「お疲れ」
ミーティングも終わって、好き勝手に帰っていくやつらを見送る店長。
どんな時でも、爽やかで優しい笑顔だ。
「癒されるよなぁ」
テーブルに頬杖をついたまま呟く。
「何?何か言った?」
聞かれて、ブンブンと首を振る。
「なんでもな〜い」
「どうしたの?友一、おかしいよ?」
心配そうに覗き込む顔。
あらら。似合わないよ〜店長には。
「べっつに〜。ちょっとねぇ〜今日は失敗しちゃって凹んじゃってるだけです〜」
そう。
今日、俺はやってはいけない失敗をしてしまった。
ホストとして、それはダメだろ!!っていう事を。
何とか治樹や直樹がとりつくろってくれたおかげで、お客様の機嫌も損ねる事無く終わったけど…。
何となくストレスもたまってて、それがつい態度に出ちゃったって感じ。
わかってる。
イライラしてる自分がいるのが。
売り上げも思い通りに伸びないし。
新しいお客がなかなかつかないし。
NO.1争いにも少し遅れを取ってる。
今じゃ、新人の幸人のが飛びぬけてってる感じもある。
負けず嫌いってのもあるけど…
ダラダラとくだらない日々を送って、世の中に反発しまくって、荒れまくってた俺を、この世界に拾ってくれた良知君の為に。
役に立ちたいんだ。
売り上げを伸ばして、少しでも良知君の為になるように。
あの日、ボコボコにやられて、ゴミ捨て場にうずまっていた俺に
『大丈夫?おいでよ。手当てしてあげるから』
そういって、天使のような笑顔で微笑んでくれたんだ。
殴られてグラグラしてた俺の脳は「あ〜天使って本当にいるんだなぁ〜」なんて、バカみたいな事考えてたくらい。
「友一?」
覗き込まれて、思わずビクっとしてしまった。
そうだった。話してたんだった。
「店長〜」
「何?」
「俺、全然ダメじゃね?」
「何が」
「や、よくわかんないけど。ダメっぽい」
そう言って机にグターっと突っ伏した。
「なんだ、それ」
そう言って、笑いながら、店長は俺の頭をヨシヨシと撫でてくれた。
「ねぇ、友一」
「ん〜?」
気持ちよくて、そのまま撫でられるがままになりつつ、返事をする。
「あんまり、無理するんじゃないよ?」
「何が〜?」
気持ちいい。
「お前さ。無理してるでしょ」
「何を〜?」
あったかくて優しい手。
「一生懸命なのもいいけどさ、もっと自然でいいと思うよ?」
「…自然?」
眠くなりそうだ。
「もっと、自分の事を考えてあげなきゃ」
「自分の事?」
「周りの事とか、僕の事とか、ライバルの事とか、お客様の事とか。そりゃ考えなきゃいけない事もあるけどね。でも、まずは友一が楽しんでなきゃ何も上手くいかないからね」
「楽しむ…?」
「友一、最近楽しんでない気がする。もっと自由に楽しみなよ。友一は十分この店に貢献してくれてるんだもの」
「ほんとに!!」
思わずガバっと起き上がる。
「ちょっと、ビックリするだろ?何?」
「俺、貢献できてる?」
「もちろん。すごく助かってるよ?頼りにしてる」
そう言って、ニッコリと笑う。
「良知君〜ありがと!ちょい軽くなった!」
「どういたしまして。さて、呼び方に遠慮が消えたところでご飯でもどう?」
「あ…つい、」
「いいのいいの。普段は今までどおり呼んでくれた方がいいから。店長って実際、気恥ずかしかったりするからね」
で、ご飯は?
尋ねる良知君に
「食べる!良知君の家行こう〜!!」
そう答えて立ち上がった。
「誰も、家だとは一言も言ってないんだけど…まぁ、いいか」
そう言って笑った良知君の笑顔は
あの日と変わらず
とても温かくて、優しい
心のイライラを全て溶かしてくれる
天使のような笑顔で
また、俺を助けてくれたんだ。
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「ちょっと島田!」
「だから〜此処では直樹だって何回言ったらわかるんだ?お前は」
「そんな事は今、どうでもいいってば〜。ちょっと、友一君、おかしくない?」
「おかしいって、それこそ今始まった事じゃねぇじゃん」
「いや、なんかやたらとテンション高くて声も一段と大きいし…」
「直樹〜!アイツを何とかしろ〜!」
「なんだよ、治樹!」
「友一、何をあんなに浮かれてんねん!迷惑や!黙らせろ〜!」
「…友一君、すごく張り切ってて、隣の席にいると、全てが友一君の声にかき消されてもうて…」
「一哉まで…。確かに、そういわれれば意味不明に張り切り状態だよな、アイツ」
「ねぇ、何とかしてよ〜」
「…俺にどうしろと?」
思わず溜息をついて視線をめぐらせた島田の目に映る一人の人物。
「…アイツの事は、俺じゃ無理だろ〜。頼む相手はアッチにいるけど?」
指をさして、萩原を促してやる。
「そっか!店長がいたんだ!!店長〜!!」
走って近づいてくる萩原。
「ちょ、幸人君?何?友一の事なら、僕は何も知らないからね?関係ないからね?」
そう言って慌てて逃げる良知。
それでも負けずに追いかける萩原と、延々と追いかけっこが続いている。
「…やっぱり、原因は店長か」
「また、『頼りにしてる』とかそんな事言うたんやろなぁ」
「友一君、店長に褒められるの大好きやから…」
「店長も発言には責任持ってもらわねぇとな…」
「まったくや…」
「さて、仕事に戻るか」
「そうやな。ほら、一哉行くで」
「うん」
そそくさとテーブルに戻る3人。
そして…
「何やってんだよ、幸人〜店長と遊んでんじゃねぇよ〜俺も混ぜろよ〜」
何故か走っていく。
「来るな!お前のせいだろ!!大人しく仕事してろ〜!!」
良知の叫びも空しく、いつの間にか萩原もキャッキャとはしゃいで仲良く追いかけてくる。
「…二度と甘やかさない。絶対甘やかさない!!」
必死に二人から逃げならが、無理な誓いを立てる良知だった。
いつでも笑顔でいて欲しい。
君の笑顔を
必要としている人が
必ずいるから
□□□□□□□
今回は、「君の笑顔」という事で、良知君で書くことだけは決めていたのですが。
ちょっと別の話で書きはじめたらエラいこと切ないものになってしまって。
自分的にちょっとダメでしたので、一気に書き直しました。
…そしたら、こんなに意味のわからないものが出来上がってしまいまして(笑)。
明るいものにしようと思ったら「正しい〜」のキャラかなぁ〜と思って、番外編扱いで。
ホント、意味不明で申し訳ないですが(汗)。
久しぶりの「正しい〜」キャラだったので、まぁリハビリ代わりという事で(何)。
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