将来について考えてみた 〜逃亡者 外伝〜
少しずつ、学校にも慣れて
少しずつ、勉強も分かってきて
少しずつ、余裕が出来てきたから

不図
将来について、考えてみた

僕は、この先
どうしたいのかな……?

慎吾の傍にいたい
それは、一番の願い
慎吾の役に立ちたい
それも、強く願う想い

でも
そうする為には、どうすればいいのか
具体的な事は、何一つ分からない。

前に、大野君や康哲にひっそりと尋ねてみても
『少しずつ、進めばいいんだよ』
って、僕を甘やかすから……
結局、具体的な事が分からない。

だから
僕は、今日

勇気を持って……
この、玄関の前に立っている。
小さなアパート
深呼吸して
チャイムを押した
「……はい、」
聞えた声に、思わずビクっとしてしまう。
「……あの、僕……」
「……屋良?」
訝しげな、声
けれど、声で僕と分かってくれたらしい
「……うん、あの」
まだ、途中の言葉。
けれど、最後まで聞く前に
ガチャリ、
ドアが、開いた。
「何、しにきたんだ?」
ぶっきらぼうな問い掛けに
思わず、俯いてしまう。
「……あの、僕」
「……さっきから、ソレしか聞いてないけど」
呆れたように溜息をついて
「……入れば?」
それでも、僕を中へと入れてくれた。
「……萩原、出かけてて……こんなもんしか出せないけど」
クイ、と目の前に差し出されたホットミルク。
「寒い中、歩いてきたんだろ?」
「……そうだけど、子供だと思ってんでしょ、島田も」
ホットミルクって……
「……悩んでる時は、甘いモンのがいいんだよ」
そっけなく返された答え
「え?」
それでも、それは……
島田が、僕に気を使ってくれたって事を伝えてた。
「……ありがと、」
素直に、両手でカップを持って
一口、飲んだ。
口の中で拡がる、ほんのりとした甘さ。
温かさも、身体に染み入る。
「美味しい」
ニッコリ笑うと
「……で?」
頬杖ついた島田が、僕を見る。
「……あ、」
「突然来たって事は……何か、話でもある?」
「……あの、さ……相談に、乗って欲しいんだ」
「相談……?俺に?」
良知君じゃ、なくて?
聞かれてブンブンと首を振る。
「島田が、いいんだ……」
だって、他の人じゃ、僕を甘やかしてしまうから。
「……何?」
静かに、促されて
ゆっくりと、口を開く。
「……慎吾の、役に立ちたいんだ。将来、手伝いが出来るように……ずっと傍にいられるように……でも、僕、やっと学校に慣れてきた頃で……具体的に、何をやればいいとか……どういう勉強をすればいいのか、とかが……全然わかんなくて……」
「……聞けばいいじゃん」
「……聞いたんだよ、康哲にも、大野君にも」
「で?」
「……焦らなくていい、って……」
その答えに、島田は大きく溜息をついた。
「箱入り……」
「……?どういう、事?」
言われた意味がわかんなくて、聞き返す。
「……別に、」
諦めたように告げてから
「医者の手伝いしたいなら、医学の勉強するしかないんじゃないの?ただ、医者になりたいのか、看護士になりたいのか、とかその辺の違いはあるんだろうけどさ。焦らなくてもいい、って言われてるかもしれないけど……そんな甘い道じゃないと思うけど?本気でやるつもりなら、今から始めなきゃ。大体、ただ傍にいたいとか手伝いたいとか、そんな甘い事……」
ソコまで言って、島田は言葉を切った。
「……別に、怒ってるわけじゃないから」
スっと手が伸びて
僕の頬を拭う。
「……あれ?」
「……こりゃ、箱入れる気持ちも分かるかもな」
「僕……?」
「泣くなよ、この程度で。俺、こういう時の対処……まだ、慣れてねェから」
ぶっきらぼうな言葉だけど
クシャリ、と僕の頭を撫でる手は、凄く優しい。
「……島田も、慣れてない事……まだ、あるの?」
聞いてみると、
「そりゃ、そうだろ?俺達は……普通じゃなかった。それは、消す事の出来ない事実だ。それに……俺は、一番この環境に打ち解けるまでに時間が掛かった。……だから、死に物狂いで、色んな経験をした。勉強もしたし、バイトもした。働く事も覚えた。でも……人と人との繋がり、とか……付き合いとか……その辺は、いくら勉強したってすぐに理解は出来ないから」
「……凄いね、島田」
自然と、洩れた言葉
「……何が?」
「僕は……やっぱり、甘いよね」
シュン、と項垂れた僕に
「……そんな事、ないと思う」
「……え?」
「自分で、何とかしたいって……思っただけでも、成長してるって証なんじゃないの?他の人じゃ、甘やかされると思ったから……俺のトコ来たんでしょ?それだけでも、十分なんじゃない?」
「そっかな……?」
「もし……勉強したいなら……色々、相談乗ってもいいけど……」
その言葉に、吃驚して身を乗り出した。
「えぇ!島田が!!」
「……失礼だな、その態度」
「や、ゴメンッ!だって……」
「……俺だって、歩み寄りたいとは……思ってんだよ」
プイ、っと
逸らされる顔
「嫌われてると、思ってた」
告げたら
「……嫌いなら、助けない」
そっぽを向いたまま、頬杖ついてる。
「……教えて、くれる?本屋とか……連れてってくれる?」
「……別に、いいけど」
「ありがと、島田」
微笑んで、少し温くなったホットミルクを一口飲んだ。
さっきよりも、美味しく感じた。

僕らは、人とは違う
島田は、ちゃんと
誰よりも、頑張ってた
きっと、ちゃんと将来を考えてるんだって伝わってきた。
僕は、慎吾に甘えて
あの家で生活をしてるけど
島田は、萩原と一緒に……二人で、こうして部屋を借りて自立してる。

……僕も、頑張ろう

少しでも、皆の力になれるように

逢いに来て、良かった
勇気を出して、島田に逢って
僕は、また
色んな事を教えてもらえる相手にめぐり合えた。

まだまだ、成長の足りない僕だけれど

将来について、考えてみた

それだけでも、十分な成長だから
そこから、また一歩進めばいい。


「バイトでも、してみようかな……?」
呟いた僕に向かって
島田は、しかめっ面で、珍しく慌てながら
「唆したって思われたら、俺……あの人たちに殺されそうだから、マジ勘弁して」
必死に、止めた。

post script
ちょっと大人になってきた朝幸君と
ちょっと人間くさくなってきた島田のお話を
この二人は、一度二人で話をさせてみたかったので。
絶対に、お互いにとって
色々な意味で、特別で
ライバルであろう二人だと思うので。
……よくよく考えたら、朝幸君より、島田のが年下だった(爆)。

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