+第4話〜別れ〜+

心地よい温もりを感じて、僕はゆっくりと眼を開ける。
目の前には優しい…とても優しい眼をした直樹がいた。
直樹に抱きかかえられるように寄りかかっていた僕の頭をゆくりと撫でてくれる。
「気がついた?」
問いかけに微かに頷くと、更に柔らかく笑った直樹は、僕を抱えたままそっと立ち上がる。
「さて…再会を懐かしみたいところだけど…時間がないんだ。そろそろ行こうか」
「何処へ?」
尋ねた僕に、直樹は微笑んで告げた。
「約束しただろ?助け出すって」
そういって格子戸まで歩み寄り手をかざす。
扉が…ゆっくりと開いた。
見ると、見張りは深い眠りに落ちているようだった。
「急ごう。外で彼らが待ってる」
直樹は僕を抱き上げると足早に屋敷を抜けた。
庭に出ると、真次達が待っていた。
「当主!!」
友一が駆け寄ってくる。
「二人とも…何故?」
二人にも、直樹が見えているのか?
この前は、確かに見えていなかった。
それに、何故二人が、馬を用意し、此処で待っていたのか…
「我々は常に当主と共に。お供致します」
真次が笑う。
「この先、彼らの助けが必要になる。幸人を守ってくれるよ」
そう言って直樹は僕を下ろした。
「直樹?」
「大丈夫、いなくなりはしないよ」
その言葉に、僕は安堵し…全ての不安や疑問を忘れ、ゆっくりと櫻へ近づく。
一目見たい。そう、ずっと思っていた。
「しばらく…お別れだね」
幹に触れる。
櫻が…寂しいと言っていた。
それは僕も同じ…
ずっと一緒に年月を重ねてきた友人。いや、掛け替えのない存在との別れは、言いようのない悲しみを生む。
「幸人…」
慰めるような直樹の声に重なるように、聞こえてきた叫び声。
「いたぞ!!」
屋敷から従事達が駆け寄ってくる。
「もう目覚めてしまったか…」
直樹はそう肩を竦め、真次達に向かい告げた。
「先に行っててくれ。この先しばらく馬を走らせれば、小高い山がある。そこに小さな小屋があるから。そこで待っていてくれ」
「承知した」
二人は頷くと僕を馬に乗せた。
「直樹!!」
不安に、思わず叫んだ僕に、
「大丈夫」
と笑うと、馬を撫で、話しかける。
「幸人を迷うことなく小屋へと連れて行くんだぞ」
そして、二人に向かい声を上げた。
「行け!!早く!!!」
その声を合図に二人は馬を走らせた。
その後ろで…
「さぁ、お前を大事に育ててくれた、大切な幸人の為に…目覚めよ!!そして、幸人の為に戦え!!!」
直樹の声がした。そして、その声に促されるように櫻が枝を振り乱し、次々と花弁を撒き散らし従事達に襲い掛かる姿が見えた。
「当主!!振り落とされぬようしっかりとお掴まりください」
真次の言葉に、僕は力を込め、真次の背中にしがみついた。
徐々に遠ざかっていく櫻と直樹。
それでも、櫻の必死な叫びは聞こえ続けていた。
僕の為に、彼らは戦ってくれていた。
無事で…
僕の願いはただ、それだけ。
櫻も、直樹も。そして真次も友一も。
皆が無事でいられるように…
何も出来ない僕は、ただひたすらに祈るしかなかった。
途中、見上げた空に浮かぶ十六夜月は、13年前と同じように…美しく、そして妖しく。
不吉なまでに紅く、紅く光り輝いていた。



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第4話です。お待たせいたしました。
切ないです。なんでこんなに切ないお話書いてるんでしょうか(謎)。
基本的にハッピーエンドが好きです(ホントか?)
それにしても…直樹は一体何者…?
って、私はわかってるんですけどね〜(爆)。珍しく、ちゃんと決まってるんですよ〜♪