+第13話〜戦〜+ 「我等は前に出て戦おうぞ。智は後ろから助けを出してくれればよい」 慎吾の言葉に智は首を振った。 「いや、高みの見物とは行かぬ。我も前に出て戦おうぞ」 「しかし、智は後ろで全ての物事を見極めて、その上で術を繰り出すのが一番なのでは」 慎吾の言葉に、智は少しだけ笑う。 「それは、今まではそうだったかもしれぬ。しかし、今回は前に出て戦う事が重要ぞ。さすれば、本来の敵も慌てて姿を現すやも知れぬ」 「慌てて?」 真次が尋ねる。 「そう。妖かしの術を使う得体の知れぬ者が相手とわかれば、あちらも姿を表さざるをえまい。遠くからでは自らの力も及び難いであろうしな」 「そうか。おびき寄せるという事か」 友一が呟いた。 「そう。我を囮に本敵を誘き寄せる。その後は…直樹殿の仕事」 「必ず…この手で終わらせてみせよう」 僕は…背筋が冷たくなっていくのを感じた。 本敵。そう…それは直樹の母。 その母を前にし、直樹は本当に戦う事が出来るのであろうか。 いや…今はもう、悩んではいけないとわかっている。 でも。 「幸人。必ず守る」 直樹は、そんな僕の心をも見透かしたように。 力強い眼差しで、僕の弱い心すらも射抜いく眼差しで告げた。 「さて。後は剛史の仕事の終わりを待つのみ。戦に備えて、少し眠った方がよかろう」 智が微笑み、立ち上がる。 「幸人殿。事が始まったら、お主は一番後ろにいるのじゃ」 結界を張ろう。 智の言葉に、僕は頭を振る。 「私も…戦う」 告げると、智はゆっくりと首を振った。 「お主を守るための戦ぞ?」 「幸人殿。大将は一番後ろで大きくかまえているものと決っておる」 慎吾が笑う。 「しかし!!!」 なおも告げようとした僕の言葉を、智が遮った。 「幸人殿。少々厳しい事を言わせて頂くが…お主をそばに従えたまま…かばいながら戦うのは彼等には不利ぞ。自分の身を、守れぬならば、安全な処にて見ているべき」 「智。言いすぎだ」 直樹の言葉を、智は尚も首を振って止める。 「いや、幸人殿は後ろから、しっかりと見なくては。御主達が、どれ程の思いで、幸人殿を守ろうとしているのかという事を。その目で、しっかりと見て、そして気付かなくてはならぬ。人と人が支えあうという事。誰かのために人はどれ程強くなれるのかという事。そして、人は生きていく為に、どれ程周りの人間に迷惑をかけ、それでも助けられているのかを。それが全てわかった時に、初めて幸人殿のお力を借りる事となるのだ」 「…力?」 思わず智を見上げた。 「そう。お主は、木々と心を通わせる事が出来る。それは、森で戦う上で、一番の力ぞ。ただ、今の幸人殿では、まだ弱い。全ての力を手にする為にも、幸人殿は我等の戦をしっかりと見届けねばならぬのだ」 「私は…今の今まで。今この時まで。甘えていたのだという事が痛いほどわかった」 智の言葉で。 僕は、僕の弱さを 弱さと知る事が出来た。 「人は、自分の弱さを知った時から、初めて強くなれるものだよ」 慎吾が笑う。 「さぁ、幸人殿もやっと大きな一歩を踏み出せたようだし、そろそろ寝ようぞ?我はもう目が開けていられぬ」 ふぁ〜と大きな欠伸をして、智は慎吾を呼び、隣の部屋へと消えた。 「我等も、少し横になりましょう。明日に備えて」 真次と友一も二人に続いた。 「さて、幸人。眠るか?」 直樹の言葉に、僕は少し頷き… 「直樹は…何故僕を助けてくれるの?」 思わず尋ねていた。 何故、そんなにまで。 命をかけてまで。 母を敵としてまで。 「誓ったのだよ」 色々と考えをめぐらせていた頭を、直樹は優しく抱え、自分の膝の上へと乗せた。 優しく、僕の頭を撫でながら続ける。 「母上が…切り裂かれた俺の身体を抱きしめながら、涙を流したとき。母上を守ろうと決めた。そして、母上が魔物へと姿を変え、まだ見ぬ弟へと非情な仕打ちをしようと決めたとき。弟を、守ろうと決めた。弟には、自分の分まで世界を見て欲しい。幸せになって欲しい。そして、その為にも…俺はどんな事をしてでも、弟を守ろうと誓ったのだよ」 「…母上も守るのではなかったの?」 見上げて尋ねた僕に、直樹は優しい眼差しで僕を見た。 「守るさ。だからこそ、俺の手で終わらせるのだよ。母上を救うための戦でもあるのさ」 「救う…」 「そう、俺の手で全てを終わらせ、母上を浄化させる。さすれば転生も出来るだろう。そして俺も。幸人は…この先、俺の分も生きて…そして、寿命を全うした先に、転生する。そして…必ずまた出会う事が出来る」 「…本当に?」 「あぁ。幸人が忘れても。俺は何度転生しても、幸人を探し出す。必ず幸人の前に現れる。そして、今度こそ、生きた姿で幸人と親友となろう」 「直樹…」 j涙が出そうな私の瞼を…直樹はゆっくりと手で撫でて眼を閉じさせる。 「幸人。俺の転生は…幸人と離れる為ではないのだよ。今度こそ…共に同じ時を生きる為の転生なのだよ」 だから… 「悲しまないで」 おやすみ、幸人。 優しい、直樹の手の下で。 僕の頬を伝っていく一筋の涙。 それは、今までの悲しみの涙ではなくて。 温かな、優しい涙だった。 「僕も…決して忘れない」 呟いたつもりの言葉は 直樹に 届いただろうか。 僕は、そのまま眠りに落ちていった。 もう…感じる事は出来ないかもしれぬ、直樹の温もりの中で。 TOP |
第13話。 お久しぶりの更新。 あぁ…書きたいことが上手く表現しきれていない…。 えっと、ラストは決っています。 次回で戦うでしょ?多分2話くらいで戦は終わると思うんで(ぇ)。 その後、エンディングへと…なんだか中途半端に17話くらいになりそうだな(苦笑)。 削るのは無理だから…伸ばして20話かな(ぇ)。 まぁ、そんな事言っててもっと長くなってたらどうしよう(爆)。 直樹、素敵ですね。自分で書いてて言うのもなんですが(爆)。 一緒に生きていくための別れ。 それって、凄く素敵な感じがしませんか? あれ、私だけ??(不安) |