第1話 世界は何色だと思う? そう聞かれたら、君はなんて答えるだろうか 答えた色によって、その人の全てがわかったりする事もある。 育った環境、人生観、性格。 大げさだと思うかもしれないけど、実際当るものだ。 僕の経験から弾き出された統計学上の数値からも、そう読み取る事が出来る。 …ってそんな計算した事ないけどね。 立場上、色々な人と出会う僕は、必ずこの質問をする事にしている。 もともとそうだったわけじゃない。 きっかけがあったんだ。そう、この質問を聞くきっかけになった出来事が。 あぁ、遅くなったケド、僕の事を何も話していなかったね。 僕は…もう人間じゃないんだ。 見た目はとっても人間そっくりだけど。人間からみたら、僕は天使となるのかな?悪魔となるのかな? まぁ、僕等としては、同じ事なんだけど。 天界に生きる僕等は、人間の寿命を操っている。命を助けてあげる事もある。それは、その人の寿命がまだ来ていないのに、手違いや、ちょっとしたイザコザで命が消えようとしている時なんかに。 そういったとき、人は僕等を天使と思うんだ。 逆に、僕等が寿命を全うしようとしている魂を持って行こうとするとき、人は僕等を悪魔と呼ぶ。 だから、結局同じなんだよ。 じゃあ、自己紹介ついでに、僕があの質問を欠かさずするようになった出来事について話しておこうか。 …あ、そんなことより、名前を言うのを忘れてた。 僕の名前は…「国分太一」だ。 さて、何の話だったっけ? あ、そう。きっかけの話ね。 あれは、僕がテイカーとして…テイカーって何?って? 聞いたことない?そっか。君はまだ、あった事はないんだね。 テイカーっていうのは、僕等の職業の名称だよ。 助ける為に、もしくは寿命を迎えた魂を引き取りに。 どちらかの使命を受けて僕等は地球へ飛ぶんだ。 命を運ぶ仕事だからね、テイカーって言うの。…え?何?安直な名前だって?? ほっといてよ、そんな事。今後、君もなるかもしれないんだからね。 どういう意味か?って?? まぁ、それはまた今度ゆっくり… で、なんだったっけ? あぁ、そうそう。 もう、途中で変な事聞くからわかんなくなるんだよ。 えっと、僕がテイカーとして、2回目の仕事についた時。 僕が担当したのは、眼の見えない男の子だった。 彼はね、とても微妙な期限を抱えていたんだ。 はっきりしていない…そう、まさに「生と死」を彷徨っている状態だったんだ。 ++ ++ ++ 「は?僕が??」 「そ、お前が」 「なんで?」 センターの休憩所で、ボーっとしていた僕は、突然松岡から言われた言葉に驚いてしまった。 「なんでって…太一が適任だと思ったんじゃないの?あの人が」 まぁ、頑張りなさい。 僕の肩をポンっと叩くと松岡はニヤっと笑っていってしまった。 「…なんだよ」 松岡は、僕より先にテイカーになったヤツだ。 もともと、僕等は人間として生を全うするために生活していた。 人間としての寿命を迎える前に、何らかの方法で命を落としたり…ようは、予期せぬ事故や自殺…によって、寿命を残した時、その時にテイカーがついていた場合は時としてセンターへ呼ばれる。まぁ、第二の人生での就職ってヤツだ。 僕は…事故だった。目の前の子供が、車にひかれそうになっているとする。 君は、目の前の光景を見て、見知らぬ子供だからといって放っておけるだろうか? 僕は、出来なかった。 子供をとにかく助けなきゃ。 そう思って車に向かって勢いよく飛び出した僕は、子供を助けた代わりに、命を失った。 あとから聞いたけど…僕のテイカーは僕の行動にとっさについていけずに、助ける事が出来なかったらしい。 …本来なら、僕のテイカーは、僕が寿命をまっとうするように手助けする為に僕についていたらしいのだから、はっきり言ってこの仕事は失敗だったというわけだ。 