COLORS 〜第七話〜 | back | next | index |
「よぉ、島田じゃねェか」 その声に、繋いでいた直樹の手から、緊張が伝わる。 「んぁ?誰だったっけな」 ゆっくりと振り向いて、視線を投げる直樹。 「忘れたとは言わせねェぜ?あんだけボコボコにしてくれといてよォ」 「……あぁ、あの時のサンドバックどもか」 フンっと鼻で笑って馬鹿にした直樹の態度に、彼らは怒りをあらわにする。 「てめぇ、調子にのりやがって……」 奴等が、ポケットから何かを取り出した。 それは、銀色に光っていて 「ナイフ!」 思わず叫んでしまった。 「誰だ?ソイツ」 ジワジワと近づいてくる相手が直樹に笑いかけながら聞く。 「関係ねェだろ」 「手なんて繋いじゃってよォ。関係ない事ねェだろ?」 「うるせぇな。お前は俺と喋りにきたのか?だったら付き合ってる暇ねェけど」 さっさと、やろうぜ? ニヤっと笑って手招きする直樹に…… 僕は、鳥肌が立った。 さっき、やっと心を開いてくれた直樹とは全くの別人で。 「ちょっと、離れてて」 耳元で囁かれて、直樹の手が離れる。 「あッ……」 その手を 離しちゃいけない気がした 掴みなおそうとした手は、指の隙間をすり抜けていって。 直樹は 彼らの中に駆け込んでいっていた。 「直樹!」 助けようと走ろうとした僕は…… 「ッ!」 後ろから、羽交い絞めにされていた。 「ちょッ!何すんだよ!!離せよ!!」 「可愛い顔してんね、お兄さん。喧嘩似合わなそうだから、辞めときなよ」 ニヤリ、と笑うソイツの手にはナイフが握られていて。 「傷ついちゃったら、大変でしょ?」 頬に、ゆっくりと近づくナイフ。 「……ッ!」 ビクっと怯えてしまった僕に、ソイツは笑い、直樹に向って叫んだ。 「コイツ、傷つけちゃってもいい?」 その言葉に 「てめぇ!太一は関係ねェって言ってんだろうが!」 「関係ねェなら、かまってんじゃねぇよ。傷つけたっていいんだろ?」 「……ッ!」 「それが嫌なら大人しく殴られろっての」 「……きたねェ奴らだな」 「テメぇに勝てればいいんだよ」 「気が済むまで、やればいいだろ?俺は抵抗しねェよ」 肩をすくめてみせる直樹。 「何、言ってんの!僕なら、別に大丈夫だから!平気だから!」 慌てて叫ぶと 「巻き込んで、悪かったな」 苦笑しならが、僕を見て告げた。 とても、寂しげに 「俺なら、別にいいんだ。今のうちに、行けよ」 「直樹……」 「ほら、さっさとやれよ。そんなに暇でもねェんだよ、俺」 周りを馬鹿にしたように挑発して 「ムカつくんだよ、お前ぇは!」 飛び掛られて、殴られて、蹴られても。 抵抗する事無く、やられるままで。 それは 僕を助けようとしてくれている証拠で。 奴らの持っているナイフが、直樹に襲い掛かろうとしているのが眼に入ったとき…… 僕は 思い切り叫んでいた 「やめろ〜!!」 その時、 奴らの体が、風に吹き飛ばされたように直樹の傍から弾き飛ばされる。 あれ……?もしかして……? 「な、なんだよ!今の!!」 不良どもが慌てている。 今がチャンス!! 「今、警察呼んだからな!!すぐに来るからな!!お前等皆捕まっちゃうんだからな!」 聞こえるように大きく叫ぶと 「やべぇ!逃げんぞ!!」 バタバタと走り去っていくソイツら。 「はぁ、馬鹿な奴らでよかったぁ〜」 呟いて、直樹の所へ走り寄る。 「大丈夫!?」 グッタリしている直樹を抱え起こす。 「……なんで、逃げなかった?」 聞かれて……段々腹が立ってきた。 「逃げるわけないだろ!!」 叫んだ僕に、直樹はビクっと驚く。 「直樹が、僕の事助けようとしてくれてんのに、僕が直樹を見捨てて逃げれるわけないだろ!」 「……どうして?」 「へ?」 「どうして、俺を見捨てる事が出来ない?」 「何言ってんの?」 「今までのヤツは……当たり前に逃げた」 「……直樹」 「それに……俺は、平気なんだ」 「何が?」 「死んでしまっても」 言葉が……出なかった。 直樹は…… 死にたいと思ってるわけじゃない。 でも 死ぬ事を恐れていない。 それは、勇気とかそういう事ではなくて。 ただ、 自分の命に 価値を見出していないのだ そういう事だったのか…… 僕の使命は…… いつでも命を投げ出してしまう事が出来てしまう直樹に 命の価値を教えてあげることなのだ。 どちらか、わからない 太一が決めるんだ リーダーが言ってたのは、そういう事か。 いつ死んでもおかしくない生き方をしている直樹 その直樹を見届けて魂を運ぶのか それとも 命を絶つ事を止めて、命の価値を教えてあげるのか それを、僕が決めろという事だったのか。 だったら…… 難しい事は何もない 僕は…… 直樹を助けたい 「太一……さっきの、何?」 「へ?」 突然聞かれて、慌てた僕に 「さっきの、風……太一がやったのか?」 「な、なんでそう思うの?」 アタフタしてしまいながらも、何とか誤魔化そうとする僕。 だって、自分でもあんな力が出るなんて知らなかったから…… 「……太一って、普通じゃない気がするから」 ……ばれてる? 「普通じゃないって……」 「あ、別に変な意味じゃなくて……俺の周りにはいないタイプだったから」 「そ、それと風は関係ないと思うけどなぁ!」 