**七**

「智が?」
庭のベンチで、直樹に昨日の出来事を話した。
「うん…だって、あっちには」
「友一の部屋だけだもんな…明らかにおかしいよな」
直樹は親指を下唇にあて、考え込んだ。
「友一…起きてきたかな?」
尋ねた僕に
「う〜ん、どうだろな。まだ起きてきてないようだったら、俺、ちょっと見てくるよ」
「…うん」
「友一、別に毎日寝坊しているわけではないよね…」
「そうなんだよ。で、真次曰く、智に飲み物を貰った時だけ、次の日起きてこないっていうんだよな」
「僕が…昨日寝坊したよね。昨日は…友一ちゃんと起きてた?」
「昨日…いや、ちょっと遅かったな。でも、いつもほど遅くなかったから気付かなかったけど」
そうだ。確かに遅かった。
「でも、僕が降りた時は、友一先にご飯食べちゃったって…」
その言葉に、直樹はハっとした表情で僕を見た。
「違う…違うよ、朝幸。友一は昨日…僕等の前で食事をしてないんだ」
「…どういう、事?」
「僕等より遅く降りてきた友一は、こう言ったんだ。『すごくお腹空いちゃって、智に先に食べさせてもらっちゃった』って」
「まってよ。だって、友一2階に居たんでしょ?何処で食べたの??」
「そうだよ。おかしいんだ。よくよく考えてみれば…昨日、食器を片付けたとき…確かに、俺達の分の食器しかなかったんだ」
今、思い出したよ。
直樹は確信に満ちた声で言う。
「友一の…分は?」
「ないって事だよ。昨日の当番は俺だ。俺が片付ける前に、智や友一が片付けたとは思えない。だったら…」
「食べてないって…事?」
「そういう事になる」
「でも、でも友一は…」
反論しようとする僕を制して、直樹が続ける。
「食べた気になっているだけかもしれない」
「どういう事?」
わかんないよ…
「そんな泣きそうな顔するなよ…俺だってわかんないんだ」
直樹は困ったように笑うと、僕の頭を撫ぜた。
「昨日は…気にもしてなかったけど、考えてみれば色々おかしい事があるな。今までのことも、こうして考えていけば何かわかるかもしれない」
そう呟いた直樹は僕を見た。
「今日も、いくんだろ?慎吾の所」
「うん…」
「だったら、もう行った方がいい。朝幸が戻ってきたら、また真次の部屋に集合しよう」
やっぱり…何かが起きてる
そう言って、直樹は立ち上がった。
「さて、幸人がそろそろ拗ねてる頃だ」
じゃあ、後で。
そう言って、直樹は屋敷へと戻っていく。
僕はそのまま、離れへと向かった。
++ ++ ++
「慎吾、居る?」
ノックをすると、少ししてから声が聞こえた。
「朝幸??」
少し、焦ったような慎吾の声。
「入っても、いい?」
尋ねて、ドアを開けようとすると…
「ダメ!!!入らないで!!!」
今まで、聞いたことのない、慎吾の怒声に、僕はビックリして止まってしまった。
「ご、ごめん…怒鳴ったりして…でも、ちょっと調子悪いんだ。一人になりたいんだ」
慌てて告げられた慎吾の言葉も、しっかりと耳に入ってこない。
「ゴメンね、朝幸。今日は…あとで…そっちにいくから…」
力なく続けられる慎吾の言葉。
「…うん、わかった。ごめんね?急に来ちゃって」
ドアから手を離し、僕は屋敷へと戻る。
後ろから…慎吾の声が聞こえた気がした。
++ ++ ++
「あれ?朝幸?」
リビングに行くと、真次が驚いた顔をした。
「早かったじゃない。慎吾のトコいったんじゃないの?」
「…行ったんだけど」
帰されちゃった。
苦笑して、答える。
そして、急いで真次に近づき、小声で尋ねた。
「友一…は?」
瞬時に真次の顔が曇る。
「…具合、悪いんだって」
「具合?」
「起きてこないから…直樹が様子を見に行ったんだけど」


「友一?」
「…あぁ、直樹?ゴメン、俺ちょっと調子悪いみたい」
「どうしたんだよ」
「わかんねぇけど、起き上がれないんだ」
「大丈夫か?」
「…多分ね。暫く寝てれば良くなるって。んな心配すんなよ」
力なく笑う。
「あれ、」
友一は、自分の手を見て止まった。
「どうした??」
「ん??いや、最近さ。よく怪我してんだよな、俺」
「怪我?」
「うん…知らない間に、どっかに引っ掛けてるのかさ、切り傷みたいなのが結構…」
寝ながら、暴れてんのかな、俺。
笑いながら、直樹を見て、友一は言った。
「とにかく、寝てれば大丈夫だから。ゴメンな、わざわざ。真次には、黙っといて?心配するから」


「…そうなんだ」
呟いたとき、台所から声がする。
「あれ?朝幸戻ってきたの?」
顔を覗かせる直樹。
「うん。ちょっと」
「そっか、じゃあ、真次の部屋で。俺も今行くから」
そう告げた直樹の横からヒョコっと顔を出す幸人。
「何??何の話?僕も入れて??」
「はいはい、わかったから早く皿洗っちゃえよ。遅いと、もう手伝ってやらないぞ?」
そう言って、直樹はやんわりと幸人を流しへと向かわせる。
「直樹の意地悪!!」
脹れる幸人。
そんな幸人を見て、苦笑しながら直樹は僕等に言った。
「ゴメン、もうちょっとかかりそうだわ。先行ってて」
「わかった」
そう答えて僕等は真次の部屋へと向かった。

慎吾の様子。
そして、友一の様子。
傷の事。
なんだろう。
何かが…引っかかる。

傷…

包帯にまかれた


慎吾の身体



言葉が フラッシュバックする





『見せたくないんだ  こんな姿』






確かに
慎吾はそう言っていたんだ




**********
7話です。
って事で、同時にUP。
これ、ホントに短い連載になりそうです。
あぁ、またこんな事言って…絶対長くなったりするんだよ、私(爆)。
せっかくなので、またまた背景変えてみました。
憂いな感じで。




≪≪TOP                                      NEXT≫≫