それで、まだまだ寿命を残していたであろう僕は、僕のテイカーに、「一緒に働きませんか?」と勧誘されたというわけだ。 そんなわけで、僕は1ヶ月の研修期間を経て、初めて与えられた仕事を昨日終えたばかりだった。 しかも、もともと僕のテイカーだったヤツに一緒についてもらってだ。 まだ、何もわかってない状態なのに… 「よく、わかんないよ…」 ガクっと項垂れ、僕はセンター長の元へと向かった。 「失礼しま〜す」 自動ドアが開き、目の前に広い空間が広がる。 その中央に長は座っていた。 「よう来たな、今呼びに行こう思うてた処や。松岡あたりが先走ったんか?」 そう言ってフワリと笑う。 「…ねぇ、リーダー」 長の事は、何故か皆リーダーと呼んでいる。 まぁ、センターをまとめるリーダーなのだから間違いはないんだけど。 「なんや、太一」 「なんだか、難しいんでしょ?今回の子。どっちの仕事かまだ決ってないって聞いたけど…」 聞くと、リーダーはふっと目を細める。 「まぁ、難しい言うたら難しいんやけど…太一にぴったりやと思うんよ」 せやから頑張り。 リーダーの言葉は、全然僕には理解出来ない。 というか、リーダーは深く細かく説明する事はない。 それでも、逆らえない決定力を持った、それでいて柔らかい言葉を投げてくる。 「また、一緒でいいんだよね?」 僕のテイカーについてきてもらえるものだと思っていた。 「いや、今回は太一一人で」 よろしくなぁ。 「えぇ!!一人なの??」 叫ぶと、 「いつまでも甘えとったらあかんよ、太一。大人やろ?」 と笑われて、「もう行きなさい」と今回の仕事のデータを渡され追い出されてしまった。 「マジかよ…」 ドアの前で思わず呆然と立ち尽くす。 「太一く〜ん!!!」 僕のテイカー…いや、元テイカーの長瀬だ。 大型犬のように、駆け寄ってくる。 「仕事なの??仕事なの??」 「うん。そうなんだけど…」 「今、ちょっとだけ聞いたよ、松岡君に。俺、一緒に行けないんですね〜残念〜!!!また、太一君と一緒にお仕事できると思ってたのに〜」 一緒に仕事したいです〜!! そういって抱きついてこようとする長瀬を無理やり引き剥がす。 「ウザイ!!」 「そりゃないっすよ!!」 ガクっと大げさに項垂れる長瀬を見て、思わず笑ってしまう。 「ま、戻ってきたらまたゲームしような」 言うと、パっと顔を明るくする。 「約束っすよ?待ってますから!!絶対ゲームしましょうね?」 破ったらハリ百本っすよ!!! と叫びながら遠ざかっていく長瀬。 「千本だよ、馬鹿」 つーか、お前も仕事しろ。 そうツッコミを入れてから、僕はシューターへと向かう。 シューターとは、僕等が地球へ向かうための転送装置みたいなものだ。 別に自力で飛んでいってもいいんだけど、ちょっと時間がかかるし、疲れるし。 だから、大抵はシューターに飛ばしてもらう事にしている。 「お?、一人立ちか?」 シューター部門のチーフ、山口君が笑いかけてきた。 「うん、自信ないけどね」 思わず弱音を吐く。山口君は、お兄ちゃんみたいな存在だ。とっても頼りになる。 「まぁ、別に長瀬一緒でも頼りねぇからいてもいなくてもいいだろ?」 そういってカラカラと笑う。 「長瀬もね、ああ見えて結構いると役に立つんだよ」 僕が言うと、山口君は意外そうな顔をした。 「へぇ〜太一が素直にそんな事言うなんてね〜」 長瀬が聞いたらビックリだな。 からかっているのか、眼が笑っている。 「だってさ。疲れたときとか、あいつに引っ張って飛んでもらえばいいし。荷物は持たせればいいし。何より、馬鹿だから話てても飽きないんだよ」 僕の言葉に、山口君は一瞬眼を丸くして、笑った。 「相変わらず照れ屋だね〜。まぁ、いいか。寂しくなったらいつでもコンタクトしてこいや、甘えん坊な太一君」 待ってるわ〜。 なんて、ふざけておどけた山口君が、コンタクト用のPCをなげてよこす。 