学校へ通う途中。
少し逸れたところに、一本の櫻の木がある。
昔から、ずっとそこに存在しているという、その櫻は
生き抜いてきた重みのある、見事な輝きを放っている。
でも
人通りの多い道から逸れている為に、この木を見に訪れる人はほとんどいない。
僕は…3日前、偶然に出会う事が出来た。
少しぼんやりと歩いていたら、偶然にたどり着いたのだ。
いや
必然…だったのだろうか。
出会った瞬間、昔から、この櫻を知っているような錯覚に陥ったのをはっきりと覚えている。
考えてみれば、引き寄せられるようにこの場にたどり着いたのだ。
…呼んでいたのかもしれない。
だから、学校の帰り道、毎日此処に寄る事にした。
木の下に座る。
ゆったりとした空気が流れ、忙しなく過ぎていく日常と、僕を隔ててくれているような温かさを感じる。
3日間。この木の下でゆったりとした時の流れを感じている間に、少しだけ思った事がある。
大切な何かを 忘れてしまっている気がする
忙しさに翻弄され、大切な事を忘れてしまっているような感覚に陥り、少し不安になる。
何か…とても長い年月を経て、この櫻が僕に教えてくれようとしている気がしてならない。
風が
柔らかな風が、櫻の周りを緩やかに流れていく。
ひらり・ひらり・ひらり
櫻の花弁が降り注いでくる。
瞬間、閃光が頭の奥を貫いた。
『忘れないで…僕は、君だよ。いつも君と一緒に…絶対に忘れないで…』
涙が溢れる
あぁ、この柔らかな風。
いつも、僕を包んでくれていたこの風。
温かな両腕。
あの時
口元を微かにあげて、僕に微笑んだのだ。
あの瞬間
僕の世界が変わったのだ。
僕の運命が動き出したのだ。
何故、忘れてしまっていたのか。
幾度となく生まれ変わり
逢える事無く転生し続けてきたのだ
長い年月を繰り返し
思いが風化してしまっていたというのだろうか
「ゴメンね。ずっと呼んでくれていたんだね」
櫻の幹にそっと触れる。
感情が流れ込んでくる。
こんなにも、この子は僕に話しかけてくれていたのだ。
だからこそ、僕は此処へとたどり着いたのだ。
「生きて、いたんだね」
この果てしなく長い年月を
気が触れてしまいそうな年月を
抱きしめると、櫻は答えるように花弁を降らせた。
そう
逢えなくて
気が触れてしまいそうで
僕は
記憶を
封印したのだ
忘れてしまえばいい
そう
強く願ってしまったのだ
『また逢える』
その言葉を
信じぬく事が出来なかった
それほどまでに長い年月を一人で生き続けてきたのだ
『忘れない』
そう誓ったというのに
不図思う。
何故、今思い出したのか。
櫻は
何故
今、僕を呼んだのか。
心の奥で、温かなモノが溢れていく。
あぁ、もうすぐ
逢えるのだ
確証はないけれど
心が
そう告げている。
『今度こそ…共に同じ時を生きる為の転生』
彼は、約束したのだ
『また逢える?』
『あぁ、逢えるさ』
その言葉を守るために、彼もまた長い年月を転生し続けていたのだ
トクトクと心音が早くなる。
空気が
変わっていく
もう少し
あと少し
僕は目を閉じる。
柔らかな風が僕を包む。
そして、もうすぐ足音が聞こえるんだ。
目を開けたら
あの時と変わらぬ笑顔で
彼は
あの時と同じように
優しく、こう言うんだ。
『すまない…大分待たせてしまったね』
僕の運命が
また
動き始める瞬間まで
あと 少し
そして
合図のように
櫻の花弁が
僕の
瞼に降り注いだ
目を 開けよう
聞こえる足音に
胸を弾ませながら
僕の運命を
再び動かすために
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お題。どのサイトでも「櫻舞う」は何かの番外編として書いているので、ここでもやはり番外編です。
本当は「学園〜」にしようかとも考えていたんですが…
やはり「櫻舞う」ですから「櫻」で(笑)。
LBでの外伝とは全く違う感じで。
これは本編のエピローグに繋がるものとして考えています。
私の考えているエピローグを少し巻き戻した感じ(笑)。
はっ!しまった!!これで結果がわかってしまうじゃないか(爆)。
で、でも!この通りになるわけではないかもしれないので、ちゃんと最後まで本編も読んでくださると嬉しいです(笑)。
ちなみに、『』内の台詞は、全部今までの連載の中から引っ張ってきております。
確かこんな台詞があったはず〜っと言いながら遡って探してみました(笑)。
個人的には結構気に入った短編になったのですが、いかがなものでしょうか?
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