最終章

瞼の裏に優しく暖かい光を感じて眼を開ける。
その光は窓から差し込む朝日なんだ、とぼんやり考えながら、ゆっくりと辺りを見渡す。
ここは…僕の部屋だ。
頭がぼーっとする。何が…あったんだったっけ。

『コロシタクナイ…』

ふと、蘇る記憶。
そうだ、僕は屋良に殺されかけて…そして、最後に屋良の声を聞いたんだった。
『コロシタクナイ…』
確かに、屋良はそう言っていた。
…屋良は、どうなったんだろう。
そして、僕はどうやってこの部屋に戻ってきたのか…。
まだ働いていない頭で必死に考えを巡らせていたら、ドアが開いた。
「眼、醒めたんだな」
原君の声だ。
ゆっくりと声のする方を見ると、そこには皆がいた。
「み、んな…?」
「いや、誠一郎が「良知くんが目覚める」っていうから、皆で様子見にきたんだよ」
尾身君が言う。
「全然起きないんだもんな。心配したよ」
町田君が笑う。
「ホント、町田ならずっとウロウロして落ちつかないんだモンなぁ〜」
鈴木君が町田君をからかう声。
「でも、良かったよ。大丈夫そうで」
誠一郎がホッと息をついた。
「まだ、起きたばかりなんだから、もっと休ませてあげるのじゃ」
大野君が心配そうに言うと、原君が「すまない」と言って僕を見る。
「皆、心配してたから顔見せて安心させてやりたかったんだ。確かに、もう少し休んだ方がいいな。何かあったら呼べよ」
ほら、行くぞ。
そう言って、原君は皆を連れて部屋を出ていった。
…一人を残して。
皆が出ていった後、ベッドの傍らでずっと固まっている。
「…良侑」
呼びかけると、肩がピクっと揺れた。
「どうしたの?黙ってないでよ」
笑って話しかけると、良侑はゆっくりと顔を上げた。
「ご、めんね…」
目に浮かぶのは涙。
「何が?」
「僕…酷い事言ったから」

『身代わりになってよ…』

あの時、良侑が言った言葉が頭をよぎる。
でも…
「いいんだよ、良侑の気持ちわかるし」
「でも…実際、部屋で倒れている良知君を見たとき、心臓が止まりそうだった…。このまま目覚めなかったらどうしようって…凄く、心配で…」
「心配、してくれたの?」
思わず尋ねた僕に、良侑は泣きながら答えた。
「だって…友達だもの。その時、気付いたんだ。自分が言った言葉の意味を。なんて事言っちゃったんだろうって…後悔して…どうしてもあやまりたくて」
ゴメンナサイ…
そう言ってまた俯いた良侑。
その気持ちだけで充分だった。
「もう、謝らないでよ…友達、だろ?」
笑って言うと、良侑は少しホッとした顔を見せた。
こんなに、皆心配してくれたんだ。そして、僕を仲間だと…友達だと思ってくれたんだ。
…僕は、いらなくなんかないんだ。そして、孤独でもない。
そう思った時、どうしても聞かずにはいられない事があった事を思い出した。
「良侑…屋良は、」
「…良知くん」
「屋良は、どうなったの?」
少しの沈黙のあと、良侑が顔を上げる。
「居なかった」
「え?」
「僕らが行った時には、良知くんしか居なかったんだ」
あまりにも戻ってこない僕を心配して、皆で屋良の部屋へ駆けつけた時には屋良の姿はなく、気を失って倒れた僕だけが横たわっていたらしい。
「…ごめん、結局僕は屋良を救えなかった」
項垂れた僕に、良侑は「ううん」と首を左右に振る。
「そんな事、ないよ。屋良はきっと救われたと思う。今は消えてしまったけど…」
そのうち、会える気がするんだ。
ニッコリと笑う良侑。
「そうだね、きっと会えるね」
心からそう願った。
++++++++++
今でも、僕は皆と一緒に住んでいる。
僕の力は、あの時消えてしまったらしい。今では鉛筆1本さえ動かす事はできない。
そんな僕でも、皆は仲間として受け入れてくれている。
屋良が居なくなった今も、皆は寂しさを抱えながらも、一生懸命生きている。
結局、屋良がどうなってしまったのか、はっきりとはわからないままだけど…。
あの時、良侑が「会える気がする」と言った気持ちがとてもよくわかる。
予知能力、ってわけじゃないけど、予感がするんだ。
屋良が、この家のドアを開けて、変わらぬ笑顔で僕らの前に現れる予感。

きっと…もうすぐ、屋良に会える。

++++++++++
公園に、一人の少年が立っている。
少女とも見紛う容姿で、肌は透き通るように白い。
両の手で黒い猫を抱き、ふっと笑う口元に八重歯が光る。
その少年の眼は、遠くに見える「家」をじっと見つめていた。
「行こうか…」
黒猫に微笑みかけ、少年はその木を後にする。
ふと振り返って呟く。誰にともなく笑顔を向けて。


「桜の木の下にはね、死体が埋まっているんだよ」


                  
ほら…彼の心臓の形をしてる。



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終わりました〜(涙)。初めてコメント書かせていただきます。
このお話。実はサイトを立ち上げる前から書いていたものでした。2年は前だったと思います。なので、今の屋良のイメージとはかなりかけ離れているキャラですが(苦笑)昔の屋良を思い浮かべて読んで下さい(笑)。
結局、屋良はどうなったのか。最後の少年は屋良なのか。そして、屋良だとしたら、どちらの屋良なのか。あとは読み手の皆様のご想像にお任せいたします…私の中では決まっているのですけどね(笑)。良知の力が無くなったのも意味があるんですよ。…想像すると、結構楽しいでしょ?(笑)。私の中での解答は伏せておきますv
TOKYO浜松町をこよなく愛している私にとって、より思い入れのある作品になりましたv
内容的にも自分でも気に入ってます。…が、もっと表現力があればもっと違う書き方ができるのに…惜しいです(苦笑)。素晴らしい作品が書けるよう努力していきたいと思ってます。
敵対している相手も結局出てこないままでしたね〜(苦笑)。機会があればまたこの話も書きたいと思います(ぇ)。

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