「ありがと。毎日連絡するわ、ダーリン♪」 思いっきり笑顔でいってやった。 うわ〜寒い〜気色い〜、という声を後ろに聞きながら見えないように舌をだし、PCを手首にセットし、シューターへと入った。 シューター内部のコンピューターにリーダーから貰ったデータのNOを入力する。 こうすることで、ちゃんと正確な位置に僕を飛ばしてくれるのだ。 時代は進化している。それは、人間界も天界も一緒だ。 「気をつけて」 山口君の声に送られて、僕は初めて一人で地球へと旅立った。 ++ ++ ++ 「ここかぁ…」 一戸建てで、結構お金もちな感じ。 「おじゃましま〜す」 僕等は普段、人から見える事はない。 壁をすり抜け、僕が担当する子を探す。 「あ、いた」 子供部屋だろうか。 広い部屋に、机とベッドが置かれている。 その机に向かい、本を広げている少年。 でも…その少年は、本を目で読んでいるわけではなかった。 彼は、「手」で本を読んでいた。 「誰?」 ビクっとした。 近づきすぎて、気配を出してしまっただろうか? 「誰か、いるんでしょ?」 少年は、振り返る。 「誰…ですか?」 …しょうがない。 「あの…僕の事、わかっちゃった?」 尋ねると、少年は緊張しているせいか、身体を硬くした。 「なんですか、なんで、此処にいるんですか?」 それでも、勇気を振り絞って尋ねてくる。 少年の手は、強く握り締められている。 「大丈夫、別にあやしいモノじゃ…って、十分あやしいか」 なんていえばいいかな… 悩んでいたら 「…死神?」 ポツリとつぶやかれた言葉。 「へ?」 「僕…死んじゃうの?」 聞かれて、絶句してしまった。 「死神、さん?」 ハっと気付き、慌てて訂正する。 「や、僕死神じゃないです」 「え?」 今度は、彼が絶句してしまった。 「あの…まぁ、見守る人っていうか、なんていうか…」 しどろもどろになって困ってしまっていた僕に 「…まぁ、どっちでもいいです」 と少年が笑った。 「僕、別にどっちでもいいです。だから…仲良くしてください」 少年はニッコリと笑って手を差し伸べた。 「うん、よろしく」 僕は気を集中して、肉体化をはかり、手を握った。 「触れるんですね?」 ワクワクした顔の彼に 「う〜ん、今は触れるようにしてるってだけなんだ。普段は触れないし見えないんだ」 そう答えると 「僕は、常に見えないから問題ないです」 と、答えて彼は笑った。 「あの…眼が、見えないの?」 尋ねると 「そういうの、調べてたりとかしないの?死神なのに?」 「いや、だから…死神じゃないんだってば」 「そっか。僕は、眼が見えない。生まれたときからずっと。両親の顔も見たことがない。でもね…」 そう言って、少年は遠くを見つめるように視線を泳がせた。 「見えないからこそ、見えるものもある。まさに、あなたの事もそうでしょ?」 僕は頷いた。 「だから、全然平気。他の人が見えているものが見えない代わりに…他の人には見えないものが見える。お相子でしょ?」 彼の笑顔は、とても素敵だった。 「僕、国分太一っていいます。よろしく」 改めて、手を差し伸べた。 「よろしくお願いします。僕の名前は、良知真次です」 ********** 新連載開始してしまいました。 当初、太一はA.Iの設定だったんですけど…最近書いてる話がやたらと機械だったり人形だったりA.Iだったりしてるんで、途中まで書いてたものを全て書き直しました(汗)。 そして、ちなみに、この回の結末だけはすでに書いてあるんですが、当初の予定は「良知真次」ではなく「屋良朝幸」だったのです(笑)。 なんですけど、ちょっと書き始めたらイメージ的に「良知」クンかなぁと。 これからも、色々な人たちを交えて書いていけたらいいなぁと思っております。 とりあえず、頑張ります。 ≪≪TOP NEXT≫≫ |