○●サイン帳●○ ここ最近、ずっと忙しかったので、ちょっとまとまったオフを貰った。 といっても3日だけど。 気分転換に部屋の模様替えでもしようと思い立って、気合を入れて、換気のために、窓を開けたのが2時間前。 で、今は太陽がすっかり頂点に上り詰めた感じの丁度お昼な時間。 果たして部屋の模様替えは、というと… 「全く進んでないんだな、これが」 独りごちながら辺りを見渡してみる。 とりあえず出すだけ出した仕舞い込んでいた物と、それを分別する為のダンボールやらビニール袋やら。 広げて散乱しているものの、全く分別された気配すらない。 「ついつい見ちゃうんだよな〜」 本が出てくれば読んでしまうし、写真が出てくればつい見てしまう。 そんな繰り返しで、彼是2時間も費やしたのだ。 「だいたい物が多すぎる!」 何がいけないって自分が悪いのだけど。 趣味のフィギアやらなにやら…玩具が所狭しと場所を占めている。 「けど、これは宝物だからなぁ」 捨てる気など毛頭ない。 「…さて、と」 気分を入れ替えて、再開しよう。 そう思って、クローゼットの奥へ手をやり、ガサゴソと荷物を漁る。 「…ん?」 記憶にない箱が一つ。 「なんだろ、これ」 全く覚えがない。 開けてみると、そこには古ぼけた… 「サイン帳だ」 中を見る。 最初の一枚が破かれた跡があり… 次の1枚だけに、言葉が書かれている。 あとは白紙。 「…あ、」 記憶が、よみがえる。 小学1年になったばかりの頃。 あの日、ある人と友達になった。 友達が出来るか、ちょっと不安で…少しだけ、気分が沈んで、悲しくなってたあの日。 「何、悩んでんの。君らしくないぞ!!!」 声がして、顔を上げると、目の前に見知らぬ大人の人がいた。 「おじさん、誰?」 「おじさんかぁ〜。ま、しょうがないけどね〜。君の遠い親戚みたいな感じかな?」 「何、それ」 顔を背けた僕に、その男の人は「なんだよ〜」と笑う。 「可愛くないな〜。ダメだぞ、そんなんじゃ!!元気出せ!!!元気出せば大丈夫!!友達いっぱい出来るから!!!」 僕の心を見透かしたかのような言葉に、また顔を上げた。 「ホントに?」 「うん。絶対出来る!!しかも、君は凄い人気者になれる!!!ずっとずっと人気者になれるよ!!」 元気出せ!!! 僕の頭をポンっと叩く。 「わかった!!!元気出す!!!」 何故だか、その人の言葉が胸にスーッと入ってきて、すんなりと納得できたのだ。 それから、少しその人と話をした。 両親を大事にしなきゃダメだって事。 もうちょっと経ったら、一生の仲間に出会うから大切にするんだって事。 そして、どんな事があっても、諦めずに頑張るんだって事。 しばらくしたら、男の人は立ち上がった。 「さて、じゃあ行くわ」 「まってよ!!」 何故だか、離れたくなくて。 「また、逢える?」 尋ねたら、彼は困った顔をした。 「う〜ん、逢えるっていうか…なんて言っていいかわかんないや」 そう笑った彼は、思い出したように、差し出した。 一冊の、サイン帳。 「コレ、お守りにしろよ。絶対諦めない男になるお守り」 そこには 「頑張れ!!!国分太一」 と書いてあった。 「じゃあな」 そう言って、彼は背中を向けた。 「ま、まって!!!」 僕は慌てて、そのページを破りとり、鉛筆を取り出した。 「これ…持っていって」 何故だかわからないけど、僕の事を覚えておいて欲しくて。 急いで書き込んで、サイン帳を渡した。 「ありがと」 その男の人は、ニッコリと笑って手を振って去っていった。 あの、どことなくお父さんに似た男の人は… 「俺、だったんだ…」 ここにあるサイン帳が何よりの証拠。 「俺、生意気だったな」 サイン帳を見て苦笑する。 そこには慌てた感じの汚い字でこう書かれていた。 「僕は、おじさんには負けない!!!」 何が負けないんだか。 それにしても… 「凄い人気者って…ちょっと大袈裟じゃね?俺ってば」 思わず笑ってしまった。 あの時、逢いに来てくれた俺に…今の俺は負けてないだろうか? 「宣言しちゃってるしな」 負けてたら困るよな。 笑ってサイン帳を閉じる。 今日あたり、逢いに行こう。思い出した事だしね。 「サイン帳、買ってこないとな」 行かなければ、運命は変わってしまう。 あの日、自分の励ましがあったからこそ、今の自分がいるのだ。 目を瞑れば、あの日へと行ける。 「そうと決れば、さっさと掃除済ませないとな〜」 箱をそっと机の上に置き、掃除を再開する。 サイン帳の下に、四つに折れた紙が一枚。 中学に上がるまで、実家の部屋の壁に張ってあった一枚の紙。 古くて、色は変わってしまったけど、効果は全く変わっていない。 今は、貼っていなくても、いつでも心にある言葉。 「頑張れ!!!国分太一」 Noveltopへ |
やっとサイン帳で書きました〜。 最初はちょっと違う設定だったんだけど…長瀬とか出てくる予定だったんだけど… なんとなく、太一を応援しておこうと思って(何)。 |