++Happy Birthday++〜島田直樹の場合〜
舞台のリハーサルがつづく毎日。
ここ最近は、稽古と家の往復だけの生活で…。
でも、疲れていても充実した毎日だ。
今日の稽古も終わり。早く家に帰って風呂でも入って眠りたい…。
家に帰る途中で、携帯がなる。
ディスプレイには萩原幸人の文字。
「もしもし?」
「今日、これから…暇?」
妙に明るい声が聞えてくる。
「や、暇っていやぁ、暇だけど」
「じゃあさ、遊ぼ、」
…はぁ?
「やだよ、疲れてんだよ」
お前だって、疲れてんじゃないの?
「いいから、僕の家来て、」
「なんで、お前ん家いかなきゃならねぇんだよ…」
「いいから、いいから」
来るまでずっと待ってるからね。
全く、引く気配の感じられない萩原に…
「仕方ねぇな、わかったよ」
すっかり降参して、答える。
こういう状態の萩原には逆らっても無駄。
付き合い長いから、そのくらいの事はわかってる。
でも…
「相変わらず、つかめねぇヤツ…」
萩原に気付かれないように、苦笑して携帯を切った。
++ ++ ++
萩原の家につくと、萩原は俺の背中を押して、部屋へと向かわせる。
「押すなよ、」
「早く早くッ!!」
部屋の前につく。
「ドア、開けてv」
「…ったく、」
わけわかんねぇよ…
そう呟きながらドアを開ける。
そこには…
「何、あれ…」
テーブルの上に、大きな箱があった。
「やっぱり。忘れてるんでしょ、」
「…何を?」
「今日、誕生日じゃん」
あ…
「そっか、俺…誕生日だったんだ」
すっかり忘れていた。
「島田のことだから、忘れてるだろうと思って」
お祝いする、準備しておいたんだ。
嬉しそうに笑う萩原。
「さ、座って座って」
テーブルの前に座らされる。
「ほら、開けて開けて」
急かされて、箱を開ける。と、そこには…
「…すげ、でけぇ」
目の前に、大きなバースデイケーキ。
「スゴイでしょ〜、買ってきたんだよ」
そんな暇、どこにあったんだよ…。
「そういやぁ、お前…今日、帰るのめちゃめちゃ早かったよな…」
いつもなら、一緒に帰ろう…とか言ってくるのに。
「そうだよ、急いだんだから」
嬉しいでしょ?
勝ち誇ったように聞いてくる萩原に、思わず笑ってしまう。
「嬉しいよ…嬉しいけど、」
お前、甘いもの止めたんじゃなかったっけ?
尋ねると、少し固まってから、慌てて答える。
「だって、今日はさ、特別だから。誕生日でしょ?」
…俺のな。
お前がケーキを食べる理由にはならねぇと思うぞ…。
「ま、いいや」
気持ちが嬉しいから、よしとしよう。
「ね、食べよう!!」
と置いてあったフォークを手にとって嬉しそうな萩原に、
「皿は?」
と聞くと
「え?いらないでしょ、」
と返ってきた。
「…このまま食うのかよ、」
少し呆れて呟く。
「その方がおいしいよ、きっと」
ほら、食べよう。
…どこまでも、マイペースなヤツだな。
俺、一応客だぞ?
「ほら、食べないの?」
すでに、一口食べて幸せそうな萩原が尋ねてくる。
…ま、いいか。
「いただきます」
++ ++ ++
結局、3分の2を萩原が食べた感じで1ホール完食。
「おいしかった〜」
「ん、美味しかった」
サンキューな。
言うと、萩原が笑う。
「何言ってるの、僕と島田の仲でしょ、」
そして、欠伸を一つ。
「なんか、お腹いっぱいになったら眠くなってきた…」
はぁ??
「ちょっと、寝るね。島田、ゲームしててもいいよ…」
何??
「おいッ!!お前、自分から呼んどいて寝るのかよッ!!」
「だって、眠いんだもん…」
おやすみ…
そういって、萩原はベッドに倒れこんだ。
…何なんだよ、一体。
祝ってくれるんじゃなかったのか?
ケーキ食べたさに、呼ばれたとしか思えない…。
少し、呆れて溜息をついたとき、
「あ…そういえば、」
薄らと目を開けて萩原がベッドの下を指差す。
「ここに、プレゼント入ってる…から、」
誕生日、おめでとう…
そう言って、また眠りにつく。
ベッドの下を探ると、紙袋が出てきて…
俺の欲しがってたTシャツが入ってた。
「ったく、」
萩原の何気ない優しさに、思わず苦笑してしまった。
「ありがとな、」
眠っていて、聞えていないだろうけど。
大袈裟に祝われるより、付き合いが長い分さりげなく祝ってもらう方が、嬉しかったりする。
ちょっと感動してる俺に、眠ってると思ってた萩原から一言。
「…僕の時は、もうちょっと大きいケーキにしてね、」
…………
お前…やっぱ、つかめねぇよ…。
END
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