++Happy Birthday++〜島田直樹〜
非現実的な世界から離れて
現実の世界へと戻ってきてから、かなりの年月がたった。
あの頃は、忙しくて、辛くて、自分が自分ではない気がしていて。
もどかしさも伴って。

でも、今思えば、楽しい時間だったし、自分は幸せだったと思う。

現実の世界は、それはそれで忙しく。
バタバタと毎日を過ごすうちに、あの頃の事を思い出す事さえなく。
無意識的に漠然とした思い出として、記憶の奥底に忘れ去っていたようだ。

それでも、やはりそれは忘れる事の出来ない…
大切な記憶であり
大事な友であったと
結局のところ、認めざるをえなかった。

++ ++ ++
「疲れたな」
何かと忙しい日々を送っていて。
家に真っ直ぐ帰るのも、少し気が向かず。
俺はフラフラと何処へともなく歩いていた。

「…?」
耳に、聞こえた話し声。
その声は…
仕舞い込んでいた記憶を一気に呼び覚ます威力があった。
「萩原」
呟いていた。
ここしばらく、忙しくて思い出す事のなかった名前。
それでも、無意識に口をついて出たその呼びかけに。
離れていて、聞こえているはずはないのに、名前の主は、驚いた顔で俺を見て、
昔と変わらぬ笑顔で駆け寄ってきた。
「島田!久しぶりじゃん!!」
屈託ない笑顔。
笑窪も相変わらず健在だ。
「久しぶりだな」
答えると、相も変わらずマイペースに話を進める。
「観に来てよ」
「は?」
「いいでしょ?」
「…だから、何をだよ」
「ダンス」
…本当に相変わらず噛み合わねぇ。
それでも、何故かちゃんと会話が進んでいくのも相変わらずだった。
「今度、ステージ立つから」
「そうなの?」
「そうなの!だから、観に来てよね」
そんなに見開いたら、目玉落ちんぞ。
それにしても、睫の長さも変わらず、だ。
「島田〜!聞いてンの?」
覗き込み、俺の目の前で手をヒラヒラさせる萩原に、思わず苦笑する。
「あ、ゴメン。いや…お前、変わってねぇなと思って」
そう告げると
「島田だって、変わってないよ」
と萩原が笑う。
「そうかな、俺、変わってない?」
あの、非現実的な世界から抜け出した俺が
まだ、現実と非現実の間を行き来する萩原や良知君達と同じように、変わらないとは思えなかった。
「変わってないよ。だって、相変わらず僕の話をちゃんと聞いてくれるの島田だけだもの」
そう言って、萩原は笑った。
あぁ。
そうかもな。
変化の基準ってやつかな。
日常生活が変わったとしても。
たとえ、逢う頻度が少なくなったとしても。
分かり合えた友人との関係は
そんなに簡単に変わるわけがないよな。
「あ、そうだ!」
突然、萩原が叫ぶ。
「なんだ?」
「僕、すっごい事気が付いちゃった」
「何だよ」
尋ねると、ヘヘっと自慢げに笑う。
「今日ね、特別な日だよ」
「特別?」
「相変わらず忘れてんの?」
あ…
「そっか」
「そう!島田の誕生日じゃん!すごくない?そんな日に、偶然出会うなんて!」
運命感じちゃう〜vv
ふざけて笑う萩原の頭をコツっと小突いた。
「一生言ってろ」
笑ってやると、萩原が俺の目を見て柔らかく微笑んだ。
「おめでと、島田。今年も祝えてよかったよ」
「ありがとな、俺も…お前に祝ってもらえてよかったよ」
素直にそう言ってやると、萩原の目が丸くなり、今にも眼が落ちそうだ。
「どしたの!!島田!!素直になっちゃって!!」
大げさに驚く萩原をもう一度小突く。
「変わってないって言ったのお前だろ?」
俺は前から素直だよ。
「うわ〜ありえない〜素直な島田なんてありえない〜!!」
そう言って、走っていく、萩原。
「お前なぁ!!」
背中に苦情を投げかけようとすると、急に振り向いた。
「島田!絶対見に来てね!!」
「わかったよ」
「約束だからね!!」
念を押して、萩原はさっき話していた友人の所へもどっていった。

…アイツ、馬鹿か?
「何時やるんだよ」
教えてもらわなきゃ、行けねぇじゃん。
思わず苦笑した。

まぁ、いいか。
萩原のおかげで、嫌というほど思い知らされた。

あの、非現実と思っていた日々が。
俺にとって、一番の大切な時間だったという事に。

明日にでも、電話してみよう。
携帯のメモリーは現実として、ちゃんと残っているから。
「石田や、良知君も元気かな」
連絡、してみよう。

忙しい毎日で、少し疲れていたのかもしれない。
思い出すらも、消し去ろうとしていたなんて。

家に帰って、風呂に入り、部屋に戻って不図携帯を覗くと
そこには、メールが届いていて…

「ったく、変わんねぇな」

懐かしい名前が並ぶ受信ボックスに、思わず、苦笑してしまった。

「先、越されちゃったな」
電話、しようと思ってたのにな。

笑って、島田は携帯を閉じた。
メールは、まだ読んでいないけど。

今、読んでしまったら
不覚にも
泣いてしまいそうだったから




21:54 良知君
誕生日おめでとう。




23:20 石田
祝!21歳!!




23:59 萩原
間に合った!?&さっきはどーもv





                                                                 END
島田さん。21歳の誕生日ですね。
お祝い、といってはなんですが。
アンケにも、このシリーズを楽しみにしてくださってた方達がいっぱいいらっしゃったとの回答がありまして。今回、ちょっと書いてみました。
今までのとはちょっと違ってるかもしれないけど…
それでも、私としては、こんな感じであって欲しいなぁという希望的観測の基に書かせていただきました(苦笑)。

++NOVEL++