COLORS 〜第六話〜 back next index
しばらく歩き続けていると、川辺に出た。
「直樹、何処行くの?」
恐る恐る尋ねてみる。
「ん?別に」
チラっとだけ僕を見た直樹は、すぐに視線を前に戻す。
「ねぇ、何か話そうよ……」
思わず言ってしまった言葉。
不図、直樹が立ち止まる。
「……直樹?」
振り向いて、呼びかけると
「……ない」
小さく呟かれた言葉。
「何?聞こえない……」
「話すことなんて、ない」
キっと視線を上げた直樹の顔は
すごく
傷ついたような
寂しいような
辛いような
……
とにかく、守ってあげなきゃ、と思ってしまうような表情で。
「ごめん……」
謝ってしまった。
「何、謝ってんの?」
フっと笑う直樹も寂しそうで。
僕は思ったことを全て素直に吐き出した。
「だって……直樹、人と近づかないようにしてるみたいなのに……僕が傍にいてもいいって許可してくれた。それだけでも十分だったのに……ちょっと直樹に近づいたと思えたから、調子にのって直樹の事、色々聞きたいなんて……図々しすぎたなぁって。ズカズカ踏み込みすぎて、傷つけちゃったかなぁって」
シュンとしながら、俯いてしまった僕の頭に
フワッ……
と、優しく乗せられた手
「……怒ってないから」
一言だけ、
本当にその一言だけは
優しく囁かれて。
ハっと顔を上げたら
「それにしても……太一って、やっぱり俺の事好きなわけ?」
もう、いつものイジワル顔でニヤっと笑ってた。
仕方がない。
子供にやられっぱなしでいるわけにもいかないから、反撃に出よう。
「うん、好きだよ?」
コクっと頷いてニッコリ笑って言ってやる。
「……ぇ?」
慌てて引っ込められた手を、キュっと掴んでやる。
「だからさ、まだ一緒に居てもいい?」
小首を傾げて尋ねてやると
「……はぁ」
ガックシと肩を落として大きく項垂れた直樹は
「……これは卑怯じゃね?」
小さく呟いて、顔を上げた。
「海、行く?」
突然聞かれて
「なんで急に?」
聞き返すと
「やっぱり、初デートは海とか行っといた方がいいんじゃねェの?」
片方の口端を持ち上げてニヤリと笑う。
「初デート!?」
声が上ずってしまった僕に
「好きなんだろ?俺の事」
だったら、デートしようぜ?
笑ってウインクする直樹は
少し
心を開いてくれたような気がした。
だから
「うん!しよう!」
張り切って頷いた僕は
「……天然過ぎじゃねェ?」
呆れたように呟いた直樹の言葉を無視して
「直樹ってば、デートはいっつも海とか行っちゃったりしてるわけ?」
と尋ねれば
「いや?女が誘ってくる時はいっつも高級ホテルで食事した後スウィートルーム直行とか、町で声掛けられてそのままラブホとか……」
……!!
「はぁ?」
「だから、ある意味俺にとっては、これが初デート」
「へ……?」
「どうせなら、した事ない事経験しときたいし。ベタなデートとかやっておきたいかなぁって」
「直樹……」
寂しい……
直樹の心が

寂しいって叫んでる

僕には、その声が聞こえてきたんだ。
「よし!じゃあ、ベッタベタなデートでもしてみるか!相手が僕で申し訳ないけど」
そう告げると
「太一相手じゃなきゃ、一生出来なさそうだから」
初めてなんだ……俺のテリトリーに踏み込んできたヤツ。
それは、初めて聞けた、と言ってもいい直樹の素直な心の中。
それが聞けてやっとわかった。
僕が、選ばれた理由。
なんで、僕?と思ってたけど……
直樹には僕が適役だ。
やっぱり、リーダーはわかってる。
自分で言うのもなんだけど……
僕は、一度や二度拒否されたからって、簡単にひるんだりしない。
打ち解けたい、分かり合いたいって思う。
その為なら、躊躇ったりせず相手に向っていける。
僕の、この勢いじゃなきゃ……
直樹のバリアは破れない。
「よ〜し!じゃあ、海に出発〜!」
張り切って歩き出そうとしたら、クイっと引っ張られる。
「え?」
「……恥ずかしいから、手を離せ」
さっきまでのイジワルキャラは何処へやら。
ちょっと照れちゃったりしてる直樹がすっごく可愛く思えてきて……
苛めてやりたくなった。
今までの仕返しって事で。
「だってぇ〜ベッタベタなデートなら、手は握るだろ?普通」
ニッコリ笑ってやると、直樹は盛大な溜息をついて……
「……ったく。太一といると調子狂う」
と、ガシガシと空いている手で頭をかいた。
なんだか、直樹がちゃんと子供に見えてきた。
きっと、直樹が心を開いてきてくれてる証拠だと思う。
嬉しくて、自然と顔を綻ばせる。


その時だった。




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お久しぶりに更新!
直樹の孤独感と、太一に心を許していく過程を書いていきたいなぁと思ってたんですが。すっかりベタな内容で(笑)。
でも、気分だけは乗っちゃって(笑)、書き続けてたらスッゲー長くなったので、2話に分けました〜。なので、7話も更新。