月影
第参話


強く優しき鼓の音に合わせ
吹き奏でるは龍の笛
折り重なりて響く音は
互いの心を合わせるかの如く

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手を引かれ、縁へと座る。
「もう泣き止みき?」
翔が智の伏した顔を覗き見る。
「何故、此処に?」
翔の言へはいらへずに、未だ泣き伏し問い返す智に、翔は苦笑す。
「げに稚き子のようぞ、智。お主が、我を呼びたると思うて急いで参ったのだ」
「何故ゆえ、翔はかように私の事をわかるのじゃ?」
「智と、心が繋がりたり証ぞ」
と、鮮やかに笑う。
「智は……今も櫻を好いておるのだな」
「……翔が、私を救いてくれしかたであるから」
「智、久しぶりにお主の竜笛がゆかしと思うのだが」
「鼓があらば翔と一緒に奏でたかったのだけれど」
そう言って、智は立ち上がり、笛を手に取ると、麗しき音色を奏で始めた。
翔は、しばらくの間、櫻を愛でながら、その音色に聞き惚れていたが、ゆっくりと口を開き
「智……憂くはなしや?」
その言葉に、音色は止まる。
「……翔」
「人にあらざる子と苛められたらずや?」
「翔……何故、それを?」
「一人にて、抱え込みてしまって、憂き思いをしたらざるか?」
だらりと降ろしし手に、優しく手を触れて、翔は智を引き寄せる。
智は力なく崩れ落ち、翔に寄りかかった。
「我を頼ってくれてよしよ?智」
その言葉に智はまた泣き出した。
「陰陽寮にて、不穏なる動きがあるは、少し早く気付きたり。なおとく来てあげられざりてすまない」
「私は平気だよ。一人にても頑張れる。いつまでも翔に心配をかけるよしには……」
「心配させてもらえなくなりせば、僕は生きたる意味がなし」
ゆるりと笑う翔に智はなおしがみつき、声を上げて泣いた。
月の影と櫻が、二人を優しく包み込んでいた。
■■■■■■■■■■■■■■■
「智は、狙われたりや?」
心もとなそうなる慎吾に、康哲は優しく笑う。
「大丈夫。翔も我も付いておる」
「でも……」
「お主とて、いるであろう?」
「え?」
「智殿の為ならば、何でも出来るであろう?」
その言葉に、慎吾は力強く頷き、
「もちろん。智のためならば、命も懸くる事が出来る」
と声を張る。
「心配はいらぬよ。智殿も強きお人だ」
慎吾の頭を優しく撫でて、康哲は呟いた。
「今日は、もう眠りし方がよい。明日、二人に色々と話を聞かねばなるまいし、策も練らねばなるまいよ」
言われて、慎吾も小さく頷いた。
「康哲、本当は……お主を頼りにしておるのだぞ?」
「何を今更。とうにわかっておる事を」
「智を……守っておくれ」
言いながら、慎吾は康哲の袂を摘んで、静かに寝息を立て始めた。
「私も、お主の為なら命を懸くる事はさうなし事なのだ」
すでに眠りし慎吾へ告げて、康哲は格子から月を見上げた。
「翔が……かように早く訪れた事が……こころもとなし事とは思うが……いまいましき事ぞ」
先に聞こえし笛の音も、聞こえぬ闇が迫りつつ。
何よりも
己の心の闇が、月を覆っていくかのようだった。

手習い始めの笛の音は
いとおぼつかなし我にもおぼえ
月にも櫻にも

届かざるは
この想い

post script
*稚き子…(いとけなき)幼い子。
*いらへず…答えず
*かた…場所
*ゆかし…聞きたい
*憂くはなしや…辛くはないか
*なおとく…もっと早く
*さうなし…容易い
*こころもとなし…気がかり
*いまいまし…不吉
■後書■
今回のテーマは音楽でした。
……が、全くテーマに沿えていないので、リベンジしたいと思います。
今回はですね、古典に近づけようと努力を注いでしまって
そっちに神経が行ってしまいました(苦笑)。
ちなみに、書きながら、古語を探していたら、面白い翻訳サイトに出会い、試しに最初の方の文章をその翻訳サイトにかけてみたところ

 手を引かれて、縁側へと座る。
「もう泣き止みき?」
翔は俯く智を覗き込みならばが尋ねき。
「何故、此処に?」
翔の質問にはいらへず、未だ泣きながら尋ぬる智に翔は苦笑す。
「げに稚児みたいだなる、智は。智が呼びたると思ひしかばとみに来たんなりよ」
「何故、翔は我のことを何にてもわかりぬるぞ?」
「智と心が繋がりたりって証拠なりよ」
と翔は優しく笑ひき。
「智は、今にても櫻が大好きなりかし」
「翔が……我を救ひてくれしかたなれば」
「久しぶりに智の竜笛がゆかしな」

……あぁ、わからない(爆)
でも、ちょっと面白いから今度この翻訳サイトで丸々一本小説書いてみようかな(笑)。
今回はですね、音楽のセッションに託けまして、心のつながりをメインにお届けしようと思ったんですよ。智と翔の繋がり、そして、智を思う慎吾の心。慎吾を慕う康哲の想い、と。

もうすぐ、ニャンコ朝幸との出会いがあります。
出会い編として独立して書こうかとも思ったんですが、話の流れに沿って、このまま出会いのシーンを書いていきたいなぁと。






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