第2章 話をするうちに、だんだん恐ろしさは消えていった。というよりも自分がなぜ、こんなに小さな少年を怖がっていたのかが理解できなかった。 「どうして、こんなところにいたの?」 それは自分も聞きたい質問だったが、吸い込まれそうな瞳に見つめられると、答えなくてはいけない気持ちになる。 「家が、ないから」 「どうして?」 「両親が死んで、引き取ってくれる人もいない。部屋は借りれないし…」 「…両親って、本当の両親じゃないでしょ?」 「…どうしてわかるの?」 「悲しそうじゃないから」 核心を突かれ、ドキっとする。 「そ、そんな事は…」 「それにね、僕にはわかるんだよ」 フフ…と笑う屋良はどうみても少女のようだった。 「わかるって、なにが?」 「同じね、匂いがするの」 きっと一緒だったんだね… 嬉しそうに呟く屋良。何を言われているのか全くわからない俺は、話を変えるしかなかった。 「屋良くんはさぁ」 「…朝幸でいいよ」 「でも…」 「じゃあ、屋良」 「…屋良はさ、どうしてこんな時間にココにいたの?」 尋ねると、屋良の眼が少し揺れた気がした。 「お墓参り」 「え?」 「ここにはね、僕の友達が眠ってるっていったでしょ?」 「…ホント、なの?」 「そう、あの木の下に。大切な友達が眠ってるの…」 今にも泣きそうな屋良。 「と、友達って?」 「猫」 「猫…なんだ」 なぜだか安心して呟く。 「可愛そうな猫だったの…捨てられて、苛められて…僕と同じで…」 「や、ら…?」 「…君とも同じだね。ねぇ、名前。なんていうの?」 「あ、そうか…いってなかった。良知。良知真次」 「そっか…そこに眠ってる猫の名前、シンって言うんだ。偶然だね」 ふわっと笑う屋良の笑顔は氷のようで、背筋が凍る気がした。 「ねぇ、良知君。家、ないんでしょ?」 「う、うん…」 「良知君、家おいでよ。僕の友達を紹介するよ」 「友達…?」 「そう、皆同じなんだ。良知君もきっと一緒だね」 嬉しそうに微笑む屋良。 「…何が?」 「産まれた所」 「え??」 「僕らは皆、あの冷たい箱で産まれたんだ」 冷たい箱…俺は、屋良にロッカーに捨てられていた事を話したか?いや、していないはずだ… 「ど、うして…」 「いったでしょ?同じ匂いがするって」 「…そ、うなの?」 「それにね、力を持った人間はすぐにわかるんだ」 「力…?」 「そう、力。そのせいで、誰も引きとってくれないんでしょ?」 「なんで、わかるの?」 「…皆一緒だから」 「…一緒?」 「そう、あの猫も一緒だったの…」 「猫…」 「あの子もね、力があったの。そのせいで他の猫にいじめられて…」 泣きそうな顔。本当に友達だったんだ… 「それで、死んじゃったの?」 尋ねると、屋良は首を振る。 「じゃあ、交通事故とか…?」 また首を振る。 「じゃあ、どうして…?」 そう呟いた俺に、屋良は満面の笑みを浮かべて告げた。 「僕がね、殺してあげたの」 |