COLORS 〜第九話〜 | back | next | index |
昨日、あのまま疲れきって眠ってしまった直樹はまだ起きてこない。 僕は、朝食の準備をして、起こしに向った。 「直樹、朝だよ?」 近づくと、苦しそうな直樹の顔。 「直樹?」 頬が紅い。 額に手を乗せる。 「やっぱり……熱出たじゃん〜」 「太一……?」 目を開けた直樹に 「寝てていいから。熱、出てる」 「平気……」 「な〜お〜き〜!!」 「……ごめん」 「よし。いい子だ!お兄さんの言う事はちゃんと聞きなさい」 「……だから、お兄さんに見えねぇんだって」 はぁ……と憎まれ口を叩くも元気がない。 「ちょっと、タオル冷やしてくるから待ってて」 「…………ありがと」 え? 今、ありがとうって言った? 「直樹」 「……何?」 「もう一回!」 「……はぁ」 「……あ、ごめん。嬉しくて調子にのりました」 「わかれば、いい」 ……基本、力関係は変わんないらしい。 とりあえず、僕はタオルと水を取りに向った。 直樹の心は回復しようとしてる。 上手くいく。 この時の僕は、そう思っていた。 目の前に 大きな闇が渦巻いている事を知らなかったから。 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ 熱も大分下がって、歩けるようになった直樹が家に帰ると言ったので、送る事にした。 「ここで、いいぜ?」 家の近くまで来ると、直樹がそう告げた。 「家まで送るよ。昨日の事もちゃんと両親に説明しないと」 「……悪いけど、此処までにして」 曇った直樹の眼。 僕に不安が押し寄せる。 「直樹……」 「ありがとな。マジ、助かった。色々……カッコ悪いトコも見せちまったけど……良かったよ。太一と色々話せて」 「カッコ悪くなんかないよ」 「また、逢ってくれるだろ?」 「もちろん!」 「約束……覚えてる?」 「海!だろ?覚えてるって!」 「……じゃあ、コレ」 そう言って、直樹は紙の切れ端を差し出した。 これ、部屋にあったメモ紙だ。 受け取って、見ると…… 「これ?」 「俺の携帯。気が向いたら、連絡してよ」 向かないなら、それでいいから。 ギュっと心臓を掴まれた気がした。 簡単には心の傷は癒せない。 直樹は、初めから諦める事に慣れ過ぎている。 「絶対、連絡する!」 力強く言うと 「そんなに、俺とデートしたいんだ?」 さっきまでとは全く違う、悪戯っ子の顔で笑った。 「直樹〜!」 「ハハッ!じゃな!太一、またデートしようぜ?」 そう言って、直樹は走っていった。 僕は…… なんだか、落ち着かなくて 胸騒ぎがして。 あの、曇った瞳が どうしても気になって 直樹の姿が見えなくなったと同時に 通常体に戻って、直樹の後を追った。 すり抜けて、家の中へと入る。 直樹は……どこだろう? すると 「何処に行ってたんだ!」 「何処だって良いだろ!」 「いい加減にしないか!彼女にどれだけ迷惑をかければ気が済むんだ!家庭教師だって、何人も断ってるそうじゃないか!」 「必要ねぇから断ってんだろ!偶にしか帰ってこねぇクセに口出すんじゃねぇよ!」 「お前は、私の後を継いで島田カンパニーを背負って立つ人間なんだぞ!!常にそれに相応しい行動を心がけろと何度いったら分かる!!」 「俺は……ッ」 「口答えするな!お前に選択肢はない!!」 「……ッ」 「彼女に謝るんだ!お前の母親だぞ!」 「……違う!」 「私の何がいけないっていうの!?貴方のお母様として、恥ずかしくないように常に努力しているのよ!どうして認めてくれないの!」 「……アンタが認めて欲しいのは俺にじゃないだろ!」 「いい加減にしないか!!」 バシっと大きな音がした。 同時に、ドンっとぶつかる音。 覗いた部屋には、頬を押さえたまま、壁際に座り込んでいる直樹の姿。 ……殴られたんだ すぐに分かった。 「お前が言う事を聞かないと言うなら……病院にいる直哉に後を継がせるしかないな」 父親の言葉に直樹の顔が強張った。 「……直哉は、関係ないだろ」 「お前の弟だ。関係ないわけないだろう。お前が言う事さえ聞けば、直哉はじっくりと治療を続ける事が出来るのにな。かわいそうな子だ。兄が反抗的なばっかりに……」 「……最低だな」 「お前が言う事を聞かないからだ。私だって、こんな事をしたいわけじゃない。自分の子供に対してね」 「……どう、すればいいんだよ」 「しばらくは、家から出るな。学校へも行かなくていい。家庭教師をつける」 「……」 「返事をするんだ!」 「…………はい」 吐き捨てるように返事をした直樹は、逃げるように階段を駆け上がって、部屋に閉じこもった。 酷い…… あんなに怪我だらけで 辛そうにしている直樹を見て 心配もしないで…… 何も聞かずに…… 脅すような真似をして…… 彼らはわかっていない 殴られた頬の痛みなんか比べ物にならないほどに 直樹の心が痛んでいる事を この環境全てが 彼の心を蝕んでいっている事を 折角、開いたと思った直樹の心が…… 頑なに鎖されていこうとしているのが 手に取るように分かった □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■ この家のシーンを書きたくて、2話連続になってしまいまして。 暗い背景ですけど…… それでも、生きていく意味を見出す事が、とても意義があるんだぞって事を。 ちゃんと表現していければいいなぁと思います。 太一の本領発揮です。 |