赤ピーマン
「どや、太一」
後ろからリーダーの声がした。
「すっげー綺麗に出来てる〜!!」
振り返ってニカっと笑い、リーダーの目の前にグイっと近づける。
「おぉ〜ホンマや。綺麗に出来とるがな〜」
ニコニコと笑いながら、リーダーが手に取り、感触を確かめる。
「やっぱ、嬉しいね」
言うと、
「そやなぁ〜愛情いっぱいかけた分、喜びも大きくなるもんやな〜」
とシミジミ言う。
「リーダー…何か孫の成長を喜んでるおじいちゃんみたいだよ」
言ってやると
「太一は相変わらず酷いなぁ〜」
可愛い顔して。
と苦笑する。
「さすがに三十路過ぎた男の顔は可愛くないでしょ」
「いやいや、まだまだお子ちゃまやね、太一は」
「そりゃ〜おじいちゃんに比べれば〜?」
などと軽口を叩き合っていたら
「何してんすか〜!サボってないで仕事してくださいよ〜!!」
と、汗だくな長瀬が走ってきた。
「うわッ!!汗臭い!!」
「太一君、酷ッ!!!」
一生懸命働いてんのに〜。
ぼやく長瀬に
「だって、しょうがないじゃん。汗臭いんだもん、お前」
とトドメを刺す。
「…で、何話してたんですか?」
言い合いは勝てる気がしないらしく、早々に諦めた長瀬は話題を変えた。
「ん?リーダーがおじいちゃんだって話」
答えると
「違うやろ、太一。愛情をかけたモノが育つと、喜びも大きくなるなぁって、ええ話をしてたんやないか」
とリーダーが訂正してきた。
「あ、それわかる」
長瀬が言う。
「音楽も、作物も、人も皆そうっすよね」
思わず長瀬の顔を凝視した。
「何?太一君」
悔しい。
「リーダー、それ頂戴」
長瀬の顔を見たまま、リーダーに手を差し出し、さっき渡したものを返してもらう。
「太一君、何すか?」
「腹立つ!」
「何が!」
「お前が!」
「なんで!!」
「…教えない!!」
反論しようと大きくあいた長瀬の口に思いっきり詰め込んでやる。
「んッ??」
「それでも食べてろ!」
長瀬はそれを一口かじると、手で掴み…
「うめぇ〜!!この赤ピーマン!!」
とニカっと笑った。
「…やっぱり、腹立つ」
捨て台詞を残して、役場へと歩き出す。
「え、ちょっと!?太一君??」
後ろから聞こえる長瀬の声。
「どないしたん、太一?」
リーダーが追いかけてきて、優しく聞いてきた。
「だってさ、悔しいじゃん。いつまでもガキでお馬鹿な長瀬だと思ってたのに、なんかちょっと大人に見えたんだもん」
リーダーは黙って聞いてる。
「それにさ、ピーマンだって昔は苦くて食べれない〜とか言ってたのにさ〜。何だかドンドン大人になって、置いてかれてる気がしちゃったんだよ」
逆ギレだってわかってる。
長瀬は何も悪くない。
でも…
「俺も、よう思ったわ。太一がドンドン音楽の事詳しくなって、頑張ってる姿見て、「あぁ〜追い越されてしもうたなぁ」って」
へ?
「せやけどなぁ〜太一。さっきの話と同じや。愛情いっぱい持ってるとな、成長した姿を見るのが物凄い嬉しいんや」
「リーダー…」
「大丈夫。わかってるから。多分、長瀬もわかってる」
…やっぱり。
「勝てないな〜」
「何が?」
「俺、全然追い越してないよ。やっぱ、茂君には勝てないや」
ホント、完敗って感じ。
笑うと、リーダーがクシャリと頭を撫でてきた。
「太一は憎まれ口叩いてる方が、らしいで」
「酷いなぁ。いい事いってあげてんのに」
と、後ろから大きな声と大きな足音。
「太一く〜ん!!休憩時間!!サッカーやりましょうよ〜!!!」
振り向くと、大型犬のように走ってくる長瀬の姿。
…尻尾が見えるよ、お前。
そう思って、リーダーを見る。
リーダーも同じ事を思っていたのか…
少し目があって、二人で同時に噴出した。
「やっぱり、まだ子供だね」
言うと、
「せやな」
と笑う。
長瀬の手には、さっきの赤ピーマン。

そういえば、俺はいつから、食べれるようになったんだっけ。
気がつかないうちに、少しずつ大人になっていく。
それはいい事かもしれないけど…

やっぱり、ちょっと寂しくなった。


****************
はい!苦労した跡がよくわかるでしょ?(笑)。
久しぶりのお題更新。
赤ピーマン。
つーか、お題にそってる?ちゃんと。
無理やりじゃない?これ(苦笑)。

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