12話。
体調を崩しながら書くと、意味がわからないって事に気がついた今回(爆)。
何とか、更新いたしました。
えっと、次回で戦うでしょ?
だから、あと3〜4話で終わると思うんだけど…
全15話くらいかな。もしくは20話ってところだな。
…ま、予定だけどね(苦笑)。