第1章 「ごめんなさいね…15歳の子には部屋は貸せないのよ。親の承諾がないと…」 「だから、両親は死んでるんです。どうすればいいんですか?」 「親代わりの人はいないの?親戚とか…」 訝しげに様子をうかがう。後ろでもヒソヒソと話し合っている。 「…もう、いいです。失礼します」 もう何軒目だったかもわからない不動産屋を後にして、溜息をつく。 辺りはすっかり暗くなっていた… 「俺、これからどうすりゃいいんだ?」 先日、両親が死んだ。事故だった。…といってもほぼ自殺に近い事故だったのだが。 自分が学校へ行っている間に、父親が家に火を放ったのだ。なぜそんな事をしたのか、今となってはわかりようがない。まぁ、わかりたいとも思わないが… だからといって別に悲しいとかそういうわけじゃない。 両親が死んだ。と聞かされた時も「どうやって生きていけばいいんだ?」という不安しか感じなかった。親戚が引き取ってくれるとも思えなかったからだ。 「…あの子。昔から気味が悪いじゃない」 「そうそう、3歳の時にお皿を浮かせて遊んでいるのを見たことがあるのよ…」 「だいたい、本当の子供じゃないんでしょ?」 「捨てられてたっていうじゃない。しかも駅のロッカーの中に」 親戚一同声をそろえて同じ事を言うだろう。 「ゴメンナサイね…うちも大変なのよ。可愛そうだけど…頑張ってね」 ++++++++++ 「今日も野宿か…」 郊外のある公園にたどりついた。もう真夜中。都内と違い、人もいない。 ふと、目をやると桜が満開だった。 「そっか、桜の時期か…」 前はよく部屋の窓から桜を眺めていた。見ているとなぜだか気分が落ちついた。 真夜中、満月に映し出される桜は怖いくらいに美しかった。 突然、風が吹きぬけ、花びらが舞う。 「…あれ?」 そこに、人がいた。確かにさっきまではいなかったのだ。 舞い散る花びらを手にとりながら、微笑んでいるように見えるその人影は、まるで現実ではないかのように儚げに見えた。 目が、離せない。なぜなら、その光景は満月に映し出された桜以上に恐ろしいほど美しかったのだ。 その人影が近づいて来る。 怖いけど、逃げれない。まるで、魔法にかかったように体が動かない。 「こんばんは」 先ほどまで、儚げだった人影は、今は実体として目の前にいる。 少女…いや、少年?どちらか、はっきりしないその容姿はより一層現実味を欠いていた。 透き通るような白い肌。 猫のような眼は月の光を帯びているせいか光を放っている。 声の出ない俺に向かって、その人物は更に話しかける。 「桜、好き?」 かろうじて、頷いた俺にその人は綺麗な微笑みを浮かべた。 「僕も好き」 男の…子 それも、自分と同じくらいか年下だろう。 純粋そうな笑顔を浮かべるその少年が、なぜだか恐ろしかった。 少年は花びらを1枚手のひらにのせる。 「だって、桜の木の下にはね、死体が埋まってるんだよ」 ほら、心臓の形をしてる… そうつぶやいた少年はこの世の者とは思えないほど恐ろしく綺麗だった。 「…この木、の下にも埋まってるの?」 やっと声をだした俺に 「そう…ココにはね、僕の友達が眠ってるんだ。だからこんなに綺麗なんだよ」 と屈託のない笑顔で告げた。 …これが、「屋良朝幸」との初めての出会いだった。 |