自分の欠片
ずっと、足りないと思ってた。
僕には、足りない。
それが、何なのかはわからなかった。

あの日
あの場所で
彼に逢うまでは。

櫻が妖しく美しく咲き誇る中、彼と出会った。
その瞬間、僕には全てがわかったんだ。

あぁ

足りなかったのは

コレだったんだ

って。

純粋で、それでいて世界と決別したような目で。
受け入れて欲しいのに、全てを拒絶しているような目で。
僕の、欠けている部分にピタリとはまる人だと、すぐにわかった。

だから、どうしても欲しかった。
なんとしても手に入れたかった。
家族のように大切な友達を傷つけてしまったとしても。
それでも
その罪悪感に苛まれる事を選んででも
彼が欲しかったのだ。

彼がいれば、僕は僕になれる。
彼がいると、僕は僕でいられる。

彼以外は
いらないように思えた。


そしてやっと手に入れた。

もう手放さない。

大切に大切に
僕の世界だけで生きていくように
僕の世界から飛び出してしまわぬように
甘やかして大事にして

時折

心が折れてしまうほど傷つけて


心の流した血が乾かぬうちに
僕のこの手で拭ってあげて
さらに傷を
深く
深く

そして、深く沈んだその場所で
溶けるように
甘く
甘く
溺れさせて


僕から離れる事の出来ない様に


僕には彼が必要だから
何故なら
彼は
生まれて初めて出会った


僕よりも弱く不幸な子供だったから



怖がらないで
ゆっくりと目を開けて
僕のところへ戻っておいで


僕の
大事な
欠片なんだから
post script
突発的にコインロッカーの屋良の独白を書きたくなってしまいました。
本当はこのタイトル、逃亡者の大野君と町田君を書こうと思ってたんですが。
最近、短編はほぼその組み合わせだなァと思いまして。
今回は、コインロッカーの屋良でいこうと。
人の愛し方を知らない子供が、自分が挫けない為に見つけた自分よりも弱い人間を、屈折した感情で思い続けている、という部分が本編ではなかなか伝える事が出来なかったので、短編で少しでも表現出来ればいいなァと。
屈折しているけれども、彼なりに本当に良知に深い愛情を持っているんだって所も伝わるといいなァと。
この連載は本当に好きな連載で。
機会があれば、もっともっと深く書き直してみたいな、とか。
続きも書いてみたいな、とか。
色々思ってしまいました。

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