憂鬱な午後 −逃亡者番外編−
「また?」
うんざりした顔をしてしまう。
わかってる。
僕がこうする事で、彼がどれ程辛い気持ちになるのかを。
わかってはいるのだけれど…
「ごめんね?もうしばらくの辛抱だから」
「ずっと言われ続けてると信用できないよ」
今日はいつもより当ってしまう。
−…天気がよすぎるからだ−
窓から差し込む日差しが、僕の心をどんどん暗く重くしていく。
反比例もいいトコだ。
「…ごめんね」
また謝って項垂れてしまった。
あぁ…こんな顔させるつもりじゃないのに。
笑っていて欲しいのに。
自分の存在が、彼を毎日苦しめているのもわかっているのに。
−益々憂鬱だな−
自己嫌悪で吐きそうだ。
「別に謝られても」
あぁ…またやってしまった。
どうしていいかわからずに顔を背けた。
「大野…」
悲しそうな声。
ダメだよ。
悲しまないで。
でも
そうさせているのは
−僕だ−
「早く…早く射してよ」
顔を背けたまま、手を差し出した。
「うん。ごめんね」
…また謝る。
「謝らないでよ。慎吾は悪くないでしょ?なんで謝るの?」
思わず叫んでしまった。
「大野?」
驚愕で丸くなる眼。
「だってそうでしょ?悪いの僕でしょ?我侭言ってるのも僕でしょ?慎吾、何も悪くないでしょ?なんで謝るの!!」
「…ごめん」
「だから!!!謝らないで!!イライラする!!!」
「…」
しまった…。
完全な八つ当たり。
日差しがよすぎて。
外に出れない自分が嫌で。
どうしていいかわからずに当ってしまった。
謝られるたびに、責められている気がして。
−僕は…まだ暗い闇から抜け出せていないのかもしれない−
慎吾は何も言わずに俯いている。
「!!」
不図眼にしたのは、床へとゆっくりとポタポタ落ちていく水滴。
−泣いてる−
泣かせてしまった。
…一番泣かせたくない人を。
「…慎吾」
呟く。
それでも、慎吾はピクリとも動かず涙をこぼしている。
ドアが、開いた。
「何やってんだ?外まで聞こえる程喧嘩して」
ドアを開けて、寄りかかったまま腕を組んでこっちを見ている。
「…鈴木」
「大野。どうしたんだよ、一体」
言いながら近づいてくる。
「…」
「ホラ。泣くなよ、お前も」
慎吾の頭をクシャリと撫でてそのまま抱え込んだ。
「…ゴメン。僕が悪いんだ」
消えそうな声で呟いた。
素直にそう言えた。
「知ってる。大野が我侭言ったんだろ?でも、町田も悪い」
わかってんだろ?
抱きかかえてる慎吾の耳元に向って尋ねる鈴木。
頷く慎吾。
「何で?慎吾は悪くないじゃん!!」
叫んだ僕に
「さっきまで責めてたのに、今度はかばうのか?ホント、面白いなお前達は」
そう言って、鈴木は笑った。
「町田は、大野に引け目を感じたまま接してる。そろそろ、心をお互いに開放しなけりゃ過去は断ち切れない」
「でも…」
「大野は、前へ進むために戻ってきたんだ。お前が後ろ向きでどうする」
「…すずっくん」
「そうだろ?だから、謝られるのが辛いんだろ?」
尋ねられて、頷いた。
「慎吾のせいじゃないってわかって欲しいんだ。僕がこうなってしまった事も、何もかも。一つとして慎吾のせいじゃない」
だから
「謝らないで。慎吾には笑っていて欲しいんだ。…それに」
俯き、告げた。
「今日は、日差しが強いから…少しイライラしてて。憂鬱な気持ちで…だから、八つ当たりしちゃったんだ…慎吾にしか、甘えられないから」
本心だった。
慎吾にしか、甘えられない。
だからこそ、当ってしまったのだ。
本音を言い合える関係だとわかっているから。
「ごめんね、慎吾」
「大野…」
泣きはらした眼を此方に向ける慎吾。
「…やれやれ。痴話喧嘩に巻き込まれた感じだな」
肩をすくめてみせた鈴木は慎吾を離して僕へと近づいた。
「そんな大野のイライラを解消すべく、素敵なプレゼントを持ってきたよ」
そう言って、ポケットに手を突っ込んで、何かを取り出した。
「それ…」
目の前に差し出されたのはカプセル。
「点滴は卒業だ。俺の能力をなめるなよ?これ1錠で、4時間点滴を受けるのと同等の効果がある」
「ほんとに!?もう出来たの??鈴木!!ありがとう!!」
「なに。早く回復して俺の仕事を手伝ってもらわないといけないからな」
笑う鈴木は、僕の目の前に人差し指をチラチラとさせた。
「それから、もう一つ。いい子にしてる大野に朗報…だったんだけど、町田を泣かせたからなぁ」
どうしようかなぁ〜。
ニヤリと笑う鈴木に思わず縋りついた。
「何?何??もう泣かせないから!!」
「約束できる?」
「出来る!!」
「いい子にする?」
「…子供じゃないって」
「出来ない?」
「するする!!いい子にしますぅ!!」
「しょうがない。今回は大目にみよう」
そう言って、鈴木はベッドの縁に腰掛けた。
「先日の検査の結果から診て、免疫力も大分向上してる。この家の庭くらいなら、車椅子で出ても大丈夫だろう」
「ほんとに??」
僕より先に叫んだのは慎吾だった。
「すずっくん!!大野、ほんとに外に出ても大丈夫?」
「あぁ。その代わり、完全防備で出ろよ?マスク必須。帽子も必須。肌も出さないよう...っておい!!」
言い終わらないうちに、慎吾が鈴木に飛びついていた。
「ありがとう!!」
「俺は何もしてないよ。大野の回復力とお前の看病の賜物だ」
あとは、
「お互いの愛情って感じかな?」
笑いながら、鈴木は僕を見た。
「これで、もう喧嘩しないな?」
「うん!!ありがとう!鈴木!!」
「どういたしまして」
そう言って、鈴木はじゃあな、と出て行った。
「...大野、散歩に行こうか」
慎吾が僕を見る。
「...ごめんね、慎吾」
「大野。僕ももう謝らない。だから、大野も謝るの禁止」
「...慎吾」
「やっと、僕も本当に前へ進める気がする。ありがとね、大野」
そう言って、慎吾は笑った。
満面の笑み。
車椅子に乗って、庭へと出た。
お昼を過ぎた太陽は日差しを強くしたまま高い位置から僕らを見下ろしている。
あんなにも憂鬱だった日差しがとても力強く、そして安心感を感じる。
気持ちが...晴れていく。
でも、それは。
太陽のおかげじゃない。
僕の憂鬱な午後を吹き飛ばしてくれたのは...
太陽よりも眩しい、慎吾の笑顔だった。
post script
う〜ん。
喧嘩させちゃった(笑)。
でも、これってお互いがお互いを大事に思ってるからゆえの喧嘩なんですよ。
って事で、今回は逃亡者番外編でお送りいたしました。
書きたい事があまり書ききれていないので、私が憂鬱ですが(爆)。
ちなみにバックの写真は...二人の愛を表現してみました(爆)。
思った素材が探せなかったもので(苦笑)。
最近、町田さんがメイン多いな〜(苦笑)。
次回は屋良っちで書きたいと思っておりますvv
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