**壱** 手の先 足の先まで思い通り 私の大事な機械人形 そう その心音さえも 全ては私の手の内にある ++ ++ ++ 「おはよう」 言われてゆっくりと目を開けると、そこには智が居た。 「よく眠ってたみたい。もう昼になるよ」 あぁ、昨日は疲れて… 疲れて…? 違う。 僕は、昨日見てしまったのだ。 「…と、もゆき?」 覗き込む智の顔から、僕は少しでも距離を取る為、横を向いた。 「変な、朝幸」 クスリと笑った智は「ごはんだよ」と言い残し去っていった。 夢では、なかった。 あれは、夢なんかではなかった。 昨日、智の部屋で… 僕は、思い切り頭を振った。 思い出したくも、ない。 見なかった事にしよう。 あれは、夢だった。 そう、思えばいいんだ。 僕は、何も見ていない。 「降りよう」 そう、降りれば皆が居る。 きっと、皆の顔を見れば、こんな事はすぐ忘れられるだろう。 そう、だって… あれは、あまりにも… 信じられない光景だったから。 ++ ++ ++ 「おはよう、寝坊すけさん」 笑う慎吾の声。 少し、寒気がする。 あぁ、思い出したくないのに。 僕はもう一度首を振った。 「どうしたの?朝幸」 僕の袖を引っ張る幸人。 「何でも、ないよ」 僕は、幸人にニッコリと笑ってみせると、席に着いた。 「遅いよ、朝幸。俺、もう食べちゃった」 友一が少し怒って言う。 「ごめんね、ちょっと疲れてたみたい」 「そんな、怒る事ないだろ、友一。お前だっていつもは寝坊するんだから」 直樹が友一を一瞥し、「ねぇ真次」と視線を向ける。 「そうだね、友一は寝坊の常習犯だものね」 そう優しく笑う真次。 こうして見れば、何一つおかしくはないのに。 「朝幸?」 幸人が僕を心配そうに見ていた。 「ゴメン。なんでもないよ」 また、そう答えながら、僕は自分に言い聞かせた。 そう。 何でもないんだ。 あれは、夢だ。 だって、僕等は全員拾われて、智の屋敷へとやってきたのだ。 場所は別々でも、僕等は捨てられた孤児であった事には変わらない。 智のお父さんが、そう教えてくれた。 だから… あれは、夢じゃなきゃダメなんだ。 「ご飯、食べよ?」 真次の言葉に、僕は慌てて頷き、手を進めた。 そして、相変わらず慎吾は僕等と一緒に食事をしない。 昔からそうだ。 食事の時間になると、慎吾は僕等の前から姿を消す。 ドクンッ… 心臓が、強く波打った。 今まで、気にもしていなかったけど… 何故、慎吾は僕等と食事をしないのだろう。 ドクンッドクンッ やっぱり、あれは夢じゃないのか?? まさか…そんな事が… でも…確かに、慎吾だけ僕等と少し違う所がある。 何処となく、僕等と距離をとっている感じ。 そして、慎吾だけ、部屋が離れにある。 何故? やっぱり、昨日のは夢じゃなかったのかもしれない。 そんな…嫌だ。 僕は、慎吾が大好きなのに。 たとえ、慎吾が僕等に心を開いてくれなかったとしても。 僕は慎吾が大好きなのに。 なのに… どうして… ++ ++ ++ ドアの隙間から、僕は見てしまった。 椅子に座った少年の前に、智は跪いた。 「大丈夫。何も怖くなんかないよ」 そう言って、智は少年の手を取る。 「ホラ、僕と何も変わらないだろ?」 そして、少年の頬に手を添える。 「お父さんは、天才だから」 だから、大丈夫。 少年は何も答えない。 智はもう一度呟いた。 「大丈夫だよ」 そして、智は少年の額に口付けた。 開け放たれたドアから風が吹き込み、カーテンを揺らす。 隙間から差し込んだ月明かりに照らされたその少年は… 「何も、心配いらないから。ね、慎吾」 包帯の巻かれた慎吾の身体を、智はギュッと抱きしめていた。 そして、聞こえた、あの忌まわしい囁き。 夢で、あって欲しい。 僕は、慎吾が大好きなのに… 何故…なの? 慎吾が… 機械人形だなんて。 空ろに空を見つめる慎吾の目は… 硝子玉のようだった。 手の先 足の先まで思い通り 私の大事な機械人形 そう その心音さえも 全ては私の手の内にある ********** 新連載です。 馬鹿です。馬鹿なんです。なんで書いてるんでしょうね。 連載、持ちすぎだって言ってたばかりなのに(反省)。 でも、私の反省は反映されないんだって事がよくわかった(爆)。 えっと、今回は…ちとグロテスク系というか、残酷系でございます。 ホラーというわけではありません。えぇ、どちらかと言うと、昔の御伽噺のような残酷さ(何)。 一応簡単なプロットは珍しく決ってます。 続けられたら…いいな(ボソ)。 実は、これ。本当はV6かトキオサイトに使おうかとも思ったんですね。でも、イメージ的にどうしても町田さんが思い浮かんでしまって…(苦笑)。あぁ、こういう世界観はどちらかというとLBかSourireだな、と思って(苦笑)。 ちなみに、背景に使っているお人形。あれは、私の可愛い人形です(笑)。 こんなおどろおどろしい連載の背景に使ってしまいましたが、実際はとっても可愛い子なのです(笑)。 ≪≪TOP NEXT≫≫ |