「……そうだよな。ごめん、変な事言った」 「それより……大丈夫?怪我、痛くない?」 「このくらいヘーキ。それよか……行くだろ?海」 そう言って、立ち上がろうとする。 「何言ってんの!帰って手当てしないと!」 「……平気だって」 「平気じゃない!コレだけ殴られたら熱だって出るよ?」 「……慣れてるから」 「慣れればいいって問題じゃない!」 しかも慣れるな、こんな事!! 怒鳴りつけた僕に直樹は眼を丸くした。 それは、本当に始めてみるほどの驚きっぷりで。 数秒、固まっていけど、やっと小さく声を絞り出した。 「俺が……行きたいんだ、海」 「直樹?」 「誰かと、一緒に行った事ないから……」 行ってみたいんだ。 胸が、締め付けられるような思いだった。 切なくて 悲しくて 直樹の孤独が 流れ込んでくる 「今日は、帰ろう」 敢えて、告げた。 「……太一」 「怪我が治ったら、行けばいいじゃん」 「んな事言って、いかねェだろ」 「絶対行く!」 「……わかったよ」 「じゃあ、帰って手当て!」 「……家、帰りたくねェ」 「なんで!」 「怪我して帰ると、うるせぇんだよ、あの女」 「……あの女?」 最初にあったときも、そういえば言ってた。 『あの女に頼まれたのか』 「……母親」 「ちょっと!自分のお母さん、あの女なんて言い方!!」 「再婚だよ、再婚。俺の母親は、俺が4歳の時に病気で死んだ。あの女は、俺の母親が病気で苦しんでいる時に、俺の親父と……」 直樹の手がギュっと握り締められた。 「……とにかく、怪我した時は家に帰らないようにしてるから」 ちょっと、ブラブラするから 「じゃな、太一。またな」 ヒラヒラと手を振ってふらつきながらも歩いて行こうとする直樹に…… 「あ〜!なんで?もうッ!!勝手にいなくなるなぁ!」 叫んだ僕は慌てて追いかける。 「なんだよ?」 「えっと……あの……あ!僕……僕が、手当てするから!」 だから 「一緒に、行こ」 グイっと手を引っ張って歩き出す。 「ちょ、待てよ!」 「待たない!」 「一人で歩ける!」 「逃げるからダメ!」 「逃げねぇよ!」 「……ホント?」 「本当」 「……タクシー拾う?」 「太一の家って、何処?」 聞かれて、血の気がサーっと引く音がした。 ヤバイ…… ついつい、実体でいたものだから…… 死んでる事、忘れてた。 家、ないじゃん……もう。 「えっとォ……あの……」 言ってから、不図思う。 あ、頼っちゃおうかな。 「ちょっと、遠いんだけど……」 「……だったら、タクで。金ならあるから」 通りに出て、タクシーを拾う。 乗り込んだとたん、体をシートに預けて、グッタリする直樹。 「大丈夫?」 「何度も言わせんなよ」 「……ごめん」 「謝るな」 「……ごめ、」 「聞いてる?人の話」 あ…… 「えっと……」 「まぁ、いいけど。ついたら起こして?ちょっと寝る」 強がりは言ってるものの、相当辛かったのか、苦しそうな顔をしながら、直樹は眼を閉じた。 「おやすみ」 呟いて、僕はPCを接続した。 「どうした?」 「山口君〜どうしよ〜」 ヒソヒソと事の経緯を説明すると 「お前ってホント考えなしに動くよなぁ」 苦笑する山口君。 「……どうせ考えなしですよォだ」 「拗ねるなよ。そこも太一のいい所だ」 「で、どうすればいい?」 「実体化したテイカーが使う為の家を用意してるから。そこ向って」 「すごーい。そんなものまであるんだぁ」 「色々準備しとかないと。……こういう事態に備えてな」 「ごめんなさい」 「嘘嘘。色んな仕事の方法があるからさ、実体化の時には、家に住んでないと不自由だったりするだろ?」 「住所、教えて?」 「今、メールにして送ってやる」 じゃあな、 そう言って、山口君はメールを送る為に通信を切った。 届いたメールを見て、運転手さんに行き先の変更を告げて…… 僕はチラリと直樹を見た。 眠っている直樹はどう見てもまだ子供で。 良知君と……同じ位の歳だろうか。 彼とは真逆なイメージで。 それでも…… 根底にあるものは、さして変わらないはずだ。 純粋だからこそ 傷つきやすくて 脆くて 危ういのだ。 「助けてあげなきゃ」 そっと頭を撫でた。 僕が、助けてあげよう。 彼には生きていて欲しいから。 家庭の中でも外でも 彼には何処にも居場所がない。 彼の周りの環境は、決していいものではないけれど。 何とかして、助けてあげよう。 僕は、 そう思っていた。 僕が思っている以上に 彼を取り巻く人間関係の糸は 複雑に絡み合っているのだと まだまだ気がついていなかったのだ……。 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ 続きもベタ(爆) 初めて心を通わせた人を守ろうとする直樹君。かっこいいよ、君は! それにしても……太一、たよりねェぞ〜!(爆) ま、そこが太一のいいところですけども(笑) 直樹は相当暗い闇を抱えている背景を考えています。 なので、太一とのやり取りぐらいは、楽しく、ふざけさせてあげたいなぁと。 唯一気を許せる相手とのやりとりなので。 もし、直樹の立場だったら、そうしたいだろうなぁって。 |