+第8話〜真実〜+

美しく舞う蝶の後を追い、僕等は山道を越えていた。
しばらくすると、目の前に一匹の真っ白な猫が現れた。
見覚えのある猫。
蝶が、また光に包まれ人へと姿を変える。
「どうした?」
直樹の言葉に
「智からの使いだ」
と、慎吾は短く答えた。
不図、猫もまた光に包まれ、人へと変わっていく。
「慎吾、追っ手が来る」
猫のような目をした少年に姿を変えたとたん、発せられた言葉。
「追っ手?」
「うん、時期にこちらへと追いついてくる。道を変えるようにと智が…」
「何者だ」
話を遮り、友一が問う。
「朝幸。私と同じく、妖かしの者から、智の力によって式神へと転生したものだ」
慎吾が答え、朝幸と呼ばれた少年が頭を下げた。
思い出した。
猫は…お屋敷で智が見せてくれた式神であった。
「さてと。道を変えるとなると…どちらへ向かえばよいか…」
慎吾が直樹へと問いかける。
「とにかく…山を越え、町へと入りたい。そうすれば、奴等もそうそう手を出してこれまい」
「ここからは、僕がご案内致します」
朝幸が言う。
「智から…進むべき道を告げられてきています。その道を進めば、無事に町へと辿り着く、と」
その言葉に、真次は大きく頷いた。
「では、お任せいたそう。さぁ、当主。先を急ぎましょう」
その言葉に頷くと、朝幸と慎吾は再び式へと戻っていった。
++ ++ ++
しばらくすると、山を抜け、町への道へと辿り着いた。
「待たれよ」
町の守りか…
役人が声をかけてきた。
「何か」
直樹が問う。
「何故、こちらに来られたのか」
もしかすると、伝え聞いているのかもしれない…私の事を。
少し、怖かった。
ここで、見つかってしまうのか、と。
すると、後ろから声が聞こえた。
「お役人様。何卒ご慈悲を。我等は病の姫の頼みを叶えたい一心なのでございます」
振り向くと、そこには美しい着物を身に纏った慎吾が立っていた。
いつのまに…横には、同じく女子のような着物を纏った朝幸がいる。
「何者ぞ」
「私達は姫と血をわけし者でございます。姫はご病気の身。一目愛する方にお会いしたいと我等に縋りて下さいました。ただ一目。その願い叶えて何の罪になりましょう。何卒ご慈悲を」
被衣の下から覗く、潤むような妖しげな瞳に役人は吸い込まれるように魅入ってしまったらしく、暫くは沈黙が続いた。
「ねぇ、お役人様?」
慎吾の妖しげな声が風に乗る。
「よかろう。入るが良い」
役人はそういうと、道をあけた。
朝幸が前に出て、僕等を先導する。
「さぁ、こちらへ」
町の中を案内され、連れられた先は小さな宿だった。
「ここへ」
馬を降り、中へと進む。
「いらっしゃいませ」
そこには年老いた女性がいた。
「おばあちゃん。泊めて貰える?」
朝幸が無邪気そうに尋ねる。
「何もない場所ですが、どうぞ」
不図、気がつく。
「もしや…眼が見えないのですか?」
「えぇ、先日とうとう…何のお構いも出来ませんが、ごゆるりと」
示された先に僕等は進んだ。
その部屋は広くはなく。だが、身を潜めるには十分な場所であった。
「やれやれ」
全員が腰を下ろす。
「先ほどは助かった。礼をいう」
真次が慎吾と朝幸に告げる。
「何、たいした事ではないよ。我等の術中になればあの程度の事」
「あぁ、そう。忘れていた。智から言伝を頼まれていた」
朝幸が突然声を出す。
「言伝?」
友一が尋ねたと同時に扉の向こうから先ほどの老婆の声がする。
「お茶、召し上がりませんかの?」
慎吾がすっと立ち上がり、ふすまを開ける。
「わざわざすみませぬ。お声をかけてくだされば、とりに参りましたのに」
そう微笑む慎吾に、老婆も微笑み返す。
「お主、人でなき者であるが、人よりも人らしい心の持ち主じゃの」
思わず全員が息を呑んだ。
しかし、当の本人は
「あれ、いつ気がつかれたか?」
と呑気におどけている。
「眼が見えなくなって、眼には見えぬものが見えるようになった。失って初めて手に入れる事が出来るものもある、という事じゃ。」
そう言って老婆はゆっくりと戻っていった。
「なんと、気がつかれていたとはな」
肩をすくめ、慎吾はお茶を中へと運ぶ。
「で、言伝とは?」
真次の言葉に、朝幸はあぁ、と頷き直樹を見た。
「…全てを話されよ。さすれば道は開かれん」
「…え?」
「智から、直樹へと。全てを、話さなければ、先へは進めぬ、と伝えろと」
その言葉に、直樹は深く溜息をつく。
しばらくどこか遠くを見つめていたが、意を決したように、僕を見つめ、そして不図微笑んだ。
「しかたない。まだ話すつもりはなかったのだが…。だが、このままいけば確かに話す機会を失ってしまいそうだ」
そう言って、僕等を見渡しこう告げた。
「これから話す事は、全て真実。何故、こんな事になってしまったのか。何故…幸人は辛い目にあわなくてはならないのか。その全てを、これから話そう」

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第8話です。
あれ、全てを話す前にきっちゃいましたね(爆)。
だって、話始めたら長くなりそうで…(苦笑)。
次回、やっと直樹の正体が明らかになりますね。
ひっぱった割にはたいした事ではないかと思われますが(痛)。
えっと、今回は朝幸も登場vv実は前回もちらっと登場していたんですね〜(笑)。
何気に…私的にはこのお話の中では大野智と仲間達(ぇ)がお気に入りだったりする(笑)。特に慎吾vv
…て自分で言うなよ(苦笑)。