+第7話〜出会い〜+

やっとたどり着いた先は、町の奥深く…少し人里離れた場所で。
とても大きな屋敷だった。
「ここか?」
友一の言葉に、直樹は「あぁ、」と頷くと馬から降りる。
そして、僕に手を差し伸べて
「おいで」
と笑ってくれた。
全員、馬から降りると、門がゆっくりと開く。
そして、中から…
「お待ちいたしておりました」
と、鮮やかな背子(からぎぬ)にとても美しい衣をまとった…
「慎吾、早く連れておいで」
奥から聞こえてきた声に
「全く…急かしい方だ」
そういって、僕を見てにっこりと笑った。
「男…の方?」
思わず尋ねると、
「あぁ、いつも女子の服を纏う為、よく惑わされるがな」
と直樹がふっと笑う。
「さぁ、こちらへ」
慎吾、と呼ばれたその人に連れられるままに屋敷の奥へと進んでいく。
そこには…
「やぁ、よくぞいらした。まずは上がってお茶でも」
と、とても優しい笑顔の人がいた。
「智…何を飲む?」
慎吾が尋ねる。
「うーん。先の茶はいまいちだったぞ?」
「我侭な…」
つぶやき、慎吾は奥へ入っていった。
智と呼ばれた人に、促されるまま、座り込む。
「さて。およその事は直樹から聞いた。幸人殿…さぞ、お辛かっただろう」
言われて、僕は少し悩んで…
「でも、皆がいたから…」
と答えた。
すると
「フフ…いい友人に恵まれる、それが一番の幸せなのじゃ」
と智はとても柔らかく笑った。
「あの…」
「何?」
「…智殿は、一体」
何者…なのか。
「あぁ、智でよい」
と笑うと、智は懐に手をいれ、紙を取り出した。
その紙片に息をふぅ〜と吹きかけると、「みゃ〜」と泣き声を上げ、猫が現れた。
「え…」
眼を丸くする僕に向かい、智はフっと笑って告げた。
「陰陽師。僕は、陰陽道に遣える者だ」
まだ、修行中の身だけどね。
と苦笑する。
「すごい…」
思わず呟いた僕に
「すごくはないよ。さて、色々と話をしたいが、時間がない。早速だが、逃げる為の準備へと取り掛かろう」
智は立ち上がり、奥へと向かう。
しばらくして、慎吾がお茶を持って戻ってきた。
「どうぞ」
優雅な動きに、思わず見惚れてしまった。
すると
「慎吾。こっちへ」
智の声がする。
「全く…人使いの荒い」
苦笑しながら、慎吾は奥へと向かっていった。
しばらく待ち続けると、二人は着物を持って戻ってきた。
「そのまま逃げては見つかりやすい。少し姿を変えよう」
その着物は僕の分だけで…
「え…」
と思わず驚愕してしまった僕に
「俺たちは別に変える必要はない。奴らが探しているのは幸人だからね。だから、その方が見つかりにくいのだよ」
と直樹が笑った。
渡されたのは被衣の揃えで…
「これは、女子の…」
困り果てた僕に
「当主、逃げ延びるためです」
と真次にも説得された。
「仕方がない」
そういって立ち上がると、慎吾が奥へと案内してくれた。
++ ++ ++
着替え終わって、直樹たちのところへ戻ると、彼らはどうやら逃げる場所について話ていたようだ。
「月塞がりだから。南方は避けた方がいい」
「では…この先の山を越える道を行くしかないな」
頷く直樹に、智は続けた。
「慎吾をつけよう、道案内に。山を越えるまでは、私の術も届くだろうから。山は無事に越えられる」
あとは…
「その先、だな」
直樹も続けた。
その言葉に、少し不安になった僕が不図溜息を漏らすと、真次が僕に気がついた。
「当主、戻られてたのですか」
僕は真次の横に座ると、思っていた不安を口にした。
「僕は…いつまで、逃げ続ければいいのだろうか」
その言葉に、真次も友一も息を呑んだ。
「大丈夫。そう長くはないさ」
横から直樹が笑う。
「俺が、ついてる」
そう告げた直樹は、相も変わらず凛とした表情で。
僕は、それだけで、安堵する事が出来た。
「さぁ、そろそろ行こうか」
直樹の言葉に、真次たちも頷く。
「幸人殿…我等は幸人殿の味方だ。いつでも、呼んでくれればどこへでも助けに参ります」
ニッコリと微笑む智。
あぁ、直樹の言ったとおりだ。
僕は、初めて逢ったこの方を、大好きだと言える。
柔らかい空気がとても暖かい人だ。
「ありがとうございます」
深々と頭を下げ、僕らは屋敷を出た。
「慎吾」
門の前で、智が呼ぶと
「何処まで?」
と後ろから慎吾が現れた。
「山を、越えるまで」
智がそう告げると、慎吾は頷き
「僕が、案内しよう」
僕らにそう告げると、慎吾の身体が淡い光に包まれ…
「蝶か…」
直樹の言葉どおり、そこには大きな美しい…そして、妖かしのように光輝く蝶が舞っていた。
「見失わぬよう…」
蝶の囁きが耳に届く。
僕は、直樹に促され馬に乗った。
智に、もう一度深く頭を下げ…
「また、逢おうね」
温かな言葉に送られ、僕らは慎吾の後に続いた。

夜が…明けようとしていた。




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第7話です。
何とか続きましたね〜。
新しい登場人物は大野さんと町田さんでした。
一応、今後まだ出てくるであろう予感(笑)。
不思議な世界に、大野さんはよく似合う…(と私が勝手に思ってるだけ・笑)。
あ、ちなみに…途中出てきました「月塞がり」。何かといいますと、陰陽道で、その月によって忌み嫌う方角っていうのが決まってるんですよ。それを月塞がりと言うのです。一応解説まで…。