「母上」
それは、本当に小さな呟きだった。
直樹は空を見つめ、両の手を握り締めた。
そして、僕の顔を見た。
「終わりにしよう、幸人」
ふわりと、柔らかい笑顔。
13年前から変わらない、僕を包み込む笑顔。
「直樹」
僕の呼びかけと同時に、直樹は地を蹴ってふわりと跳んだ。
まるで重さを感じないかのように、軽々と木の上まで跳びあがる。
「直樹殿!」
智の呼びかけに上から見下ろした直樹は口の端を微かに持ち上げ、笑ったように見えた。
「―ッ!!」
白狐は叫び声と共に、直樹へと襲い掛かる。
すでに、母親としての意識をなくしているように。
我が子へと、全力で襲い掛かっていく。
軽々と攻撃をよけながら、刀を握り、構える直樹。
白狐の背中へと乗り、刀を天高く振り上げ、勢い良く降ろす。
「母上!目を覚まされよ!」
突き刺さる刀。
噴出す紅い血。
そして、白狐の切ない叫び声。
それでも。
直樹の母上は、狂ったように暴れだした。
振り落とされる直樹。
「直樹!!」
僕は祈った。
木々よ。
直樹の体を支えて。
その時
声が
聞こえた。
『汝が望み、叶えたもうぞ』
同時に、森中の木々が、枝を揺らし、落ちてくる直樹の元へと枝葉を集める。
その枝葉に支えられるように直樹は柔らかく着地した。
「幸人殿!森はそなたを認めたようだ」
智殿が笑う。
「もう、幸人殿の思うがまま。直樹殿に力を貸して、全てに決着をつけようぞ」
「幸人殿。我等も思うが侭に。どんな命でも受ける所存でございます」
「なんなりとご命令を」
慎吾と朝幸が笑う。
「幸人殿。自由はすぐそこです」
「我等も共に参ります」
真次が、そして友一が。
「幸人。お前の力を貸してくれ。共に戦い、そして勝つ。お前と…同じ時を生きる為」
直樹の声。
僕は頷く。
やっと、皆の為に戦う事を許されたのだ。
今まで、戦う事すら認めてもらえぬ程の弱い僕を。
やっと…森が認めてくれたのだ。
だから、全てを賭けて、皆と戦いたい。
直樹の母上であろうとも。
終わらせる事で、彼女の為にもなるのではないだろうか。
全ての人たちを救う為に
僕は戦う。
傷つけるための戦ではない。
救うためなのだ。
僕は
戦おう。
「皆、一斉に力を放とう。己が持つ全ての力を注ぎ、白狐へと」
直樹の母上を
「助けるために」
「御意」
「木々よ、力を貸して欲しい。僕の声が聞こえるだろうか」
さわさわと、木々が揺れる。
「ありがとう。僕は皆の力を必要としてる。君たちの全てを持って、魔の力を消し去って欲しい」
さぁ
「戦おう」
全員が僕を見て頷いた。
そして…
眩い白銀の光が僕の体から渦巻いて現れた。
これが、木々の力なのだろうか。
そして、智の式神が飛び交い
朝幸と慎吾がまるで踊るように舞い
秋山が周りの敵をなぎ払い
真次と友一は白狐の心の臓へと刀を突き立てる。
直樹は…
「母上!!」
泣いていると思った。
確実に、急所を狙う直樹の刀。
白狐は、いつのまにか女性の姿へと変わっていた。
そして、直樹は
刀に顔をうずめたまま
身動きしようとしなかった
だから
泣いている、
そう思った。
「直樹」
呼びかけには答えず、直樹は母上を抱きかかえる。
「母上。もう終わりにしましょう。私は…父を…そして、幸人を恨んでなぞおりませぬ。母上も…もう、終わりにいたしましょう。全ては宿命…こうして…」
私の手で…終わらせる事も。
「な、おき…この時を…待って…」
それは、やっと母親に戻ったであろう言葉。
その言葉を最後に、直樹の母上はゆっくりと目を閉じた。
直樹の…腕の中で。
□□□□□□□
16話です。
本当にお久しぶりでございます。
しかも戦うシーンがとても短くてごめんなさい(爆)。
このお話は、メインを心の部分にしておきたいので、あまり戦をリアルに書きたくないなぁ〜と。
いや、書く技量もなかったって話ですけど(苦笑)。
多分…次回で終わります。
きっと終わります。
いや、ちょっと終わりですよ。
櫻も終わってしまうのね〜。
とっても寂しいです〜(涙)。
これが終わったら…
前にも言っていた、智達メインのお話を書いていこうかなぁとも思っておりますが。
とにかく、もう終わりますね〜。
続きは浮かんでおりますので、近々更新予定。
あぁ…終わらせたくない(爆)。
寂しいよ〜。
…って思ってるのは私だけか?(爆)
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